第283話 《要塞職人》のトア・マクレイグ

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WEB版とは違った展開で描かれる要塞村の日常!


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お楽しみに~


…………………………………………………………………………………………………



「クソがっ!」


 トアの魔力が放つ強烈な「圧」――それに吹き飛ばされないよう、踏ん張っているのがやっとのプレストンだが、徐々に慣れてきたのか、そのうちに真っ直ぐ立てるようになり、トアを睨みつける。


「後のない俺たちがここから成り上がるのに……おまえの首はちょうどいい土産になる!」


 槍を構え直したプレストンは、アーストン高原の大地を強く蹴りあげ、トアへと突進していく。


 速い――トアはそう感じた。


 パーベルの時はこちらを完全にみくびっていたため、まったく本気を出していないということは分かっていた。もともと、聖騎隊養成所の演習戦績は、自分やクレイブ、それにエドガーにも迫るほどの実力。これが、プレストン本来のスピードなのだ。

 鈍い銀色に輝く槍の先端――トアは、聖剣エンディバルでこれを難なくいなす。


「さすがにこれくらいはかわしてくるか」


 プレストンはすぐさま体勢を変えて、攻撃を加えようとする――が、それをトアは完全に読んでいた。


「そこだぁ!」

「何っ!?」


 金色の魔力で覆われた聖剣が、プレストンへ向けられる。咄嗟に、それを受け止めようとしたプレストンだったが、トアの強力な一撃の前に、自らのジョブで作りあげた槍は真っ二つにへし折れてしまった。


「ぐああああああああああああああっ!!!!」


 槍で魔力のすべてを防ぎきれなかったプレストンは、あっという間にミリアたちよりも遥か後方に吹っ飛ばされる。


 その一方的な攻防を目の当たりにしたミリアは、驚きのあまり声も出ない。


「そんな……プレストン先輩が……」


 ミリアはプレストンの実力を買っていた。

 大好きな兄クレイブをかどわかした(と思っている)、憎きトア・マクレイグを倒し、兄を故郷フェルネンドへ連れ帰るため、同期と比べても突出した戦闘力を持つプレストンに旅の相棒として白羽の矢を立て、彼が所属しているオルドネス隊へと加入した。


 実際、聖騎隊に戻ってからのプレストンは、最初こそ《槍術士》のジョブの力に頼り切っていたが、そのうち、自ら申し出て鍛錬を行うようになったり、対トア・マクレイグのため、自分なりに強くなろうとしている気概を感じていた。


 そこに、戦神と呼ばれた聖騎隊の大隊長ジャック・ストナーの血を引く自分と、他国から来たユーノにガルドという将来有望なふたりを加え、ようやく、兄への手がかりであり倒すべき相手――トア・マクレイグと再会した。


 しかし、そのトアは、しばらく会わないうちに、自分たちの手の届かないほどの存在となっていた。今だって、ペタンとその場に尻もちをつかないよう耐えるので精一杯だ。


「ミリア……フェルネンド聖騎隊がセリウスに対して敵対行動を取るなら――君たちをこのままにしておくわけにはいかない」

「うぅ……」


 剣先をミリアへと向けるトア――だが、その心境は複雑なものだった。


 プレストンはともかく、ミリアは小さい頃から知っている。兄が大好きで、仲良くしていたトアにはよくつっかかってきた。その一方で、同じ魔法を扱う資質を認められた者同士という縁もあるのか、エステルにはよく懐いていた。


『エステルさんなら、お兄様のお嫁さんになってもいいですよ?』

『えっ!? そ、それは……』

『ははは、エステルを困らせるんじゃないぞ、ミリア。俺もエステルも、トアしか見えていないんだからな』


 そんなやりとりをしていたことを、トアは今でも覚えている。

 現に、エステルは心配そうな顔でミリアを見つめ、ミリアはミリアでなんだかバツの悪そうな顔つきだ。


 膠着状態が続く中――不意に、トアとミリアの間に何かが投げ込まれた。

 それは煙幕弾だった。


「うわっ!?」


 紫色の煙が、あっという間に周囲を覆う。

 放ったのは敵側の兵士ユーノ。この機に乗じて、ガルドに気絶しているプレストンを回収させ、逃げようという魂胆らしい。


「くっ――このっ!!」


 トアは聖剣に魔力を込めると、強烈な突風を巻き起こし、煙を一掃。

 だが、視界が戻った時には、すでにミリアたちの姿はなかった。


「……逃げられたか」


 聖剣を鞘にしまうと、微妙な心情が吐息となって口から漏れた。

 しかし、ミリアのことは抜きに考えたとして、彼らは最初から自分に用があったわけではない。彼らの狙いは――グウィン族だった。




 戦闘終了後。

 トアはプレストンたちとのやりとりから、グウィン族がフェルネンド王国に狙われていることを告げた。


「バカな! なぜ我々が狙われなければならないのだ!」


 憤慨する戦士サージ。

 一方、静かに頷いたのは長のダルトーだった。


「ダルトーさん……あなたは、狙われる理由に心当たりがあるのでは?」


 トアがそう尋ねても、ダルトーは沈黙。

 そこはまだ語れないということらしい。


 ただ、このまま放っておくこともできないので、トアはグウィン族たちの新しい移動先として要塞村のある屍の森を勧めた。

 ここならば、何があってもすぐにトアたちが駆けつけられる。ハイランクモンスターが姿をほとんど消してからは、自然もより豊かになったし、暮らしやすい環境だろうと伝える。この提案を真っ先に支援したのは、意外にもサージだった。


「長……俺は今回の戦いで、己の不甲斐なさを実感しました。あのモンスターはおろか、後から襲ってきたフェルネンドの兵士たちにも、私は劣るでしょう」

「サージ……」


 プライドの高いサージが、素直に己の弱さを受け入れた。人としても、戦士としても成長したサージの姿を見て、長のダルトーは決断する。


「トア村長……」

「はい」

「しばらく……ご厄介になってもよろしいか?」

「問題ありません。行きましょう――屍の森へ」


 こうして、期間限定ではあるが、グウィン族は屍の森へ移住することが決定した。

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