第269話 終わりの夜
【お知らせ】
「無敵の万能要塞で快適スローライフをおくります ~フォートレス・ライフ~」ですが、本作の書籍第2巻が6月10日に発売されます!
8万文字以上の大改稿!
WEB版とは違った展開で描かれる要塞村の日常とちょっとしたトラブル(?)がお楽しみいただけます!
さらに!
カクヨムでは作品フォロワーへSS3本を配信予定!
カクヨムで作品をフォローしてくださっている方へ、2巻発売記念SS3本を5月頭からだいたい2週間ごとにメール配信していきます!
ここでしか読めないオリジナルエピソード×3です!
また、1巻同様、カバーイラストやキャライラストもツイッターで発表していきますので、そちらもお楽しみに!
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エステルたちとのダンスを終えたトアは、すっかり緊張もほぐれ、参加していた貴族たちに挨拶をして回った。
ちなみに、女子たちの周りにはケイス第二王子に、後半から合流したバーノン第一王子、さらには領主で大貴族のチェイス・ファグナスも加わるという豪華な顔ぶれが揃い踏み。そのおかげもあってか、利益目的で近づこうとする若い貴族たちはただ眺めているだけしかできない状態だった。
その舞踏会も終わりが迫り、近隣諸国からの参加者は最後の挨拶を経てそれぞれの領地へと戻っていった。
舞踏会が終わった後、トアたちは城に一泊することとなっていたため、女子たちはそれぞれ用意された部屋へと向かった。
「楽しかったわね、舞踏会」
「私は最初から最後まで緊張しっぱなしだったけどね……まだまだ、こういう華やかな舞台には慣れないわ」
「私もクラーラさんと同じ感想です。……でも、機会があれば、また参加したいと思います」
「わふっ! 私も同じです!」
要塞村女子組にとっても、今回の舞踏会は得る物が多かったようだ。
「明日の朝には要塞村に戻らないといけないから、今日はそろそろ休まないとね」
長時間にわたり、重たいドレスを着ていて体が硬くなったのか、エステルが伸びをしながらそんなことを言う。
「そうだね。みんな、くれぐれも寝坊しないように」
「大丈夫よ。――って、トアはまだ寝ないの?」
寝室として用意されている部屋とは反対方向へ歩きだそうとしていたトアへ、クラーラが声をかけた。
「ああ、実はこの後、バーノン王子とケイスさんの三人で、ちょっと話すことになっているんだ」
「王子様ふたりとお話……凄いですね!」
瞳をキラキラと輝かせるジャネット。横で聞いていたマフレナは、あまり凄さが分かっていないようだったが、ジャネットの反応を見て「やっぱりトア様は凄いんですね!」と同じように瞳を輝かせていた。
女子たちと別れたトアは、指定された部屋へと向かった。
次期国王の呼び声高いバーノン王子の私室ということで、兵の数も多く、警備は物々しかった。それでも、事前に王子がトアのことを兵たちに伝えていたらしく、トアの姿を見ると「こちらです」と案内をしてくれた。おかげで、広い城内にも関わらず、迷わず最短距離で目的地に到着できた。
トアはノックをし、返事を待ってから部屋へと入る。
「待っていたよ、トア村長」
「早かったわね、村長」
発光石が埋め込まれた照明器具からの淡い光と、月明かりに照らされた部屋では、すでにバーノンとケイスが待っていた。
「さあ、こっちへ来て、要塞村の話を聞かせてくれ」
「分かりました」
落ち着いた感じのするバーノンだが、要塞村の話をトアから聞こうとする時は、心なしか浮かれているというか、はしゃいでいるようにも見えた。
その後、バーノンが用意していた果実ジュースを飲みながら(王子たちはバーノン秘蔵のお酒)、要塞村の誕生から現在に至るまでの、およそ二年以上にわたる活動の記録を詳細に語っていった。
要塞村発展の軌跡を楽しそうに語るトア。
その様子を眺めていたバーノン――やがて、彼は自身の考えを改める。
当初、バーノンは要塞村を国で管理する方針だった。
数人規模の小さな集落であるなら問題ないが、戦闘力の高い伝説的種族、魔界の住人、さらにはドラゴンに精霊――これらの種族をまとめあげることがどれだけ大変なことか、トアの話を聞いて、バーノンは再認識した。
同時に、そうした種族がうまくまとまっている背景には、トアの存在が想像以上に大切なものであると実感する。彼のこうした人柄を慕い、村民たちは平和な暮らしを維持できているのだ、と。
ここに、国の力を介入させるべきではない。
たったひとりの少年がまとめあげている現状は、脆く危険であるというバーノンの考えは大きく転換した。――この少年だからこそ、要塞村は要塞村でいられるのだ。
そして、それはケイスも同じだった。
兄バーノンの性格を熟知しているケイスは、トアを呼びだした時点で、バーノンが要塞村を国で管理する意向を持っていると見抜いていた。同席したのは、次期国王であるバーノンにトアが意見できそうになかったら、自分がフォローを入れようとの考えからだった。
しかし、結果として、トアはバーノンを意図せず説得していた。
自分たちの生活が脅かされない限り、武力を用いることはない。これからも、今みたいに平穏に暮らしていければ、それ以上望むものはない。トアの会話の端々に、そうした意思を感じ取ったバーノンは、政治的な話を一切封じ、己の興味関心だけで、要塞村の話に聞き入っていた。その様子を見て、ケイスはホッと安堵のため息を漏らす。
ただ、そんな中でバーノンの関心を強く引いたのは、旧帝国が残した鉄道だった。
「鉄道か……実に興味深いな」
「兄さんが鉄道に?」
「私というより、この国にとってだ」
それから、バーノンは自身が思い描く国家運営の構想の中に、国内で鉄道を整備し、物流の向上を目指すというものがあった。鉄道の運用は、その構想を実現させるのに効果的なものであると考えたのだ。
「ファグナス家にも相談して、一度その鉄道を視察したいな」
「でしたら、近くに獣人族の村があるので、そこへ立ち寄ってみてください」
「獣人族の村? なぜだ?」
「前に行った時、俺が調査をお願いしていたので。こちらからも声をかけておきますが、村長のライオネルさんはきっと協力してくれるはずです」
「っ! あ、あの白獅子のライオネルとも知り合いなのか……」
さすがにここまで来ると、バーノンの顔も引きつる。
やはり要塞村は、今のままであるべきだ。下手に手を加えるよりも、その方がお互いのためになる。バーノンはそう結論を出した。
「鉄道調査の件について、後日改めてファグナス家と相談しよう」
「もし、何かあったら俺たちも手伝いますよ」
「ああ、その時はよろしく頼むよ」
付き合いとしては、これくらいの距離感がいいのかもしれない。
――と、バーノンはあることを思い出した。
今回、トアを呼びだしたのは、これを伝える意味もあったのだ。
「トア村長……今から話すことは、内密にしてもらいたい」
「な、なんですか?」
真面目なトーンになったバーノン。
ケイスも、空気の変化を察して表情を引き締める。
「ここ最近、セリウス王国との国境付近で軍を展開している国がある」
「えっ? そ、それはつまり……」
「セリウスに敵対する勢力だろう」
「一体どこなのよ、その国は。というか、妙に落ち着いていない?」
国の未来に関わる事態だが、それを語るバーノンに焦りや不安の素振りは見られない。
「それは……相手がすでに虫の息だからだ」
「虫の息? と、いうと、すでに国力が低下している国――まさか!?」
トアの頭に浮かぶある国の名前。
それは――
「相手は……フェルネンド王国?」
恐る恐る尋ねると、バーノンはゆっくりと首を縦に振った。
「フェルネンド王国がセリウスに向けて聖騎隊を? ……正気とは思えないわね」
これにはケイスも眉をひそめた。
「目的は不明だが、セリウスとの国境付近にフェルネンドが兵を集結させつつあるのは分かっている。……こう言ってはなんだが、今のフェルネンドがセリウスへ攻撃を仕掛けるなんて理解に苦しむ。ディオニス王は何を考えているのか……」
ディオニス・コルナルド。
かつて、エステルを我が物にしようと企んだ、フェルネンドの貴族。今は、前国王の娘であるジュリア姫と結婚し、王となったが、それ以降、フェルネンドの評判は瞬く間に地に落ちていった。
そのディオニス王は、何を企んで兵を向けるのか。
「念のため言っておくが、君たちをこの戦いに巻き込もうとは考えていない。ただ、君は元フェルネンド国聖騎隊に所属していたと聞いたので、一応報告をしておこうと思ってな」
「…………」
今となっては、聖騎隊に未練はない。
ただ、今も聖騎隊に残っていると思われる人物の中には、クレイブの妹のミリアなど、その安否が気になる存在もいるにはいる。
「……バーノン王子」
「なんだ?」
「もし、戦局が大きく動くようなことがあれば……また教えていただいてもよろしいでしょうか」
「構わない。その時は使いを送ろう」
その約束を取り付けて、真夜中の会談は終了。
フェルネンドの不穏な動きを耳にしたトアだが、今は村のことだけを考えようと、明日から戻る村長としての仕事に意気込んでいた。
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