第243話 森の奥に眠るモノ

 獣人族の村を出て、森を歩くことおよそ三十分。


「結構深くまで入り込んだわね」

「わふっ……この辺りは狩りでもあまり訪れたことのない場所ですね」

 

 以前ほど頻繁には行かなくなったが、農場や牧場ができる前は、よくふたりでコンビを組んで狩猟に出ていたクラーラとマフレナ。しかし、そんなふたりでも、今歩いている場所はほとんど立ち入ったことのない場所だという。


「なるほど、おふたりでも立ち入ったことのない場所となれば、何が眠っていてもおかしくはありませんね」

「? どういうことだ、フォル」

「特にクラーラさんは怪しいモノを発見した場合、即座に殲滅行動に移るでしょうから」

「……人を戦闘狂みたいに言わないでくれるかしら?」

「そう語りながら剣先をこちらに向けるその顔はまさに――」


 ガン!

 言い終えるよりも先に、クラーラの鉄拳がフォルの頭部を吹っ飛ばした。


「やれやれ、呑気なものじゃな」

「あはは……」


 若干呆れ気味のローザに苦笑いするトア。

 そんないつも通りのやりとりが続く中、ウェインが「そろそろ目的地に到着をします」と報告をくれた。

 と、その時、


「きゃっ!?」


 突如クラーラが何かに躓いて転倒する。


「いったぁ~い……」

「大丈夫か、クラーラ!」

「わふふっ!? 怪我はないですか!?」


 トアとマフレナが慌てて駆け寄るが、大事には至らなかったようで、「平気よ」と軽く手を振ってふたりの心配に応える。


「なんだか地面に硬い物があって……」

「硬い物? ――これか!」


 トアが発見したのは木材と鉄を組み合わせて造られた道のような物だった。すると、ウェインがその物体を指差して告げる。


「これが相談したかった物なんですよ」

「この道のこと?」

「ええ。だからこの辺りにボスがいるかと――あ、いたいた」


 ウェインの視線の先には、腕を組んで地面を凝視するライオネルの姿があった。

 そこでライオネルと合流し、詳しい事情を聞くことに。

 熱心にトアたちを見つめるライオネルだが、やはりシャイな性格が災いして声がめちゃくちゃ小さい。誰も聞き取れない中、ウェインが通訳をしようとした時だった。


「なるほど。分かりました。ちょっと調べてみましょう」


 トアはすんなりとライオネルの言うことを理解していた。


「えっ!? トア、ライオネルさんの言ったこと聞こえたの!?」

「わふっ!? 私には聞こえなかったです!」

「僕のサーチ機能でさえ、詳細な情報を得られなかったのに……」

「これもまた、神樹の見せる奇跡かのぅ……」

「……大袈裟じゃない?」


 トアは何気ないふうに語るが、その場にいた他のメンバーは誰も聞き取ることができなかったため、驚愕。リスティや、言葉が聞こえるウェインさえ驚いていた。

 一方、久しぶりに自分の声を聞き取れる人物の登場に、ライオネルは喜び、トアと熱い抱擁を交わす。

 それが終わると、ようやく本題へと突入した。


「恐らく、これは鉄道ですね」

「「「「鉄道?」」」」


 クラーラ、マフレナ、リスティ、ウェインの四人はその意味が分からないらしく首を傾げていた。フォル、ローザ、ライオネルの三人は鉄道がどんな物か知っているため、「ああ、あれのことか」と合点がいったらしい。


「……なあ、フォル。帝国って確か、大陸横断鉄道を計画していたよね」

「ええ。帝国はどの国よりも進んだ技術力がありましたからね。連合軍との大戦が始まる遥か以前に、魔鉱石をエネルギー源とした機関車を作りあげて運行していました。ただ、戦火が激しくなったのでやむなく中止となりましたが」

「なら、ここに敷かれているのはその時の名残?」

「その可能性は極めて低いと思われます」


 元帝国の魔法兵器であり、この屍の森にある無血要塞ディーフォルで長らく暮らしていたフォルは、当時のことを思い出しながら内部事情を話し始める。


「ハイランクモンスターがうろついているこの森では、ダイヤを守って運行など不可能ですからね。帝国鉄道は都市部を中心に設置されました」

「なら、どうしてこんな森の中にその鉄道とやらがあるのよ」


 鉄道がどういう物なのか理解していないクラーラでも、フォルの語った内容にある違和感には気づいたようだ。


「それについては僕にも分かりません。なので、正直驚いています」

「じゃが、大方の予想くらいはつくじゃろ? ――こいつがなんの目的で敷かれていたのかくらいは」


 ローザから指摘されるも、フォルは無言のまま首を横に振る。

 屍の森に残された謎の廃線についての情報はそこで途絶えてしまった。


「…………」


 トアは再び線路へと視線を落とす。

 東西に延びる線路は、その端が見えない状況だった。


「この線路を少し追ってみませんか? もしかしたら、その先に何かあるかもしれませんし」

「まあ、このまま放置しておくって言うのもちょっとねぇ」

「わふっ! 私は賛成です!」

「ワシも興味が湧いてきた。少し調べてみよう」

「それがよさそうですね」

「…………」

「ボスも手伝うと言っています。もちろん自分も協力します」

「私も♪」


 ――と、いうわけで、帝国の残した廃線調査のため、ここからは二手に分かれることとなった。


 東側はトア、フォル、クラーラ、リスティ。

 西側はローザ、マフレナ、ライオネル、ウェイン。


 ローザの使い魔を介して互いに情報を交換しつつ、二時間を目途に調査を行うこととなったのだった。

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