第244話 帝国鉄道の謎
二手に分かれ、東に延びる線路を進むことになったトアたち。
長く続く線路には雑草が好き放題生えており、それが長い間この場に放置されていたことを証明していた。
「特に目立った物は見当たりませんね、マスター」
「…………」
「マスター?」
「! あ、いや、ごめん。ちょっと考え事をしていて」
「それってこの線路に関すること?」
クラーラに尋ねられ、トアは静かに首を縦に振った。
「何か不可解な点がありましたか?」
「いや……まだ調査途中だからなんとも言えないけど、これってどことどこを結んでいた鉄道だったのかなって」
帝国の最新兵器だったフォルにさえ知らされていなかった帝国鉄道。それがどのような役目を果たしていたのか、現状、知っている者は――
「あっ」
トアの頭にある閃きが浮かぶ。
「どうかしましたか、マスター」
「帝国鉄道の件だけど……アイリーンは知っていないかな?」
「アイリーン様ですか?」
「ああっ! 確かに! アイリーンって帝国でも大貴族って部類に入る名家の出身だったわよね!」
地下迷宮の看板幽霊娘ことアイリーン・クリューゲル。
彼女は帝国でも特に力を持ち、王家にも発言力があったとさえ言われるクリューゲル家に生まれながら、戦争反対を主張してディーフォルに幽閉されていた過去がある。
帝国でも屈指の名家出身であるアイリーンなら、この鉄道について何か聞かされているかもしれない。
「なら、帰ったらアイリーンに話を聞きにいかないとね」
「うん……」
「? マスター、まだ何かありましたか?」
「いや、もしかしたらこいつも何かに利用できるかもしれないなって」
「「鉄道を?」」
フォルとクラーラの声が重なったちょうどその瞬間、先行して線路の先を調査しにいったリスティが大きな声でトアたちを呼んだ。
「みんな~! ちょっとこっちに来て~!」
「リスティ様が呼んでいますね」
「行ってみよう」
遠くで手を振るリスティのもとへ向かって、三人は歩を速めた。
リスティのいた場所にあったのは駅舎だった。
「へぇ~……初めて見るわね」
「なんだか不思議……村にある家とは全然違う造りなのね」
鉄道絡みの情報がないクラーラにとって、初見となる駅舎に興味津々といった様子だった。
「結構大きな駅舎だな」
「ですね。車両を整備するための車庫まで備えつけられていますね」
一方、トアとフォルは鉄道に関する情報がないか、早速二手に分かれて駅舎や車庫の中の調査を開始する。
トアとクラーラは駅舎の中へと入っていった。
「さすがに中は荒れているわね」
「百年以上放置されていたはずだから、さすがにね」
窓ガラスは割れてほとんどなくなっており、デスクやイスもあちこちに転がっていてひどい有様だった。
「……ひどく荒れている以外は特に何もないかな」
「そうみたいね」
駅舎の中では収穫ゼロ。
関連する資料すら見つからなかった。
その後、フォル&リスティ組とも合流するが、そちらも特にこれといった発見はなく、調査は空振りに終わる結果となった。
「恐らく、この駅舎は始発駅のようなものでしょう」
「ここで線路が途絶えているから、そう考えるのが妥当かな。この駅から出発して、どこかへ向かい、そしてまた戻ってくる――こんなところか」
「こうなると、ローザ様たちの方で何か情報を得ている可能性が高いですね」
「線路をたどれば目的地に着くわけだしね」
夕暮れも迫ってきていることから、トアたちはここで調査を一旦切り上げ、合流ポイントを目指して駅舎をあとにした。
◇◇◇
戻ってきたローザたちと合流を果たすと、獣人族の村へ戻る道中で歩きながら調査の報告を行う。
だが、期待していたローザたちも手ぶらの状態だった。
というのも、
「あの線路じゃが……途中でなくなっておった」
「えっ? 線路が?」
「しばらく進んでいると、線路の破損がひどくなって、そのうち使用されている木材が粉々になってしまっていたのです」
ローザとウェインからの報告を受けたトアは「ふぅ」と息をついた。
「まだ詳しく調査を続ければ、何か分かりそうなんだけど……」
要塞村か地下古代遺跡を調査中の冒険者たちを数名派遣しようかとも考えたが、あそこはシャウナを中心として行われている発掘作業で手いっぱいだったはず。とてもじゃないが、こちらの森の調査まで手が回らないだろう。
すると、トアの手にポンと手を置く人物が――ライオネルだった。
「…………」
「えっ!? 本当ですか!?」
「…………」
「その試み……要塞村としても協力をします!」
何やら盛り上がっているトアとライオネル。
だが、話の内容を聞き取れないクラーラたち他のメンバーはどういった事情になっているのかさっぱりだった。
「トアよ。ライオネルとの会話内容を伝えてもらいたいのじゃが」
「あっ! そ、そうですね」
ようやく周りがついてきていないことを察したトアは、ライオネルから受けた提案について語る。
「獣人族の村から人を募って、この周辺を詳しく調べてみるそうです。それで、何か発見があったら、要塞村にも連絡をくれる、と」
「そういうことか」
「もしかしたら、地下古代迷宮とのつながりを発見できるかもしれませんよ?」
「本当にそうなってくれたら嬉しいんじゃがな」
その後、フォルとクラーラにも事情を説明し、周辺の調査については当面の間この村の獣人族たちへ一任することとなった。
その後、獣人族の村へ戻り、宴会を満喫。
それが終わると、村で一泊をして次の日の朝に戻る――当初の予定通りに進行していたのだが、早朝に予定外の事態が起きる。
「トア村長!」
朝、トアを迎えに来たのは冥鳥族でケイスの助手をしているアシュリーだった。自慢の羽で空を飛び、トアたちへナタリーが待っていることを告げに来たのだ。
「ホールトン商会の協力があれば、市場も想定以上のものができそうです。あ、宿屋も造っていかないと」
「やれやれ……これからも忙しくなりそうじゃのぅ」
「マスターには僕がついていますから安心してください」
「私だっているわよ!」
「わふっ! 私もいますよ、トア様!」
「私も微力ながら協力いたします、トア村長」
「アシュリーまで……ありがとう、みんな」
頼れる仲間たちに囲まれて、トアと要塞村は今日も賑やかに一日をスタートさせるのだった。
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