第217話 贈り物

 季節は冬真っただ中。


「今日も寒いなぁ……」


 白い吐息を眺めながら、トアはポツリと呟く。するとそこへマフレナがやってきた。その後ろには、マフレナが世話をしている要塞守護竜シロの姿もある。どうやら散歩中のようだ。

 

「トア様! おはようございます!」

「おはよう、マフレナ。今日も元気だね」

「わふっ!」

「ガウガウ!」

「ははは、シロも元気いっぱいだな」


 自分もいるぞ、と顔を寄せてくるシロに対し、トアは笑いながら鼻の頭を撫でていた。

 一見楽しそうな光景だが、マフレナにはしかと見ていた――トアが寒さに震えているところを。



  ◇◇◇


 

「わふぅ~……」


 シロを小屋に戻してから、要塞村の廊下を歩くマフレナは悩んでいた。

 寒がっているトアをなんとかしてあげたい。しかし、自分には戦う力はあってもトアを温めてあげることはできない。可能性があるとすれば自慢のモフモフ尻尾だが、常にトアをくるんでいるというわけにはいかない。

 考えれば考えるほど、名案は浮かんでこない気がする。

 その時、マフレナのすぐ脇を小さな子どもたちが駆けていった。元気な笑い声を添えて走っていったのはシスター・メリンカが連れてきた子どもたちだ。


「わふ?」


 マフレナが振り返ると、そこはちょうど教会だった。トアがドワーフ族たちと一緒に造ったそこには、先ほど走っていた子どもたちとシスター・メリンカが住んでいる。

 気がつくと、マフレナは教会の扉に手をかけていた。銀狼族であるマフレナに信仰心などない。だから、教会へは祈りを捧げにきたわけでなく、子どもたちの体を包んでいた手袋やマフラーについて尋ねに来たのだ。


 走っていった子どもたちはとてもあったかそうにしていた。あれと同じものを、トアにもプレゼントできないかどうか相談しに来たのだ。


 教会内に足を踏み入れると、まず目に入ったのは礼拝堂。

 太陽の光を浴びて美しく輝くステンドグラスにしばらく見入っていたが、すぐに奥の部屋から人の気配を感じてそちらへと歩を進めていく。


「わふっ……失礼します」


 静かに扉を開けると、そこは教会に暮らす子どもたちやシスターの私室になる。

 探していたシスターは暖炉の前にいた。

 大きなイスに腰かけて、編み物をしており、普段はかけないメガネを着用している。


「あら? マフレナさん?」


 室内に入ってきた人物の気配を感じ取ったシスターが、マフレナの方へと視線を送る。いきなり目があったマフレナは尻尾の先をピーンと伸ばすほどビックリしていた。


「何か御用かしら?」

「あ、え、えっと……シスターさんは編み物が得意なんですか?」

「え? ――ああ、これ? 昔からやっているのよ。そういえば、小さい頃のトアやエステルにも作ってあげたわね」

「わふっ!」


 シスター・メリンカの言葉を受けたマフレナは瞳を輝かせ、尻尾を全力で振りながら駆け寄っていった。



  ◇◇◇



 それから数日後。


「絶対に変よ!」


 トアの私室を訪れたクラーラが強い口調でトアに訴える。


「な、何が?」

「最近のマフレナよ! 私といつもやっている丸太スクワットまで断って、何か裏でコソコソやっているみたいなのよ!」

「そんなことしてたの……?」


 丸太スクワットの詳細が気になるところではあるが、あのマフレナがクラーラとの約束を断ってまで何かをしているというのはどうにも信じられない。


「う~ん……こうなると、直接マフレナに聞くしかないみたいだね」

「そうね。もしかしたら、丸太スクワット以上に効果的な足腰のトレーニング方法を見つけたのかもしれないし」

「……それはないと思うし、仮に見つけたとしたら嬉々としてクラーラに教えると思うよ」


 間違いなく、トレーニング絡みでないのは確かだ。

 ともかく、マフレナの異変の詳細を知るために、ふたりは早速本人のもとへと――向かおうとしたのだが、マフレナの姿はどこにも見当たらなかった。


「おかしいな……どこにいったんだろう」

「もしかして狩りにでも行ったのかしら?」

「まあ、その可能性はなきにしも――うん?」


 トアとクラーラが悩んでいると、そこにひとりの少女がやってきた。シスター・メリンカが連れてきた子のひとりだ。


「マフレナお姉ちゃんを探しているの?」

「あ、ああ……どこにいるのか知ってる?」

「お姉ちゃんならシスターといるよ」

「「シスターと?」」


 珍しい組み合わせに、トアとクラーラは顔を見合わせた。

 ともかく、真相解明のために要塞村内の教会へと行ってみる。礼拝堂を抜け、シスターたちの私室へノックしてから入室すると、


「わふっ!? トア様にクラーラちゃん!?」


 そこではシスターに教わりながら編み物をするマフレナの姿が。


「マフレナ? 編み物をしていたのか?」

「は、はい……シスターさんに教わりながら、少しずつ」

「……誰にあげるつもりだったの?」


 ニヤニヤしながらクラーラが問いかけると、クラーラは「わふっ!?」と驚いた後、手にしていた完成品をトアへと差し出す。


「と、トア様に……」

「! お、俺!?」


 もちろん、寒そうにしているトアへのプレゼントだった。


「あ、ありがとう。つけてもみてもいいかな?」

「ど、どうぞ!」

「どれどれ――うん! あったかいよ、マフレナ!」

「わふっ!! よかったです!!」

 

 送った方も送られた方も、はにかんだ笑顔で何とも言えない空気を醸し出している。


「よかったですね、マフレナさん」

「わふっ! これもシスターのおかげです!」

「……次は私も習おうかしら」


 手を取り合って喜ぶマフレナとシスターの横で、クラーラは静かに対抗心を燃やしていたのだった。




「わふっ! 自信がついたので次はシロちゃんのセーターを編みます!」

「あの子に合うサイズのセーターが完成する頃にはもうあったかくなっているんじゃない?」






【 あとがき 】


いつも「無敵の万能要塞で快適スローライフをおくります ~フォートレス・ライフ~」をお読みいただき、ありがとうございます。


本作はカドカワBOOKS様より、2月10日に書籍第1巻が発売されます。これも読んでいただいたみなさんのおかげです。本当にありがとうございます。


現在、ツイッターにてキャライラストや予約情報などを掲載中です。

これからも要塞村の面々をよろしくお願いいたします。<(_ _)>


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