第216話 寒い冬のアツい新スポット

 それはちょっとしたミスから生まれた。




 とうとう要塞村と獣人族の村を結ぶ橋が完成し、ふたつの村は大いに沸いた。

 お披露目会は領主ファグナスや近隣の町からも人を集め、後日に行われる運びとなった。そのため、大役を終えたドワーフたちが要塞村へと戻ってきたのである。


 これでまた要塞村のメンバーが勢揃い――となったわけだが、思わぬところで橋建設の余波が出ていた。


「え? モノ作りがしたい?」

「そうなんです」


 帰ってきて早々にトアの部屋を訪れたのはジャネットだった。橋の件についての報告も兼ねて、ある相談を持ってきたのだ。


「なんというか……今回の建設は私たちにとって過去最大級の大掛かりなものでした。さらに鋼の山からお父さんたちも援軍にきたということもあって、ゴランさんたちをはじめとする若手のドワーフは持てる力のすべてを発揮して建設に当たりました」

「この前の食事会の時にガドゲルさんとも話したけど、若い人たちが情熱をもって仕事をしているって褒めていたよ」

「それは嬉しい評価なんですが……」


 なんだかバツが悪そうに視線をそらすジャネット。

 何やら問題が発生しているようだ。


「その時に燃え盛ったモノづくりに対する情熱が未だ冷めていない状態で……」

「それで新しい何かを作りたい、と」


 トアが言うと、ジャネットは静かに頷いた。

 

 実は、トアはファグナスからある依頼を受けており、それをジャネットたちドワーフ族へ依頼する予定だった。

ただ、大工事を終えた直後だったため、もう少し後からその話題を出す予定のつもりであったが、これならば今すぐに伝えてもいいかな、と切りだそうとした時だった。


「トア、ちょっといい?」


 クラーラがトアの部屋へとやってきた。


「あ、ジャネットの報告中だった?」

「もうほとんど終わったので私は大丈夫ですよ」

「ああ……でも、ジャネットの意見も聞きたいかな。ちょっと問題のある場所があって」

「「?」」


 クラーラの用件を確認するため、トアとジャネットはその問題のある場所へと向かった。



 ◇◇◇



「こ、これは……」

「あら~……」


 クラーラに案内されたのは夏場にプールとして使用されている場所だった。

 普段ならば夏が終わるとビーチボールやらハンモックやらが片づけられ、水も抜かれているはずなのだが、なぜか一杯に満たされていた。


「一回、お風呂のお湯を間違ってこっちに流しちゃったらしくて、それから抜くのを忘れていたらこんなふうになっていたのよ」


 水で満たされたプールは寒さでカチカチに凍りついていたのだ。


「そういえば、ここは暖房用の魔鉱石ランプが設置されていませんでしたね」


 以前、ジャネットは寒さに弱い王虎族のために、要塞内の廊下などに照明用として設置しているランプに、熱を発する魔鉱石を埋め込んで暖かく過ごせるような工夫が施されている。だが、このプール周辺は冬になるとあまり人が近寄らないので設置していなかったのだ。


「とりあえず、氷を溶かしましょうか」

「エステルを呼んでくる?」


 ジャネットとクラーラがそんな話をしているが、トアにはある閃きが走っていた。


「いや、それよりも……ジャネット」

「はい?」

「ドワーフ族のみんなを呼んできてくれないか? ――一仕事やってもらいたいんだ」



  ◇◇◇



 トアが凍てついたプールにドワーフ族を収集してから三日後。

 呼び出されたのはクラーラ、エステル、マフレナ、ローザの四人。彼女たちを出迎えたのはトア、フォル、そしてジャネットを含むドワーフ族の若者たちだ。


「一体何があるの、トア」


 事情をまったく説明されていないエステルは困惑気味だった。他の三人も同様に、ここで何をするんだ、という表情でトアを見つめている。


「今回は誤って水を溜めてしまい、凍ってしまったプールの活用法を思いついたんで、それをお呼びしたみなさんに試してもらおうと思ってね」


 トアが丁寧な口調で説明すると、プールの上に敷かれたシーツをドワーフの若者たちが協力してどかす。その下にあったのは――変わらず凍ったプールだ。

 まず口を開いたのはクラーラだった。


「前に見た時と変わっていないじゃない。しいていえば、プールサイドに手すりのようなものがついたくらいだけど……それで何をしようっていうのよ」

「これはあくまでも補助的な役割を果たすものさ。本命は――こっちだよ」


 不満げなクラーラに対し、トアは見せつけるようにして凍ったプールの表面へと足を踏み入れた。普通ならば滑って転ぶところなのだが、


「!? 嘘っ!? めちゃくちゃ綺麗に滑ってる!?」

「ほぉ……見事なものじゃな」


 驚くクラーラに感心するローザ。

 トアはそんな反応を楽しむかのように、スイスイと氷の上を滑っていく。その光景を目の当たりにしたエステルが思い出したように叫んだ。


「あれって……スケートね!」

「スケートってなんですか?」

「靴の底に特注の刃をつけて氷の上を滑るの。スピードを競ったり、踊るように滑ったり、いろいろな競技にもなっているわ」

 

 エステルがマフレナへ解説をしていると、横で聞いていたローザがポンと手を叩いた。


「凍ったプールを利用してスケートをしようというわけか、ジャネットよ」

「そうです。……それにしてもトアさん上手ですね」

「ならば僕も行きましょう。マスターほどではありませんが、実技指導ができるくらいには滑れるはずです」


 トアに続き、今度はフォルが氷の上へ。ちなみに、この時はジャネットが特別に改装したスケートモードになっており、魔力を操作することでサバトンに内蔵されたブレードを外へ出すことができ、あのように滑ることができるのだ。


「面白そう! 私もやってみたい!」

「そう言うと思って、クラーラさんのサイズに合わせた靴も用意してあります」

「さっすがぁ♪ ――て、かなりの数の靴があるわね。これだけの量を作るのは大変だったんじゃない?」

「いえ……なんだかヤル気が漲って仕方がなかったので問題ありませんでした」

「そ、そう」

「それより、靴をどうぞ」


 ジャネットから靴を手渡されると、早速クラーラは氷の上に出るが、


「きゃっ!?」


 すぐにバランスを崩して転んでしまう。


「おやおやおやおや~? どうしたんですか~? クラーラ様~? もしかして滑れないんですか~?」


 クラーラが滑れないことを知るや否や、ここぞとばかりに煽り倒すフォル。


「ぐぬぬっ……これくら、い――ひゃっ!?」


 力を入れて立ち上がろうとすれば、足元がツルンと滑ってしまう。体重を支えつつも適度にバランスを保てるように力加減をするのは、慣れていないとかなり難しい。


「大丈夫、クラーラ?」

「え、ええ、なんとか……て、エステルも滑れるの!?」

「聖騎隊の時に訓練の一環でやった経験があったのよ」


 そう言って、クラーラの手を引き起こしあげる。


「私も最初は転んでばっかりだったわ。滑るにはコツがいるし、それを習得するのはなかなか大変なの」

「なるほどね」

「わふ~♪」

「……同じく初めてのはずのマフレナはすでにフォルよりも滑れている感じなんだけど?」

「あの子はほら……本能で滑っているところがあるから」


 根拠も何もないのになぜか深く納得できる答えだった。




 試し滑りをしたところ、特に問題はなさそうだったので、要塞村スケート場は村民たちに解放された。子どもや大人が入り混じり、尻もちをつきながら、ほとんどが初体験となるウィンタースポーツに熱中している。


「冬場のプールの活用方法が決まったね」

「だったら、もう少しこの辺りを整備しておかないといけませんね」


 要塞村冬の新スポットは、まだまだアツい賑わいを見せそうだ。





【 あとがき 】


いつも「無敵の万能要塞で快適スローライフをおくります ~フォートレス・ライフ~」をお読みいただき、ありがとうございます。


本作はカドカワBOOKS様より、2月10日に書籍第1巻が発売されます。これも読んでいただいたみなさんのおかげです。本当にありがとうございます。


現在、ツイッターにてキャライラストや予約情報などを掲載中です。

これからも要塞村の面々をよろしくお願いいたします。<(_ _)>


キャライラストや予約情報などはこちらから! 

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