第60話 道中整備
要塞村集会場。
クレイブたちとの再会を果たしたトアは、そこで彼らからフェルネンドの現状を聞き、複雑な心境であった。
自分を無実でありながら罪人に仕立て上げた国――だが、それでも幼少期を過ごした国ではあるし、養成所に入るまで孤児院で暮らしていた自分たちに優しく接してくれる者もいたのは事実だ。
聖騎隊を抜けたクレイブたちの事情を聞くため、トアやエステルと共に話し合いの場に参加していたローザとシャウナも王国の現状を耳にして嘆いていた。
クレイブたちはローザやシャウナの正体を知らないため、最初は「誰だこの幼女と綺麗なお姉さんは」みたいな反応だったが、本物の《枯れ泉の魔女》と《黒蛇のシャウナ》だと知るとズッコケそうな勢いで驚いていた。
「ワシらが八極として参戦している頃はここまで愚かではなかったがのぅ。じゃが、此度の一件でフェルネンドへの信頼が失墜したのは確かじゃな」
「政治のことについては詳しくないが、今回のダルネスへの侵攻は素人目から見ても愚行としか思えないな」
英雄と呼ばれるふたりが言うと説得力がある。
さらに、クレイブから八極の《赤鼻のアバランチ》がフェルネンドに力を貸していたことについても呆れた様子だった。
「アバランチと同じ巨人族ではあるようじゃが、外見からして偽物じゃな。大方、そこらにいる腕っぷし自慢を仕立て上げたという感じじゃろう」
「うむ。アバランチ殿は白髪白鬚で笑顔がチャーミングなナイスジジイだからな。それに、我ら八極の中ではもっとも慈悲深い男でもあった……そんな彼が、今さら戦争に加担するような愚かなマネはしないだろう」
かつての同僚について語る八極ふたり。
トアたちにはもう見慣れた光景だが、クレイブたちはまだにわかに信じられないといった様子だった。
その後、モンスター組にエノドアまでクレイブたちを護衛するよう依頼し、トアはその道中に起きたある問題点を解決するため、エステル、クラーラ、マフレナ、そして八極のふたりと共に現場を訪ねた。ちなみにフォルは町の建設の手伝いに出ている。
問題点というのはズバリ「道のり」だ。
現状の最短ルートでは片道二時間はかかる。
そこで、トアたちは近くを流れるキシュト川に橋をかける計画を立てた。今日はその場所を決めるための視察に訪れたのだ。
トアたちが目的の場所に辿り着くと、そこには先行していたジャネットを含むドワーフたちがすでに話し合いをしていた。
「やあ、ジャネット。早速盛り上がっているみたいだね」
「トアさん!」
ジャネットやドワーフたちに挨拶をしながら、トアたちも話し合いに参加する。
「検証をしてみましたが、ここから反対側の岸に橋をかければ、二時間の道のりを三十分に短縮させることができます」
「そこまで短縮できれば、商品の運搬もずっと楽になりますね」
「しかもこの辺りは比較的モンスターの出現率が低い場所です」
ジャネットからの追加情報に、クラーラは安堵の表情を浮かべた。
「前に町へ行った時は結構手こずったものね。それが少しでも改善されるなら喜ばしいことだわ」
実際にモンスターたちと戦いながらエノドアを目指した身であるクラーラが言うのだから説得力がある。
「では早速作業に取りかかりましょうか。必要な木材はすでに調達済みですので」
「用意がいいなぁ」
「町の建設が一段落して、必要資材の目途が立ったのでそこから持ってきました。ちゃんとファグナス様からも許可をいただいています」
橋の建設に用いられる資材はエノドアから流用したものだった。
「じゃあ、始めようか。俺たちも手伝えることはやっていくから」
「お願いします」
こうして、要塞村と鉱山の町エノドアを結ぶ橋の建設が始まった。
作業は順調に進む。
それほど長い距離ではないため、腕利きのドワーフたち数十人が一斉に取りかかれば、三日ほどで完成するだろうとジャネットは予想を立てていた。
「たった三日で造れるとは……」
「さすがはドワーフ族ね」
トアとエステルは木材を運びながらドワーフたちの手際に感心しきりだった。
その横では世界を救った英雄のひとりである《黒蛇のシャウナ》が、額に玉のような汗をかいて重労働に勤しんでいた。
「たまにはこうして汗を流すのも悪くないな。どうだい、ローザ。君もやってみないか?」
「ワシは肉体労働に向かん。この体を見れば分かるじゃろ」
「いい加減、昔の体に戻ったらどうだ? 今も愛らしくていいのだが、あの頃のセクシーな体つきの君も素敵だったぞ?」
「いいからさっさと仕事をせい」
幼女状態のローザは魔法を駆使してサポート役に徹している。
これはこれで必要な役割なので、トアとしても現状を無理に変えてもらおうとは思っていなかった。
作業は順調に進み、日が傾きかけた頃――異変が起きた。
「ぬおっ!?」
作業をしていたひとりが足を滑らせ川に落ち、そのまま流されてしまう。
「! 大丈夫か!?」
それなりに水深のある川なので、このままでは溺れてしまう。焦ったトアたちがなんとか救出しようとするが、それよりも先に仲間のドワーフたちが川へ飛び込み、なんとか溺れた者の体を掴むと、岸から放たれたロープを使って無事救出に成功。
これで終わるのかと思いきや、突如、川の中心部分に気泡が現れた。
「なんだ?」
「どうやら何か潜んでいるようだね」
眉をひそめるトアへ、シャウナが警告する。
次の瞬間、大きな水柱があがり、その先端から何かが飛び出して来た。体長十メートルをゆうに越すそれはトアたちのいる陸地へと着地し、挨拶代わりの雄叫びをあげる。
「ウミトカゲか……」
ローザが現れた生物の名を口にする。
だが、その名が示す通り、ウミトカゲは本来海に生息するはず。それが、なぜこんな山中を流れる川にいたのだろうか。
「住処を追われたか……或は、ただの気まぐれか?」
「いずれにせよ、こんな大物がいたのでは安心してこの橋を渡れないな」
「ですね」
ローザとシャウナの話を聞いたとはすぐさま武器を構えた。それに続き、エステルやクラーラ、マフレナも臨戦態勢を取る。
しかし、トアたちよりも先に一歩前に出た者がいた。
「君たち全員が出張るまでもない――獣の相手は獣がしよう」
シャウナだった。
「ウミトカゲか……君と私たち黒蛇族は遠縁にあたるわけだ。お手柔らかに頼むよ」
いつもと変わらぬ飄々とした態度に思えるが、煮えたぎる闘志が透けて見えるほど、その表情は鬼気迫るものがあった。黄金色に輝く瞳はすでに蛇のそれだ。
「や、やけに気合が入っていますね、シャウナさん」
「最近暴れておらんからなぁ」
物騒な発言をした後で、ローザはササッとその場を離れた。
「お主らも少し下がっておった方がいいぞ。あまり近いとシャウナの戦いに巻き込まれる」
同じ八極のローザがそう言うくらいなのだからやはり相当激しい戦闘となるのだろう。トアたちはローザの指示に従って距離を取った。
「さて、観客の準備も整ったことだし――派手にいこうか」
シャウナがウミトカゲへ飛びかかろうとしたまさにその時だった。
「やめてください!」
どこからともなく戦いを中断するよう願う叫び声が。
その正体をは川の中にあった。
見ると、水面から顔だけを出した少女が目尻に涙を浮かべている。
「あれは……人魚族か?」
ローザが困惑気味に言う。
トアたちも戸惑いを隠せないでいるが、人魚族の少女はその様子に気づくことなくさらに叫び続けた。
「私たちはただ迷い込んだだけなんです! 少し休憩をしていたら人がたくさん集まってきたので、私たちを狩ろうとしているのだとばかり……」
「お主たちを狩る?」
人魚族の少女の訴えに、ローザは眉をひそめる。
「まさか……未だに人魚族を捕らえようとしている者がいるとはのぅ。国際条約に真っ向から立ち向かうその無謀さには怒りを通り越して呆れてしまうな」
現在では世界的に禁止されている奴隷商が、未だに世界のどこかで活動をしているのだという。人魚族の少女とウミトカゲは、そんな奴隷商から逃げているうちに、故郷の海を離れてここまでやって来てしまったらしい。
「海へ戻るなら、この川の先を真っ直ぐ進めばいい。川幅もあるし、深さもあるからウミトカゲの巨体でも誰の視界に入ることなく海へとたどり着けるだろう」
「あ、ありがとうございます!」
「礼には及ばないさ」
ウミトカゲも事態を察したようで、それまで全身にまとわせていた殺気を消し去り、ゆっくりと川の中へと戻って行く。
「お騒がせして申し訳ありませんでした」
人魚族の少女は最後にもう一度頭を下げ、戻ってきたウミトカゲに身を寄せると、その体を撫ではじめた。
「さあ、行きましょう――あなた」
「「「「「あなた?」」」」」
その場にいた全員が耳を疑った。
「あ、は、はい……私たち、夫婦なんです」
「美少女と野獣か……驚愕のカップリングだな」
これにはさすがのシャウナも苦笑いを浮かべるしかなかった。
お騒がせカップルは海への帰路へと就いたの見届けると、辺りはすっかり暗くなっていた。
「とんだトラブルが差し込まれたけど、とりあえず順調に進みそうで何よりだよ」
トアは今日一日をそうまとめ、仲間たちと共に要塞村へと戻っていった。
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