第51話 遊んでも 遊び尽くせぬ 夏になれ

巨乳奴隷回です。


前話で秋に入ったのに、また夏の話に戻っちゃいました。


スケジューリングがガバガバなんだよなぁ……





…………………………






「この穴、何すんだっけ?」


「なんか水貯めるんだって、わかんないけど」


「また魚飼うのかな」


「なんかご主人さまが入るって言ってたよ、わかんないけど」


「魚人族でもないのに水に入るのかぁ」


「偉い人の考えることはわかんないなぁ」




我々は今、地上で穴を掘っている。


ご主人様の勅命で、劇場予定地にすり鉢状のでっかいやつをひとつ。


ふちギリギリまで水を入れるらしいから、水平を取るのが大変だ。




「ジーリンさん、角度見てください」


「わかった」




中央からふちまでの角度も大事だ。


見た目が変わってくる。


あたしたちの使うものならいいけど、ご主人様が使うもので下手こいたらうちの班の面子が丸つぶれだ。


ご主人様は気にしないかもしれないけど、きっと口うるさい土木三班あたりに半年は絡まれ続ける材料になるだろう。


土木工事班は冒険者班の次に喧嘩っ早いんだ、やらかした日にゃあ近々年季明け予定の子達の話もパァになってしまうかもしれないからな。


責任重大だ。


板を継ぎ合わせて作った木のわくで角度を見て、駄目なところに印をつけていく。


削って削って、石敷き詰めたら終わりだ。


単なる穴掘りなんか、地下に比べたら簡単な仕事だよ。




「ジーリンちゃん、今日のおやつは揚げ麺だってね」


「ああ、お前はほんと揚げ麺好きだな」


「最近どんどん美味しくなってるもの。お湯を切らずに食べろって言われてた頃は、ちょっと微妙だったけどね」


「ラーゲよぉ、お前あの時もお湯切って塩かけて食ってたろ」


「あのほうが絶対美味しいもん」




くっちゃべりながらも作業の手は止まらない。


お天道様の下の仕事はいいなぁ。


今の時期はちょっと暑いけど、開放感がある。


無駄話も熱が入るわ。


終わったらちょっくら遠出して飲みに行くか。




「今日この後、みんなで魚食いに行かないか?」


「えぇー、魚ぁ?」


「もうゲハゲハは飽きたよ」


「一時期ずーっとあれだったじゃん」




なんだなんだ、前はうまいうまいって食べてたじゃないか。




「昔は庶民はあんまり食べられないような高級食材だったんだぞ?」


「そんで増やしすぎて結局値崩れしてちゃ意味ないよぉ」


「今や普通の定食屋でも出るもんね、ゲハゲハ」




うむむ、難しいな。


あのお金の事ばっかり考えてる御主人様でもこういう失敗をするんだから、やっぱり商売ってのは難しい。


私は馬鹿だからなぁ。


ここにいれば黙ってても仕事を貰えるんだから、あんまり独立とかは考えないようにしよう。


一人でやっていける自信が全くない。






一週間ぐらいの作業で完成した水たまりは、プールというらしい。


中に水張って泳ぐらしいけど、それって何か意味があるのかな?


私達にも開放してくれるっていうから、今日は休みのみんなでやって来たんだけど……




「わっ!冷たーい!」


「泳ぐってどうやるの?」


「お水って飲んでもいいのかな?」




意外とみんな楽しそうにしてるな。


それに中に入らなくても、水際にいるだけで涼しいや。




「ジーリンちゃん!一緒に入ろうよ〜!」


「やめとくー!」


「なーんーでー!?」


「……水着が入らないから」




私は水に入れない。


なぜなら、御主人様の用意してくれた水着ってやつの胸巻きが巻けなかったからだ。


じっと胸を見る。


こういう時、牛人族の無駄に大きな胸が憎い。




「なんて嫌味な……」


「ねえカメブ、ジーリン水に叩き込まない?」


「やろう、すぐやろう。ラーゲも行くぞ!」


「うがーっ!!」




えっ!なに?


なんでみんな怒ってるの!?


なにか悪い事言った……?


結局そのままみんなに担ぎ上げられて、服のまま水の中に放り込まれた。


鼻に水が入って頭がキーンとする。


でも冷たい水はとても気持ちが良くて、暑さでだらけた身体がシャキッとした。


こりゃ入ってみて良かったかもしれない。


だけど、お返しはしないとな。




「次はお前だーっ!」


「おっ!ジーリンやるか!」


「かつげかつげ!」


「いやーん!」




その日は一日中、人を投げたり水に潜ったり、心のままに遊びまくった。


めちゃくちゃ楽しかった。


次は私も自分用の水着を作ってこよう!


やっぱり服だと動きにくいからね。






「うわぁ、凄いことになってるな」


「こんなに人がいるなんて……」




せっかく班のみんなとお金を出し合って、花柄の布で水着を作ったのに……


一週間ぶりに来たプールはずいぶんと混み合っていた。


いつの間にやら屋台が立ち並び、布の少ない水着で肌を晒した乙女たちがひしめき合っている。


プールで泳ぐ奴ら、なんか変なもんにしがみついて浮いてる奴ら、足だけ水に入れて酒を飲んでる奴ら、水をかけあって遊んでいる奴ら、みんなそれぞれに楽しんでいるようだ。




「ジーリン、その水着どうしたの?」


「かわいい〜」


「へへ〜いいだろ。自分達で作ったんだ」


「え〜、布はどこの店?教えて教えて!」




普段圧倒的におしゃれな、喫茶店勤務の奴らに服を褒められるとむずがゆいな。


自作の水着を着たうちの班には、プール中から少なくない数の視線が飛んでいた。


うーん、見られるのって意外と悪くないかも?


男にジロジロ胸見られるのはやだけどな!


結局その日は、ほどほどに遊んで帰った。


途中でプールの水が減っちゃって、みんなで水汲みに行って足したりしてたんだよな。


掃除もした。


あたしらのためのプールじゃないからね、あくまで御主人様の気まぐれで遊ばせてもらってるわけだから。


来る前よりも綺麗にするぐらいの気持ちじゃないとな。






それからしばらく経つと、もうどこに行ってもプールの話ばっかりだった。


うちの奴隷たちはもちろんのこと、誰かから話を聞いた街の人にも羨ましがられたりね。


ここらへんは水遊びできる場所なんて川しかないからなぁ、川も魔物が出るから危ないし。


間違いなく、いまトルキイバで一番盛り上がってる場所だよね。


なんか、優越感。




「でもこの混み方はなぁ〜」


「何一人でぶつぶつ言ってんのさ。早くあの浮くやつで遊ぼうよ!」


「うおおおおーっ!!」


「だあーっ!!バカ!これ以上乗ると沈むっつーの!!」




うちの班のみんなが、御主人様が手ずから竹で作ったっていう筏に乗り込んでいる。


最初は一人か二人が上に乗っかって、のんびりぷかぷか浮かぶのに使ってたらしいんだけど……


いつの間にやら、上に何人も乗ってお互いを水に落としあう遊びに変わっていた。


たしかに血は滾るけど……


おしゃれからは遠のいたなぁ。




「ジーリンちゃん早く早く!うちでこの島を占拠するんだよ!!」


「ああ!今行く!」




ん?なんだ、あの筏。


はじが水から浮かび上がってないか?


よく見ようと目を凝らした時には、もう筏は綺麗にひっくり返っていた。




「うばーっ!!」


「ひぇーっ!」




仲間達の悲鳴とともにざばんと水飛沫が上がり、地上にも水が流れてくる。


あーあー、頭から落ちて。


水飲まなきゃいいけど。




「きゃははははは!」


「この島はあたしらが頂きだ!」




筏のあった場所では、筋肉ムキムキの鱗人族の子達が笑っていた。


そりゃあいつらが力込めたら、上に何人乗っててもひっくり返るわな。




「あれ?島は?」




鱗人族の子達は周りを見回すが、筏はスイーっとひとりでに動き、別の場所に運ばれていくところだった。


勝手に動いた筏は、プールの真ん中で止まった。


勢いよく水からバシャッと登場して、揺れる筏の上に仁王立ちするものが一人。


目が隠れちゃうような長い前髪。


そして髪と同じ綺麗な銀色の鱗が、褐色の肌の上でキラキラ光っている。


魚人族のガマリって子だ。


たしか魚の養殖をやってる、大人しくて目立たない子だったはずだけど。




「し、島、取った……取った、ぞー!」




ガマリはぎこちない笑顔と共に腕を空に突き上げる。


でも満足そうな彼女をよそに、周りにいた子たちがどんどん筏に登ってきて、あっという間に筏の上は人だらけ。


ガマリは人の中で、「もが〜っ!」と呻きながら、また水の中に引きずり降ろされてしまった。


短い天下だったね……


人だらけのプールを見回すと、みんな支給の黒い水着じゃなくて自分で仕立てたやつを着ているようで、驚くほどに色が多い。


黄色、赤、紺、柄物、はいいけど、白……は透けちゃうんじゃないの?


女ばっかりだからいいのかな?




「おおーっ!メンチさんが島を占領したぞ!」


「かかってくるがいい」




水着を見ていると、いつの間にかひしめき合っていた女達は筏の周りから消え。


マジカル・シェンカー・グループの頭領、歴戦の鱗人族メンチさんが筏の上に立って周りを挑発していた。


それ、そういう遊びじゃないと思う。




「行くぜ!」




別の鱗人族が筏に這い上がり、構えるのもそこそこに威勢よくパンチを繰り出しはじめた。


遠目に見ても鋭いその突きは、しかしメンチさんの手首の動きだけで簡単にいなされ……


目にも留まらぬ直突きの反撃をまともに食らった彼女は、水面へと叩き込まれていった。


間髪入れずに猪人族の子が筏に這い上がって、メンチさんに組み付いていく。


が、秒で投げ飛ばされた。


さっき落とされた鱗人族もすぐに浮いてきて大笑いしてるし、タフすぎる。


冒険者組、すげー……


そりゃ、町のチンピラにも避けられるわけだわ。




メンチさんが大暴れして盛り上がっているプールから離れ、たこ焼きを食べていた私達の耳に、大きな悲鳴が聞こえた。


すわ流血か!と野次馬根性丸出しで向かうと……


顔を真っ青にしたメンチさんが、バラバラになって壊れた筏の残骸を抱きしめているのが見える。


あちゃー、壊しちゃったのかぁ。




「ジーリン、お前なんとかならないか?」


「いや、うちら土木専門なもんで。丸太で足場とかは組みますけど、ああいう物は……」




建築班の奴らなら余裕なんだろうけど。


うちらは穴ばっかり掘ってたから、ああいう繊細な仕事は向いてないんだよ……




「誰かいねぇか、メンチさん泣きそうになってるぞ」




ほんとだ、ぷるぷる震えてる。


誰かいないか誰か……


おっ!プールの中にマモイがいるじゃないか。


あいついっつも地下で木彫りとか工作とかやったりしてるからな、たぶん筏も直せるだろ。




「おーい!マモイー!頼むわー!見てやってくれー!」


「えーっ!?あたしぃ!?」




やりとりを聞いていたのか、メンチさんがざばざばとマモイのところに歩いていって頭を下げるのが見えた。


これでなんとかなるだろ。


木工のことは木工屋に頼むのが一番だ。






次の週に行ったプールには、あたしの背より大きい謎の置物があった。


傾斜のついた台みたいな、変な形。


竹と木で作られてるみたいで、やたらと頑丈そうだ。


みんなその置物のプールから反対側に並んでいる。


ほうほう、木の板に乗って?


置物の上からプールに滑り込むのか。


こりゃあ楽しそうだな!




「並ぼう!並ぼう!」


「すげぇなこりゃ、誰が作ったんだ?」


「マモイよマモイ!あの子凄いのよ!」


「そうそう!二、三日地下でなにかやってたと思ったら、すぐにこれが出てきたの!」




あー、あいつ凝り性だからなぁ。


筏を直して熱が入っちゃったのかな。


くっちゃべりながら待っていると列は進み、あたしの番になった。


みんな板の上に腹ばいになって乗ってたから、それに習ってみよう。


台の上からゆっくりと身を乗り出して、坂に入ると一気に木の板は滑り出した。


グッと引っ張られるような感じがしたと思ったら、バシャッ!という音と共にあっという間に水の中にいた。


顔が痛い、なんでだろ?


でも、めちゃくちゃ面白い!


もっかい!もっかい!


結局その日は、みんなで日が暮れるまで滑るやつに並び続けた。


木の板に立って滑ろうとして坂を転がり落ちたり、二人乗りしたり、座って滑ったり。


子供みたいにバカみたいなことをたくさんやって、たくさん笑った。


プールの真ん中の方じゃまた島の争奪戦をやってて、それを挟んだ反対側じゃ魚人族が泳げない子達に泳ぎ方を教えてあげてる。


なんでもない休日なのに、まるでお祭りみたいに賑やかで、みんな顔から笑いが絶えない。


今年の夏はほんとに最高だ!


仕事して、プールで遊んで、酒飲んで、毎日毎日みんなでバカ騒ぎ。


生まれてきて良かったなぁ。


滑るやつの上から空中でひねりを加えてプールに飛び込んだ鳥人族に、みんなが歓声を上げる。


もう滑るやつの上はバカなことの発表会みたいになってて大変だ。


見てるだけでもお酒が美味しい。


これからも毎年こうだったらいいのにな!


あ、でも……


よく考えたら、ご主人様のプールに勝手にこんな大きな物置いちゃっていいのかな?


何か聞かれたら、マモイのせいにしよ……


あと、夏の終り頃になると『おさけをのんだら およがないようにしよう』って看板が立ってたんだけど、あれって誰か溺れたのかな?


うちの班も、溺れないように気をつけよう。

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