第15話 冒険は 剣を授かり 続くなり

ついに金ができた。


なんの金かって?


うちの奴隷達の拠点を買う金だよ。


さっそく親父のコネで物件を探してもらって、潰れた漬物工場の跡地でかなりの広さがある所をなかなか割安な値段で買った。


といっても一般人の年収10年分ぐらいはしたかな。


うちの親父もちょい足し投資してくれたし。


まぁ、いわくつきの土地なんで買い手がつかないって事情もあったんだけど、俺が住むわけじゃないしね。


とにかく、これでようやく人が増やせるわけだ。


となれば行くのはあそこしかないよな?


そう、奴隷商だ。




「お久しぶりでございます、ついに拠点を手に入れられたとか。このペルセウス、今日のために欠損奴隷を掻き集めて参りました」


「うん、よろしく」




さっそく通された奴隷お披露目ルームには、部屋に入り切らないほどの奴隷達がひしめいていた。




「すげぇ集めたね」


「サワディ様の奴隷達は名前が売れておりますので、声をかけると各所から回ってまいりました」


「そういう事もあるのか」




奴隷商の丁稚がうんざりしたような顔で頭を下げた。




「早速ですが、一人目。ピーナです、16歳、元冒険者、腰が砕けていて……」


「ああ、もういいよ……」


「なんですか?」


「説明はいい、ヤバいのだけ弾いて全部買うから」


「えっ!?」




丁稚は驚いた顔で俺とペルセウスの間で視線を行き来させている。


予算と場所がありゃ、そりゃあ全部買うよ。


収益化の目処はついてるんだからさ。




「サワディ様の言うとおりにせい」


「は、わかりました……」




その後出てきた奴隷達はだいたい・・・・問題なかったので、ほとんど・・・・買った。


さすがに魂を半分抜かれてるのや、闇の魔術で寿命が吸い付くされてるのとかはどうにもできないからな。


あとは半身をカエルにされてるやつがいたけど、そいつは触るの嫌だから買わなかった。


キモいからな。




「大商いになってしまいましたな」


「売れると思って集めたんじゃないのか?」


「いやはや、まさかここまでとは」


「奴隷商人ペルセウスの度肝を抜けたかい?」


「ええ。まことにもって、サワディ様のご成長は雷光の速さですな。私の一手先どころか、はるか未来を歩んでおられる。天国にいらっしゃる先代様も、さぞお喜びの事でしょう」


「よせよ、また頼むわ」


「ははっ、奴隷は拠点へとお届けさせて頂きますので」


「やばそうなのは今日治して帰るから」


「かしこまりました」




こうして労働力を手に入れた俺は、またもや新たな事業へと乗り出したのだ。


人を安く集めて仕事に送り、上前をはねる。


つまりは人材派遣だな。


頭数が揃ってなきゃできない事だが、数さえ揃ってれば利益率は半端ないんだよ。






ウキウキの新事業だが、それに先駆けてやっておかなきゃいけないこともある。


古い事業の整理、拡大だ。


買ってきた奴隷だが、まぁ数が多いから色んなやつがいるんだわ。


針仕事、店員、経理、職人、船乗り。


ここらへんは普通の奴らだ。


そうじゃない、元冒険者や半グレ者がどっさりいるのが欠損奴隷の世界。


山賊盗賊は普通に縛り首だから、奴隷には混じってこないのが救いだな。


まぁとにかく、そういう普通の仕事に向かない荒くれ者を迎え入れた冒険者組は劇的に人数が増えたわけだ。


そこでこれまで冒険者をやってきた4人を3つの班に分け、そこに部下の冒険者達をつけることになった。


その一括管理元として、冒険者クランを作った。


ちなみに最初は冷血党クラン・コールドブラッドにしようとしたんだけど親父からNGが入った。


なんでM・S・Gマジカル・シェンカー・グループが良くて冷血党がだめなんだよ、カルチャーギャップだな。


ま、とにかく区切りって事でみんなの前で叙任式みたいなのをやることにしたんだ。




「奴隷メンチ、クランM・S・Gマジカル・シェンカー・グループの頭領とする」


「はっ!」




だいぶ生活感の出てきた漬物工場跡地に、ずらっと並んだ奴隷達。


その前で俺は鱗人族のメンチに、瀟洒しょうしゃな装飾をされたサーベルを手渡した。


言う事聞かないやつがいればこれで躾けろという意味だ。


直立不動で受け取ったメンチはリィン……と鍔鳴りを鳴らしてサーベルを抜いたかと思うと、刃先を自分の首に当てて持ち手を俺に差し出した。


えっ?


わかんない……


とりあえず受け取ったらメンチが跪いたので、両肩を叩いてから返しておいた。


軍隊式なのかな?




「奴隷ロース、副頭領とする」


「あいよっ!」




赤い髪をヘビメタバンドみたいに逆立たせている魚人族のロースには、これまた瀟洒なカトラスを手渡す。


メンチに渡したやつよりは安いが、それでも金貨5枚ぐらいするからな。


受け取ったロースはズズッと鞘から抜き放ち、また刃を自分の首に当てて持ち手を俺に向ける。




「頭叩くんだよ」




小声で教えてくれた。


なるほどね。


俺は跪いたロースの頭をベシッと叩き、剣を返した。




「奴隷ピクルス、分隊長とする。なおその補佐に奴隷ボンゴをつけるものとする」


「はいっ!」


「…………う……ん……」




この二人はセットだ。


ピクルスは年若く、ボンゴは喋れない。


俺は2人に彫り物の入った短剣を渡した。


2人とも抜いて首に突きつけるやつをやるが、短剣だと様にならんな。


特にケンタウロスのピクルスは一生懸命人間の部分を下にさげてくれて大変そうだ。


さっきと同様に頭を叩いて剣を返した。


周りから歓声と口笛が上がるが、イマイチよくわからんな。


まぁ喜んでるならいいか。




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ネームド奴隷の名前のネタばらしです。


ピクルス→ハンバーガーの具


ボンゴ→パスタのボンゴレビアンコ


ロース→ロースカツ


メンチ→メンチカツ


チキン→チキンカツ


シーリィ→シシリアンライス


ハント→ハントンライス


以上小ネタでした。


お疲れサンドパン!

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