エピローグ

 人類がはじめて相対した魔王【始なる簒奪の魔王ラブマシーン】との人類存亡を賭けた決戦は人類側の勝利に終わった。【終焉の宴エンドレススタンピート】までのタイムリミットは4年も伸び、100の神器の内、3つを手にした日本は世界中から喝采を浴びた。

 だが全てが丸く収まって大団円かと言えばそんなことは無い。態々名前に【いちなる】なんて付いてるからには第二第三の魔王が今後出現することは想像に難くない。示唆された次なる脅威、解放された【電脳仮想領域 インターネット】と3つの神器の扱い。魔王を倒したからと言ってハッピーエンドとはならないのが現実って奴だ。だがまあ、そんなつまらない話は脇に置いて今は……


「かんぱーい!」


「「「「「「「「「かんぱーい!!!!!」」」」」」」」」


「飲め飲め! 金は国から出てるぞ!」

「肉! 肉何処だ!」

「酒もあるだけ持ってこい!」

「世界を救った英雄様のお通りじゃーい!」

「うわ俺でも聞き覚えある名店ばっかじゃん」

「お土産も豪華ですよ!」


『祝・魔王討伐記念パーティー』


 魔王ラブマシーンの討伐記念パーティーは湧きに湧いていた。会場は東京ドームを貸し切り、あの決戦に参加した全ての人間が招待された。会場中央には報酬の【神器】が飾られ、【覇王】大神さんと【十二神将】が代わる代わる色んなお偉いさんの挨拶を受けていた。


「凄いですね鈴木さん」

「赤月お前も来てたのか」

「交通費宿泊費食費全部国持ちのパーティーとか早々無いですからね。それにこの空、ここまでやりますか」

「気持ちは分かる」

 見上げた空はどこまでもも澄み渡っている。だが本来なら本日の天候は雨だ。政府はこのパーティーの為に高レベルの術師を動員して無理やり天候を快晴にしたのだ。


「演出の面もあるだろうが、外国に国内の術師の能力アピールも兼ねてるんだろうな。日本には天候を操れる術師がいますよ~ってな」

「面倒な話ですね」

「全くだ」


 だがそうも言ってられない理由がある。今や日本は世界最大の【神器】保有国家にして世界で唯一の【覇王】を持つ国家だ。その圧倒的な力はあの決戦で世界中に喧伝されたと言っていい。下手をすれば核をも凌ぐ力を持つ個人の存在によって世界中でパワーバランスが変化している。数日後の式典では決戦で特に力を発揮した人間が俺を含めて国民栄誉賞を授与される。そうやって外国に俺達が逃げづらくしているんだろう。


「……鈴木さん?」

「あー、やだやだ! 無駄につまらねえことばっか考えちまった。赤月、飯食おうぜ飯」

「私はもう取って来ましたよ。ほら」


 そう言われてテーブルの上を見ると明らかに会場の料理の中でも特に豪華な部類っぽい料理が大量に並んでいた。


「せっかくですからね。鈴木さんも食べます?」

「おう、頂くわ」


 そうして俺と赤月は暫くの間周囲の探索者達と話しながら料理に舌鼓をうっていた。




「鈴木」

「お、大神さん」


 名前を呼ばれて振り向くと堅苦しいスーツを身に纏った大神さんが立って居た。


「お、大神覇王!」


 突然の登場に赤月はビックリしたのか声が少し上ずっていた。


「いい、楽にしてくれ。覇王などと呼ばれてはいるが俺もいち社会人に過ぎん。……この料理少し貰っていいか?」

「はい、どうぞ遠慮なく」

「すまん。長話ばかりでな。ろくに飯が食えていない」

「天下の覇王様がそんなこと言っていいのか」

「王だろうが神だろうが、腹は減るし長話は面倒なものだ」

「それもそうか」


 その後、大神さんと少し話すと大神さんは挨拶に戻ると言って中央へと戻って行った。どうも【英雄】である俺との話をだしに一時的に抜けていただけらしい。

 パーティーは大賑わいのままに終了し、赤月とは連絡先を交換して別れた。二次会にも誘われたのだが、先約があったので断ることになった。




「さて……」


 時刻は午前零時。スマホで事前に指定されたアドレスのページを開き、呪文を唱える。


「インターネット.exe」


 気付けば俺はインターネットダンジョンの中にいた。ここは小さな部屋で、椅子に机に自販機と、どこぞの会社の休憩スペースの様な場所だった。


「来たか鈴木」

「大神さん」


 俺をここに呼んだ男は既に部屋の中にいた。


「こんな面倒くさい手順で密会するんだ。相応の理由はあるんだろ?」

「ああ、お前と話しておきたいことがあってな。まあ座れ」

「んじゃ遠慮なく」


 俺が椅子に座ると、早速とばかりに大神さんは用件を伝えた。


「鈴木、お前今後どうするつもりだ?」

「どう、とは?」

「とぼけるな。お前は個人の戦闘力としては群を抜いている。あの決戦で多くの人間がそれを知ったんだ。既に勧誘は来てるな?」

「……まあな」


 そう、自分で言うのもあれだが俺は強い。しかも大神さんや神将と違って国家所属では無いため決戦以降国内外問わずいろんな所からオファーが来た。


「アメリカ、中国、ロシア、インド……国からも企業からもかなり来たな。特に中国からはかなり熱烈だったな」

「あそこは現在暴走した【英雄】の対処でかなり荒れているからな。無理もない」

「外部からダンジョンを破壊する【仙人】だったか?俺が言うのもなんだがアメリカの【聖女】と言い、【英雄】の称号持ちは碌なのが居ねぇな」

「全くだ」


 少しの沈黙の後、大神さんが本題を切り出した。


「日本政府はお前が外国に移動することを警戒している」

「だろうな」


【英雄】は無所属の浮き駒としてはあまりにも強すぎる。

 俺の主観加速。【仙人】のダンジョン破壊。【聖女】の奇跡。どれも国家間のバランスを大きく崩す物だ。現に中国は【仙人】の影響でゴタゴタだ。


「一部のお偉方はお前を《契約》術で縛ろうなどと言い出している。お前が本気で逃げたら誰も捕まえられんというのにな」

「だからこそ手綱が欲しいんだろうよ」

「ふ、それもそうだな」


 少し間が開いた。俺自身としては外国に行く気なんてさらさら無い訳だが、それを口にしただけで誰もが納得するなら苦労はしない。どう落としどころをつけたものか……。


「一つ」


 大神さんが提案した。


「一つ現在国が対処しなければならない案件の中でとっかかりすら掴めていない物がある」

「何だ?」

「龍人族転生クエスト」

「あぁーーー……」


 龍人族転生クエスト。それはラブマシーン討伐報酬として所属国家【日本】の人間に解放されたもの。名前からしてダンジョン攻略において大幅な強化が見込めそうな代物だ。がしかし、今日に至るまで誰一人としてそのクエストとやらの開始条件を掴めていない。なんならクエストって何なのかも分からない。完全に手探り状態な訳だ。


「仮にも魔王討伐報酬。相当な価値があると見込まれている。もしこれをお前が発見、攻略できたのなら……」

「できたのなら?」

「お偉方も多少は安心するだろう」

「ほんとかなぁ……」

「させてみせるさ【覇王】の名に誓ってな」


 そう言って大神さんは真っすぐと俺の眼を見つめて来た。

 やめてくれよ恥ずかしい。そんな澄んだ瞳で見つめられたら頷きたくなるだろうが。


「わかった、わかったよ。龍人族転生クエストの発見。それで国は納得するんだな?」

させて・・・見せよう」

「ならその依頼、承った」


 そう答えるや否や大神さんは頭を下げた。


「ありがとう」

「やめてくれよ。別にあんたが悪い訳じゃ無いんだから」

「だが俺も国に属する身だ。頭くらい下げさせてくれ」


 これ以上何を言っても無駄だな。

 俺は大神さんが頭を上げるのを待ってインベントリから瓶を一つ取り出した。


「それは?」

「ダンジョン産の銘酒【八塩折之酒】折角だ、飲まねえか?」

「そうだな。今日は話してばかりで碌に飲めなかった。いっぱい頂こう」


 取り出したお猪口に酒を注ぎ、二人で乾杯して一息に飲み干した。


「かぁぁぁ~うめぇ!」

「これは、絶品だな」

「だろー!」


 何せ超が三つくらい付くレアアイテムだからな。

 そうして二人でチマチマ酒を飲み、気付けば時計は零時を回ろうとしていた。


「これが最後の一杯だな」

「思わずかなり飲んでしまったな」

「これ滅茶苦茶うめぇからな」


 名残惜しみながら最後の一杯を飲み干すと、丁度時計が零時を示した。






“ゴーン、ゴーン、ゴーン”


 鐘の音が、響き渡った。


「……は?」


神器ゴッズアイテム【No.002 終極回帰時計 クロノス=カイロス】が奉納されました》

《全人類に《奉納効果》を適用します》

《全人類の時間間隔が補正されました》

《全人類に特殊能力スキル『体内時計』が与えられました》

《タイムリミットが一年延長されました。》



《緊急事態発生》

《緊急事態発生》

《緊急事態発生》

《【因果の脱獄者】が出現しました》

《早急に討伐してください》

《タイムリミットの計測を開始します》


《計測中……》

《計測中……》

《計測中……》


《この時間軸が崩壊するまで残り6日……補正情報追加》

《再計測を行います》


《計測中……》

《計測中……》

《計測中……》


《この時間軸が崩壊するまで残り23時間59分です》




 突然すぎて何が何だか全く理解できない。神器奉納? 時間軸崩壊? 全く意味が分からない。

 だが一つ言えることがあるなら……。


「大神さん」

「なんだ」

「現実って奴は何処までもイカれてて面白いっすね」


 ウィークリーミッションの様に訪れる世界の危機を前に、俺は何故か笑みを浮かべていた。


 酔いはポーションで冷ました。霊力は全快。心なし体調もばっちりだ。『啓示板オラクルチャンネル』でオモイカネから情報を得る。


 常世思金神オモイカネ:行こうか、亮君♪


「おう」


 大神さんへの挨拶もそこそこにダンジョンを出る。目指すはこの国の中枢、国会議事堂。オモイカネ曰くそこに【因果の脱獄者】が居るらしい。


「さあ、とっとと片付けようぜ。そんでクエストとか言うのも見つけて、後は気ままにダンジョン探索だ」


 そっちの方がきっと、面白いからな。














 亮一郎の去った部屋で大神は一人ごちた。


“現実って奴は何処までもイカれてて面白いっすね”


 それは平穏の否定、狂騒を楽しむ才能。夢見がちな子供の様で、だけども。誰よりも無邪気に現実を見る男を瞼に浮かべて大神は呟いた。


「そう思えるからこそお前は英雄なんだよ。鈴木亮一郎」






【終焉世界英雄譚】4章: 第一次人魔大戦 〜終〜





現在の奉納された神器の数【8/100】




────────────────────

【TIPS】

 この物語はこれで完結となります。長い間の更新停止、本当に申し訳ございませんでした。

 応援してくれた方、コメントを下さった方、そして全ての読者の皆様、ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。

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終焉世界の探索者 雷炎 @raien

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