北綾瀬攻略5

アァァァァァァァッ『爆鱗旋風槍』!!!」


いくつもの意図的に操作された爆鱗を内包する風が槍のように細くなって超高速で飛来してくる。


無窮歩法タキオンステップ』で爆撃域を高速で抜け出すが、あの爆鱗付きの風の槍は地面に触れた瞬間に洒落にならない規模の大爆発を次々と引き起こしている。いくら『無窮歩法タキオンステップ』を使っているとはいえ逃げ出すのが少しでも遅ければ爆風によるダメージをかなり負うことになるだろう。


『爆鱗旋風槍』


クシャルダオラが発したのはただの叫び声であった筈なのに何故か俺はしっかりとその意味を理解できた。今までダンジョンボスやユニークボスモンスターが使用してきた技のどれもこんな事象は起きなかった。それが意味することはつまり


「こいつ【特殊能力スキル】を獲得したのか?」


その答えは戦闘開始時から弱点看破様にとずっと発動していた『強制開示』の【加護能力ギフト】が教えてくれた。


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【名前】エクステンペスト

【種族】クシャルダオラ

【職業】爆鉄龍

【レベル】70

【ステータスポイント】210

◆【龍力】

┣爆風5

┣龍力強化5

┗龍力操作5

▲【肉体】

┣腕力強化4

┣脚力強化4

┗肉体強化4

《耐性》

┣火傷4

┗爆発3

▼【技術】

《武器》

┣牙5

┗爪5

《防具》

┣鋼鱗5

┗爆鱗3

●【知力】

┣思考強化0

┣記憶強化0

┗知能強化0

■【固有】

┣操嵐4

┗纏爆2

【称号】

『ダンジョンボス』『システムアクセプター』『爆鉄龍』

特殊能力スキル

『鉄鱗』『嵐の王テンペストルーラー』『尖風芯槍』『捕食再生』『爆鱗生成』

固有能力アビリティ

『爆鱗旋風槍』『爆嵐鎧』『爆針雨』『偽・劣無限龍イミテーションデミウロボロス

加護能力ギフト


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今までモンスターに対して『強制開示』をかけても種族や弱点などの情報が義務的に評価されていただけだったのにこいつはそうじゃない。ステータスが評価され、ちゃんと各項目に割り振りが行われている。ただステータスポイントがかなり溜まっているのに割り振られていないことからこれはこいつの意思で行ったのでは無く今までマスクデータとして存在した物が表面化したのかも知れない。何よりこいつには名前がある。

エクステンペスト、今までのモンスターの種族名を適当にくっつけた様な名前では無く意味のある言葉(恐らくエクスプロージョン爆発テンペストをくっつけた名前)だ。…まあ、これでもだいぶ雑な名付けだとは思うが。


ともかくエクステンペストは完全な個として確立された。ステータスの恩恵を正しく受けたモンスターの実力がいかほどの物なのか全く見当もつかない。だが少なくとも“【神器】があるから楽に勝てる”なんて考えは愚かにも程があると言えるだろう。


エクステンペスト生み出した竜巻は更に勢いを増しており、最早暴風や嵐といっても過言ではない。そしてその内側を大量の爆鱗が舞っており、少しでも足を踏み入れれば大爆発の連鎖で【神格】ごと一瞬で削り取られて死ぬだろう。そしてその内側から細く圧縮した風に爆鱗を乗せて飛ばしてくる『爆鱗旋風槍』はそう簡単に突破出来るものではない。正に鉄壁の守りと言えるだろう。だが、


「ここまで苦しめてくれたお礼だ、俺の霊術を見せてやるよ。まあ、お代はしっかり貰うがな。」


俺は一気に体内の霊力を練り上げ術として発動する。


「《虚空門》」


エクステンペストの生み出した嵐の壁をぶった切る形で虚無へと続く光も闇も無い門が顕現した。あらと爆鱗は門に触れたそばからその内側へ吸収されて行き、だんだんと勢いが弱まって行き遂にその姿を完全にこの世界から消失させた。


虚霊術が第四階梯霊術虚空門。相当な量の霊力と引き換えに自分から半径20m圏内に一定時間経過するまで開きっぱなしの虚無へと続く門を開く霊術だ。開いた門は動かせないが、代わりに発動中はどんなことがあっても絶対に閉門しない。この強制力はダンジョンボスモンスターの様に膨大な霊力を体表に纏うことで霊術などへの耐性を爆発的に上昇させているモンスターや人間が相手でも変わらず、相手を飲み込めない代わりに門と言うよりは壁となって立ち塞がり続けるのだ。


この術を持ってすればいかにシステムの恩恵を受けた龍とはいえそう簡単に突破できるものでは無い。


「いやまあ俺もこれ一発使うのに全霊力の三割は消費するけどな!」


だがまあ人類にはこれがある。

おもむろに《亜空庫インベントリ》から取り出したフラスコに入った青い液体を一気飲みする。

一瞬で霊力が全快した。

これぞ人類が誇るチートアイテムMPポーション精神力回復薬である。

自己再生や捕食再生なんかを持つダンジョンボスモンスターにも許されない術の使用出来る回数を回復するチートアイテム。しかもこれ飲むと何故か頭がやたらスッキリする。一体何で出来ているのかは知らない知りたく無い

このチートアイテムが発明されたからというもの冒険者達のダンジョン内における継戦能力は劇的に向上した。いくら傷が癒せても霊力が尽きれば戦えない霊術や聖術特化型の術士達にとって必須アイテムとなったのだ。


さて、これであの嵐の鎧は無くなったわけだが、これで万事解決とはいかない。そろそろ《虚空門》も閉じるし、さっきの嵐だって時間をかければまた作り直せるものでしか無い。ここからはまた嵐の鎧を張り直される前に一気にダメージを稼ぐ時だ。


「てな訳で一気に攻めるぜ!」


万能適応マルチシフトブレードタイプ


「《虚空纏》」


太刀状態のムラクモを覆い隠さんばかりに巨大な虚無の刃が纏わり付いている。霊力強化による補正を一切受けないでこれだけの力だ。恐らくムラクモの霊力との親和性が高過ぎるのだろう。いつもの三分の一程の霊力でいつもの五倍近い力が引き出されている。


「おらっ!」


無窮歩法タキオンステップ』で一足飛びにエクステンペストの腹側に入り込みムラクモを振るう。


「アアアアアアアアッ!!?」


腹が真っ二つに裂け血が大量に流れ出てくるが即座に塞がってゆく。先程バゼルギウスを喰らって蓄えた分がまだ残っていたのだろう。


「もう一発!」


エクステンペストから引き抜いたムラクモを心臓があると思しき場所目掛けて突き刺す。


「アアアッ………アアアア!!」


「なっ!?おいこらてめぇっ!」


突き刺したムラクモが心臓付近に突き当たるか否かというところまで食い込んだ途端、傷口から鱗鱗を大量に生やし、ムラクモを抜き取れないように絡めとりやがった!


「アアッ!!」


“ジュウウウッ!”


抜き取るために行動を起こそうとした途端ムラクモが突き刺さった付近の鱗が赤熱し始める。


「ちっ!」


爆発に巻き込まれない様に大きく距離をとる。


落ち着け。慌てる様な場面じゃ無い。さっきは油断したがどうにかしてムラクモの柄に触れれば霊力強化で一気に《虚空纏》を大きくして一気に引き抜ける。奴の動きを見る限りまだ嵐の鎧を発生させる『爆嵐鎧』という【特殊能力スキル】はまだ使えない。あれには何か一定の溜めの様なものが要るのだろう。だが今は俺の攻撃のせいで十分な溜めが行えない。ならば残された【特殊能力スキル】、いや【固有能力アビリティ】で使うとすれば…


エクステンペストが一気に飛び上がり俺との距離を離す。

空中で爆鱗が舞い上がり赤熱しながらいくつもの細く圧縮された風の内側へと収まり紅く輝く槍の様なものが何本も何本も生成される。

生成が終わった数えるのも馬鹿らしい数の紅い槍が解き放たれるのを今か今かと待ちわびる様に輝きを増して行きそれら全ての輝きが最高潮に達した時、爆鉄の龍は声を上げる。



アアアアアッ『爆針雨』!!!!」



紅き地獄が降り注ぐ。



─────────────────

【TIPS】

東京メトロにおける五つの20以上の駅のあるダンジョンの深層20以降の駅は全てここ古代樹の森の様なオープンフィールドであり、それぞれのエリアに【爆鉄龍 エクステンペスト】の様に自己変態を遂げ個として確立し世界からシステムの恩寵を受けた龍達が待ち構えている。

それぞれのエリアは

千代田線:古代樹の森

日比谷線:大蟻塚の荒地

東西線:陸珊瑚の台地

有楽町線:瘴気の谷

丸ノ内線:龍結晶の地

となっており、どの場所を住みかとする龍であっても油断すれば日本国最高戦力の一角である国家認定冒険者ですら容易く命を落とすことだろう。

また、これら五つのダンジョンは東京の地下霊脈ツボとでもいうべき場所であり、霊脈によって活性化されたそこに埋蔵される鉱物などのあらゆる資源は合計すれば向こう100年は日本国が外国の輸入に頼らずに生きて行ける程の量となることであろう。

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