虚霊術と致命傷
T字路を左に進み行き止まりと分かれ道の真ん中辺りに陣取って迎え撃つことにした。
六匹のジャグラスは四匹が俺へ襲いかかり残り二匹が逃げられないように退路を塞いでいる。…こいつら普通に知能が高くて厄介だ。
「ガアアアアアアッ!」
四匹が一斉に噛み付き突進を仕掛けてくる。それぞれの狙いは俺の四肢、どれか一匹にでも取り付かれたら終わり。
「らあっ!」
咄嗟に飛び上がって両足に噛み付こうとした二匹の頭を踏みつけ右手の鉄棍棒で右手狙いの奴の頭を殴る。
それを見て手札が尽きたと思った左手狙いの四匹目が大きく口を開ける。だがまだ俺には切り札がある!
「《虚空玉》!」
俺の右手から飛び出した灰色の輪郭だけを持つバレーボールサイズの玉がジャグラスの頭にぶち当たる。
“………”
無音。
一切の音も無く四匹目のジャグラスの頭はこの世から姿を消した。
俺の持つ虚属性の
まず何と言っても恐ろしく遅い。ステータスボードの《虚》の項目が上がってきた今ならバレーボールを軽く投げた時程の速度が出るが最初の頃は回避余裕の超低速玉だった。そしてこの玉はバレーボールサイズ以上
の大きさにならない。他の属性なら霊力を消費すれば大きくなるがこいつにそんな機能は無い。
逆に利点としてこいつは生成した玉と同じ分の質量を抉り取らない限り消滅しない。そして輪郭のみで中身に色が無いので暗がりでなくてもとても見辛い。
それが俺の
話を戦闘に戻すと足元で踏みつけていた二匹は俺を押しのけて離脱し頭をぶん殴られた奴はまだのびてる。
退路を塞いでいる二匹が動く前にのびている奴の頭にサバイバルナイフを刺して手早く仕留め、1対6から1対4にする。
さあ、ここからだ。
退路を塞いでいた二匹も戦闘に加わり相手の数は先程と同じになった。
左手を前に突き出すと先程の霊術を警戒して奴等が少し下がる。このままこれを繰り返して通してくれれば万々歳だがそう上手くは行かない。
何歩か下がったがそこまで。これ以上は行かせまいと大きく唸り声を上げている。
さっきので俺の切り札がかなり遅い事はばれた。さっきみたいに向こうから突っ込んで来る分には当てやすいがこっちから撃っても絶対に避けられるだろう。だがな。
「何も切り札は一つじゃないんだよ!」
これは霊力の消費が早いからあんまり使いたくないがそうも言ってられない。
「《虚空纏》」
結構な量の霊力を消費して右手に持ち替えたサバイバルナイフに正真正銘最後の切り札を発動する。
“ブォン”
なんでこんな音がするのかはイマイチ謎だがこいつの力は本物だ。
俺の
「おらぁっ!」
「クギャッ!?」
左手に持ち替えた鉄棍棒をにじり寄ってきた奴の顔面にぶん投げて動きを止める。運良く気絶したのかピクピクしてるが動かない。そこで一斉に襲いかかってきた三匹のうち左手から飛ばした《虚空玉》を回避する行動を取ったやつの事は無視して残り二匹のうち片方の首にサバイバルナイフを当てて刃を滑らせ首を斬る。その隙に噛み付いてきた最後の一匹の攻撃を体勢を崩して無理矢理躱しその首にさっきと同様にサバイバルナイフを突き刺す。
あとは《虚空玉》を回避した奴の首を斬って終わりだ。恐らくもう体勢を整えて俺に狙いをすましでいるだろうから急いで回避の行動をとる。
…だがここで俺は失念していた。いや、気付いていなかった。
最初に鉄棍棒をぶち当てた奴がどうなったのかを。
「ガアアアアアアッ!」
“ガブリ”
「…っあ?」
俺の首には最初に鉄棍棒で気絶させた筈のジャグラスの牙が深々と食い込んでいた。
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【TIPS】
ジャグラスなどの中級に満たない下級又は最下級の竜種は逆鱗を持たない為、首に一番鱗が張り巡らされており首が一番硬。故に下級の竜種は頭などとは違い首を防御すると言う思考が薄い。
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