第24話 このゲームで初めての本物の立ち会いですよ。本職さんは容赦がない。


 ―― Fight! ――


 システム音声が死合いの始まりを告げても私は動かなかった。

 それは相対するフラウゼンおじさまも同じ。


 私達の間はそれなりに開いているけれど、このゲームに於いては互いに必殺の間合い内だと感じていた。


 つまり、一足で詰めきれる。


「・・・・・・」


 程良い緊張が私を包んでいた。

 思考が晴れ渡り、視界がいつもより広く感じられる。


 今の私、最高に絶好調。


 それでも、おじさまに一太刀入れられるかと問われると分が悪い。


 おじさまは腹の下の当たりに拳があり、両手でしっかりと大剣を握っている。

 刃渡りだけで100センチはありそうな長剣。

 両刃で、幅はそれほど広くなく、厚さもあまりない。

 現実ではもうあまり見ない馬上用の長大剣のひとつ。


 しっかりとした体幹をお持ちなのだろう。

 切っ先が揺れることもなく、ぴたりと構えたまま制止している。

 全身を護る鎧甲を身につけておきながら微動だにしないのはゲームだからか、はたまた現実でもその状態を維持できるのか。


 たぶん、現実でもできるんだろう。

 なにせ、相対している方は現役の軍人さんだ。そう本人が口上を詠んだのだから。


 ・・・・・・攻め手がない。

 私のできることなど一足でカッ跳んで首目掛けて横薙ぎ一閃しかないのだけど、どうやっても防がれてしまう。

 防がれるだけならまだしも、流されてそのまま返し手で斬り棄てられてしまえばもうそれで終わりだ。

 さすがにそれは回避したい。


 私の矜恃が許せないし、相手を失望させてしまう。

 おじさまは戦いを御所望されたのであって、一閃の立ち会いを御所望された訳ではないのだから。


「よし!」


 まずはリズムを私のモノにするため、有らん限りの大音声を放った。


 瞬間、おじさまが踏み込んできた。たった一歩で詰められる間合い。


「シヤアァァァァァァァ」


 どうやらおじさまは刺突を選ばれた御様子。

 私は内心で喝采を上げた。


「死ネエエエエエエエエエ」


 気迫を上げながら半歩前へ。

 おじさまから首を差し出してくれるというならば私は刃を添えるだけだ。


 おじさま目掛けてかっとぶ。

 懐に入るため地面すれすれ。


 上下擦れ違い様に白刃を振う。


 ぶおんと風切り音を立て刃がおじさまの首を狙う。


「未熟!」


 おじさまが獰猛に笑った。

 と同時に半身捻って長剣の刃が私を襲った。


「なっ!?」


 そこで私は己の未熟を恥じた。

 おじさまは突きをしたのではなく、構えたまま吶喊してきただけだったのだ。

 つまり、腕は伸びきっていない。あの体勢から剣を振うことができようとは!


「死ぬるものかよっ!!」


 私はとっさに振り切っていない得物を振り切り、相手の得物に刃をぶつけた。


 ガィィィィンと鈍い音と共に、私の体は宙に浮かび。


「ふんぬらぁぁぁぁ!!」


 腕力のみで空に跳び上がり得物を手放し、そのまま体を捻って宙返り、からの着地を決めた。

 体の軽いチビアバターだからできた荒業であった。


 その間おじさまはといえば、ざざっと両足で勢いを消しつつ体勢直し、立ち上がり大上段からの振り下ろしを敢行。


「なお未熟!」


 もはや一手教授などという次元ではなく死力を尽くした殺し合いであった。


「なんの! “跳びこだま”舐めんな!」


 “跳びこだま”は私の異名の一つ。由来はいわなくてもわかるだろう。


 一跳にて相手の長大剣の間合い外まで跳び退き、返す足の一跳にて相手の懐まで潜り込む!


「なんと!?」


 流石に下げきった腕から私を斬ることはできまいよと、ほくそえみながら懐に忍ばせた小太刀を・・・・・・。


「あ・・・・・・」


 そんなものはない。

 なぜならここは「刀剣舞踏」の世界ではない。


「しまった!」


 仕方ないので顎下に頭突きを入れた。


「いっったあぁぁぁ」


 ダメージを受けたのはこちらだった。

 あたりまえである。相手はフルプレートメイルにフェイスヘルメット付。


「隙有り!」


 おじさまが得物を手放し私に殴りかかる

 まぁこの至近距離だと素手の方がいいというのが常識だろうけど。


「残念!」


 私は飛んでくる拳に手の甲を沿わせてぐるりと捻り上げ、おじさまを俯せに押し倒そうとしたものの。


「軽いわ!」


 極みを外され、反対の手で掴まれ思いっきり地面に叩きつけられた。


「かふっっ」


 一瞬、衝撃で呼吸が止まった。

 そしてその一瞬が命取りであった。


 おじさまの手刀が胸に突き刺さり、心臓が破壊されてしまった。


「あっっっっっっ」


 ―― フラウゼン Win! ――


 システムアナウンスが流れた瞬間、試合前の状況に戻される。


 私はおもわず四つん這いになってしまった。


「げっっほげほげほっっっはぁはぁ・・・・・・」


 しんどい・・・・・・。流石に心臓破壊はあとあじが残る・・・・・・。


「レディ。大丈夫だろうか」


 いつのまにかおじさまが片膝突いて私の目の前にいた。


「あぁ~~はい。なんとか」


 おじさまが手を差し出してくれたのだけど、私はそれをよしとせず自力で立ち上がった。

 そもそもゲームだ。実際に負傷したわけではない。


「御指南、ありがとうございます」


 とにもかくにも死合いが終わったのだから謝辞を述べるのが礼儀ってもので。


「こちらこそ、全力で当たって頂き感謝致します。レディ」


 私達は握手を交わした。


「叔父上! やりすぎです!」


 うん、お嬢さん。その発言ってことは今の戦いを見て何を学んだのさ?

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