第23話 久々の死合いです。強者の気配ですよ。
「いかなる死合を御所望で?」
摺り足で騎士様から距離を取りつつ尋ねてみた。
「うむ?」
顎に手を当て、考え始める騎士のおじさま。
日の光に照らされたフルプレートメイルが鈍く光る。
バイザーこそしていないけれどフルフェイスヘルメットをしていて、相手の顔は見えづらい。
「だれに、なにを、お見せしたいので?」
いつまでも考え込んでいそうなのでもう少し具体的に問いを放ってみた。
「ふむ」
おじさまはちらりと連れの美少女に視線を向けた。
つられて私も視線を向ける。
コルディナと呼ばれた彼女は私のことを訝かしむように見つめていた。
まぁ、仕方ない。
こんなちんまい女に一戦申し込むなど埒外のことだろう。
彼女はきっと今、このチビそんなにやるのか? とでも思っているにちがいない。
正直このおじさまに勝てるヴィジョンは今のところ無い。
だが、負けはしないだろう。
対人特化のゲームを4年も遊んでいたのは伊達でも酔狂でもない。いや、狂っていたのは否定できないけどもね。
「普段できぬ戦いを。我らは護る者ゆえ」
やっと口を開いたおじさまから出た言葉に私はやっぱりという感想。
目の前のおじさまもつれのお嬢さんもパラディンではなくナイトかガーディアンなのだろう。
違いは明白で、神を主君とすればパラディン、国であればガーディアン、人であればナイトである。
「はぁ・・・・・・。承りました。泥臭くて、意地汚くて、卑怯卑劣すらも呑み込んだ一戦を御所望と」
「我が意を得たり」
大仰に頷くおじさまに私は溜息を吐きたくなった。
この手合いは本当に面倒なのだ。
でも既にやらないという選択肢はなくなってしまった。
私はジッと連れのお嬢さんを見ながら尋ねた。
「戦後のフォローやごたごたはそちらで?」
「もちろんだとも。レディ」
まぁ、その辺は信じるしかない。
―― エコが決闘を申し込みました ――
「仕儀は御随意に」
「かたじけない」
―― フラウゼンが決闘を受け入れました ――
おじさまの頭上に名前が現れた。
それを何気なく確認して、
!? レベル30・・・・・・!!
まさかのスタダカンスト勢。
ステ振りどうなってるんだろう?
下手すると一撃で落とされる?
―― 方式が選択されました。 1 Point Alive ――
―― 開始まで30秒です ――
つい先日見たばかりの青い膜がドーム状に広がる。
周囲がざわめき、野次馬が足を止める。
私が得物を抜き放ち、いつもの構えをとると、フラウゼンおじさまも背の大剣を両手で持ち、腹よりやや低めの位置に構えた。
「武州は品川、主無き剣侠。名は――」
ふと、突然ミスターウサギの呟きが脳内に閃いた。
――どとくのむすめ。
どとくとは土徳か。
なるほど確かにドワーフなら土気か火気だものね。
このゲームだと土徳なのか。
てかこのゲーム四大じゃなくて五行なの?
西洋ファンタジーなのに?
そんな直感に浸ったせいか、名乗りの途中で止めた私をおじさまは訝かしんでいた。
「失礼。土徳の民にして、我流の者。名は今はエコでお許し頂きたい」
そこまでスラリと口上すれば、おじさまはふわりと笑みを浮かばれた。
「王国騎爵にして国軍騎士、デラルデン式剣術を修め、古くは白騎士を祖とし、ミディルデン及びサーフェリアが倅、フラウゼンが一手ご教授願い奉る。よしなに」
「・・・・・・いざ」
「・・・・・・では」
―― Set ――
空気が張り詰めて、意識が醒めていく。
―― Ready ――
もはや雑念はなく、あるのは如何に首を刎ねるかの一念のみ。
私の刃はあの堅牢な鎧も一振りで斬り飛ばせる。
一振り。たった一振り当てればよい。
それで、事足りる。
ずいぶんとタッパが違うが、歯牙にも掛けぬ。
只、跳び、只、振るうのみ。
―― Fight! ――
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