第5話 初期町を見てみましょう。おばあちゃんかわいい。


「おぉ~! すっごいヨーロピアンテイストだぁ! 新鮮!!」


 宿屋を出てみれば、そこはおっきな広場でした。

 色とりどりのレンガで鋪装された地面が華やかで、周りに建ってる家々も鮮やかでかわいらしい。


「今まで西洋風っていえばオランダ出島かポルトガル出島だったからなぁ。本場ステキすぎぃ」


 ついついきょろきょろ辺りを見てしまう。

 広場の中央にはお洒落な噴水が設置されていて、その外周には木製のベンチが置いてあって、いろんな人が座っていた。

 大道芸をするヒト。それを眺めながら談笑するヒトビト。

 ペットのお散歩の合間なのだろう休憩してる老夫婦。デートの待ち合わせをしている風な女性。

 駆け回る子供達。追っかけるにゃんことわんこ。


「いいわぁ。ステキ~。・・・・・・それに対して」


 広場の一角には地べたに座ってなにやら談話している貫頭衣の一群。

 その他にも呆然と立ち尽くしてる浮浪者じみた集団も居るし。

 足早に広場を去っていくのも居る。


 プレイヤー達不審者すぎでわぁ?


「でも・・・・・・」


 そんな不審者浮浪者にしか見えないのがいっぱい居るというのに周りのNPCっぽいヒト達はにこにこ彼らを見ていた。


「ゲームだから、じゃないわよねぇ」


 そんなご都合主義なVRゲームは昨今存在しない。

 なぜならNPCの管理は基本AIに丸投げするから。

 AIに丸投げすることで負担を減らした代わりに、プレイヤーに優しくなくなったのが今のNPC。


 と、いうことでスルスル移動してぼんやり座ってにこにこ景色を眺めてるお婆さんに近づく。

 お婆さんの頭上にはNPCを示す緑色のアイコン。ついでにプレイヤーは灰色でエネミーは赤だったりする。


「こんにちわ」


 挨拶しながらお婆さんのお隣に座る。


「あら。かわいい渡り人だこと」


 やった。ほめられた。アバターエディットに時間掛けて正解だったね。っと、違う。情報収集。


「渡り人、ですか?」


 おばあちゃんがにっこりとほほえみかけてくれた。このおばあちゃんめっちゃかわいい。


「そうよ。神様が世界を良い方向へ導く為にこの世界に連れてきて下さるの。それが渡り人。詳しいことは神殿に行くと神官様が語って下さるわ」


 なるほど。そういう設定なのね。


「ありがとうございます。おばあさま」


「ふふ。丁寧な子ね。私、礼儀正しい子は好きよ。・・・・・・そうだ。クッキーをあげるわ。お腹がすいたら食べてね」


 そう言っておばあちゃんが紙袋に入ったクッキーをくれた。やったぜ。


「ありがとうございます。おばあさま、お名前は?」


「わたし? アンよ。お嬢ちゃんは?」


「私はエコといいます」


 お、NPCアイコンの横に名前が表示されるようになったね。

 積極的に名前聞いてった方がいろいろいいかも。


「エコちゃんね。私の娘夫婦が2番街の18番通りでお菓子屋さんをしているから、気が向いたら寄ってね。18番通りはお菓子屋さんがひとつしかないから間違えることはないわ」


 おぉ? この町の通りは番号で管理されてるのかな? 番地表札とかあったりするのかしらん?


「必ずいきますね。あ、そうだ。近くで安い服屋さんはありますか?」


 するとおばあちゃんは何か考える仕草をして、広場の東側を指さした。


「あの通りが3番通りなのだけど、通りに入って二件目が古着屋さん。五件目が新品販売の服屋さんよ」


 広場の東側に繋がっている通りはなんかちょっと幅が狭くて主要道路じゃなさそうだけど、お奨めされるって事はきっといいことがあるのかな?


「そうなんですね。教えて下さってありがとうございます」


「いいのよ。幾ら神様からの頂き物だからってその布の服だけじゃ下着が見えちゃうかもしれないものね。女の子がそれだけで歩き回るのはダメだわ」


 あ、やっぱり動くと見えちゃうよね。

 運営にメールしとこうかな。せめて腰巻きくらい用意しとけって。もしくは裾長くしてもらうか。


「それじゃ、わたし、そろそろ行きますね」


「えぇ。あなたの先ゆきに幸多からんことを願って」


 ん? 別れの挨拶みたいなものかな?


「あなたの先ゆきに幸多からんことを願って?」


 おばあちゃんにこにこしてるからたぶん間違ってないかな?

 ひらひら手を振って、私はおばあちゃんと別れた。

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