残虐な記憶の欠片

ケルベロス

第一章 君との紲

第一話

 『もし、私たちが自分の罪を言い表わすなら、 神は真実で正しい方ですから、その罪を赦し、 すべての悪から私たちをきよめてくださいます』


 ヨハネの手紙 第一 1章9節より



 §§§



 俺は人を殺した。殺した奴は学校で憎かった奴。いや、実の弟だ。でも、十三才の俺のことを世間は許してくれた。暖かく迎えてくれた。


 俺の名前は――高島 カイ。殺した弟の名前は高島 阿部アベ


 俺は家には居られなくなって児童養護施設に移った。

 

 親は弟の死を知って嘆き、苦しんだ。


 俺は児童養護施設で規則正しい生活を送っていた。


 施設での生活のほうが、俺は楽だった。何故なら、親は俺ではなく弟ばかりに愛情を注いでいたからだ。だから俺は手をかけた。殺した。あいつの心臓をぶち抜いた。


 児童養護施設は――失園村しつえんむらにある。失園村は、かなりのド田舎で近くのコンビニに行くのに、一時間は掛かる。


 俺はそんな人里離れた村にいるが、あまり苦労はしていない。


 新しい中学でも友達ができたし。施設の職員も優しいし。とても生活を送っている。



 §§§



 夏の畦道。俺と友達の――美佳ミカは帰宅途中だった。赤く染まった空を後ろに流し、蝉の鳴き声を聞き入っていた。


 「――ねぇ」美佳は蝉の声を遮り、話しかけてきた。


 「明後日、皆で遊びに行こうよ。どうかな?」美佳ははにかみながら問いかけた。


 「もちろん。いいと思うぜ!!」俺も笑いながら答えた。


 そこから田んぼを見つめながら歩き、美佳の自宅と俺の施設の分岐点で、美佳と別れた。


 「遊びかー、久しぶりだな」俺はそんな楽しいこと、二ヶ月ぶりだな。親は弟を殺した俺を憎み、虐待をされまくった。『お前をぶち殺す!!』そんな親の言葉を頭の中で反芻する。あんな状況で遊びには行けなかったからな。



 翌日、学校に着くと友達が俺を暖かく迎えてくれた。


 「よぉ、佳」この声の主は絵留エル。筋肉質で、やけに元気な奴だ。


 「おはようですぅ」この声は、小さくて小学生と見間違えるような子で名前は紗良さら。とても可愛らしい。


 「オハヨウ」この声の主は、アリエル。外国人だが、どこの国から来たのかは教えてくれない。かなりの豊満と大人の雰囲気で、中学生とは思われないらしい。


 「作戦会議です!!」美佳の声だ。「全員定位置についてください」


 美佳の机を囲むように椅子を並べ、皆が同時に座り、真ん中に座った美佳の話に耳を傾ける。


 「明日はこの村を抜け出して、遊びに出掛けましょう!!」


 「さんせいさんせいぃ」紗良が言った。


 「イイトオモウヨ」アリエルが笑いながら言った。


 「俺は美佳さんの為なら天国のその先でも行きます!!」


 俺達は明日、他の村に行って遊ぶことで意見が固まった。


 


 


 

 

 


 

  



 


 


 

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