第189話・パティオンとブリザラ
「じゃ、行くわよ」
「へいへい……っつーか、うちらだけ?」
「ええ。フリアエの人形を連れて行くわけには行かないでしょ。それに、大罪神器がどこにいるか知ってる?」
「シラネ」
「常夏の国ワイファよ。あそこでバカンスでもしながら、【傲慢】を探すんじゃないかしら?」
「探すのはともかく、バカンスってなんだよ……」
「あのね。【暴食】たちは男一人に女四人のメンバーで行動してるのよ? 人間のオスは性欲が旺盛だって言うし、きっととっかえひっかえヤッてるんだわ」
「そーは思わんけど……」
パティオンとブリザラは、女神らしい移動法を使わず、普通に歩いてファーレン王国を出発した。
目的はライトたちの捜索。事前に位置はある程度把握しているので、迷わず進めるだろう。
「とりあえず、【暴食】たちを見つけたら」
「バトルスタート?」
「違うっつの。少し話をしてみたいわね……もしかしたら、使えるかも」
「何に?」
「……私たちの武器としてよ」
「武器?」
「ええ。って、あんた質問してばっかり……少しは考えなさいよ」
パティオンはジト目でブリザラを見る。だが、ブリザラはどうでもいいのか、欠伸をしてパティオンの後ろを歩いていた。
「なぁ~、ワイファ王国とやらまで遠いんだろ? メシ食わね?」
「…………あんた、ほんっっと役立たずね」
「うちのやることは傍観だろ? フリアエの味方もあんたの味方もしない。戦わないし何もしない。事が済んだら神界に帰る。だろ?」
「はいはい。そうね……じゃ、適当な町で食事にしましょ」
街道を歩く美女2人。
パティオンは長い黒髪に白を基調としたワンピースを着て、ブリザラは白銀の髪に雪のように白い肌、ロングコートのような服を着ていた。
どう見ても街道を歩いて町を目指すようなスタイルではないが、人目を気にしていない2人にはどうでもよかった。
「なぁなぁ、人間の世界ってけっこう楽しみじゃね?」
「……いいから、さっさと行くわよ」
ワイファ王国までは、まだまだかかりそうだ。
◇◇◇◇◇◇
ワイファ王国領に入ったパティオンとブリザラは、本国に入る前に近くの町に入った。理由は簡単、日が暮れてしまったからである。
人間の金はいくらでも魔術で作れるパティオンは、村で一番高級な宿に部屋を取った。人間の世界のルールは守るつもりである。
「夜かぁ……神界じゃずーっと明るいからな」
「だからこそ、神界を闇に閉ざした馬鹿な子がいたでしょ? キルシュを半殺しにして、私たちが総出になってやっと神界を追放できるくらいの強さを持ったあの子」
「ああ、ツクヨミね……そんな奴いたっけ」
ツクヨミ。
人間界では、第八相『闇夜の女神』ツクヨミと呼ばれている。強大な力を持つ『八相』最強の存在として認知されている。
「できれば、あの子も仲間にしたい。いざという時のカードは多い方がいい」
「いざ、ねぇ……」
ブリザラは、部屋にあったウェルカムフルーツのリンゴを齧る。
「最悪の場合、フリアエを殺すの?」
「ええ。人間界で死ねば魂は神界に帰るわ。あとは……お仕置きの時間ね」
「こわっ。まぁ好きにしたらぁ?」
「言っておくけど、私はいろいろ考えてるわよ。フリアエの目的が私たちを始末するってことも考えないと……【暴食】に喰われたら、私たちでも消滅しちゃうからね」
「へいへい。ま、うちは【暴食】と殺りあうつもりないから」
「……とにかく、用心はしないと」
パティオンは、フルーツに目もくれずに窓を開ける。
外は暗く、町はまだ明るい。深夜営業の酒場や店などがけっこうあるようだ。
「夜……ツクヨミの時間ね」
「ツクヨミ、どこにいるか知ってんの?」
「……たぶんね。この夜そのものがツクヨミなのよ。人間界に【夜】をもたらした女神、それがツクヨミ」
「う~ん……フリアエよりヤバい?」
「ええ。呼べば出てくるような存在ではないけど……それでも呼ばなきゃね」
「どうやって?」
「大罪神器の力が必要ね」
「は?」
パティオンは窓を閉める。
「ツクヨミと【暴食】、二つを引き合わせる」
「……ガチで言ってんの?」
「ええ。ツクヨミの弱点、そこを突くわ……上手く行けば、二つを手に入れられる」
「……フリアエよりあんたのが怖いわ」
2人の女神は、ツクヨミとライトのことを話し始めた。
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