第188話・女神トーク

「で、うちを呼んだのは……大罪を止めるためか?」

「ええ……女神を殺す大罪神器を放ってはおけない。ルール違反だけど、私たちが直接出向いて始末するしかないわ」


 ファーレン王城にあるありふれた一室。そこに強靭な結界を張ったパティオンは、白銀の女神ブリザラを呼んで話し合いをしていた。

 ブリザラは、その名の通り白銀の髪をポニーテールにした女神だ。キルシュに次ぐ戦闘能力を持った武闘派で、タイマンではパティオンといい勝負をしていた。

 この場にいるのは二人……。


「……なぁ、キルシュが殺られたっつうんは」

「本当よ。間違いない、フリアエの力を得た人間がキルシュを殺した……」

「……マジか」

「ええ。ブリザラ、はっきり聞くわ……あなた、フリアエを信じることができる?」

「……カカァを復活させるっちゅうやつか?」

「ええ」


 母なる女神テレサの復活。それは、全ての女神が望むことに違いない。

 なぜ消えたのか。その理由は未だにわからない。

 ある日、いつの間にか消滅していた。本当にそうとしか言いようがなかった。

 その日から、女神は人間の信仰心を集め、強大な力を得ようとした。力を集め、母なる女神を復活させようとしていた。

 フリアエが人間に《ギフト》をばら撒き始めたのが、このころからだ。


「おい、おめぇが言ってた新人はどうした?」

「……キルシュを殺した奴なんて信用できない。あの子、リリカだったかしら?……フリアエの忠実な道具みたいね」

「ふーん……で、どうすんだ?」

「フリアエの狙いを探る。どうも……お母さんの復活だけじゃない気がする」

「おいおい、仲間を疑うのか?」

「その仲間を殺せる力を人間に与えたのはフリアエよ」

「…………」

「ブリザラ、はっきり決めて。私は今のフリアエは危険だと思う……素直に従うのは……待て、待て待て。おい、なんで私があいつに従わねぇといけねぇんだ? ふざけんじゃねぇぞ!!」

「お、おいおい。勝手にキレんじゃねぇよ……まぁいい。うちは神界でのんびりしたいだけだし、正直フリアエが何しようがどうでもいい……適当に付き合って神界に帰らせてもらうぜ」

「それでいいわ。一応、あなたは私の頼みでここに来たってことになってるから、少しはやる気を出しなさいよね」

「へいへい」


 パティオンは少し考え込む……そして、驚くようなことを言った。


「場合によっては……大罪神器に接触することも視野に入れないとね」

「は?」

「…………仲間を喰い殺した【暴食】の話も聞く必要があるかも」

「おいおい……マジで言ってんのか?」

「ええ。それに、いざという時のために準備はしておく」

「……なに考えてんだ?」

「フリアエが私らを狙うことも考えておくのよ。いい? 女神を殺せる力を人間にばら撒くフリアエが、私らに牙をむかないとも限らないでしょ? あの子が何を考えてるかわからない以上、対策は必要よ」

「……おいおい、フリアエと戦うってのか?」

「ええ。場合によってはね」


 ブリザラは嫌そうに顔を歪めた。

 フリアエの直接的な戦闘能力はよくわからない。でも、キルシュを殺した人間……いや、女神が付いている。

 キルシュの戦闘力は、パティオンとブリザラを合わせたくらい。今のパティオンで勝てる相手ではない。


「で、対策って?」

「一人、心当たりがある……人間界に追放された、一人の憐れな女神」

「…………おい、もしかしてあのサイコ野郎か?」

「ええ。確か、人間にはこう呼ばれているわ」


 パティオンは、少しだけ震えて言った。


「第八相『闇夜の女神』ツクヨミ……彼女なら、対抗できる」


 ◇◇◇◇◇◇


 勇者レイジは、ひたすら怯えていた。


「嫌だ、いやだ、イヤダ……死にたくない、死にたくない、しにたくない……」


 ファーレン王国の私室で、国政を全て大臣に任せ、ひたすら怯えていた。

 聖剣は部屋の隅に転がり、布団をかぶったまま動けない。

 勇者レイジは、完全に壊れていた。

 死の恐怖が襲い掛かり、夜も眠れなくなっていた。


「帰りたい……帰りたい……家に帰りたい」


 爪を噛みすぎたせいで指先はボロボロになり、風呂にも入っていないので無精ひげが伸び、ろくに寝てもいないので目は真っ赤でクマができていた。

 

「う、ぅぅ……怖い。怖いよぉ」


 憐れな勇者レイジは、怯えることしかできなかった。

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