第184話・止めるための戦い
ライトは、しぼむ心を奮い立たせ、ストライガーの前に立つ。
リンやマリア、シンクとメリーは戦っている。自分だけが寝ているわけにはいかない。
カドゥケウスを握りしめ、ストライガーを睨みつけた。
「お前……一人で逃げるつもりか」
「そ、そうさ!! 悪いか? オレは自分が大事なんだ!! 死にたくないって思うのは普通のことだろうが!!」
「……そうだな。誰だって死にたくない……でも、これだけは言える。お前はクソ野郎だ!!」
「うるさいっ!! どけよ!!」
ストライガーはライトを押しのけるように歩きだすが、その肩をライトは掴む。
「しつっこいな……」
「っぐ……」
ストライガーの目が変わる。
【強欲】の力が、『ライトがストライガーの腕を掴む』という行動を奪う。
目を見なければいい。だが、ライトは『ストライガーの目を見てはいけない』という意志を奪われ、ストライガーを見ると必ず視線を合わせてしまう。
ストライガーにとって、ライトは敵ではない。敵ですらない。道端に転がる石にすぎないのであった。
「っぐ、っく……」
掴むこともできない。
攻撃もできない。
目を見ることしかできない。
そもそも、戦う気がおきない。
なら、ライトにできることは?
「…………リンたちを、取り戻す」
そう、リンたちを取り戻す。
そのためには、ストライガーを止めなくてはならない。
考え方を変えろ。
戦うのではない。止めるのだ。
そのためにできることは。
「そうだ。止めるんだ……」
祝福弾を装填する。
戦うな。止めろ。とめる。そのために必要なことをしろ。
自分に言い聞かせ、引き金を引いた。
「氷結……『
弾丸が発射され、祝福弾がストライガーの脇を通り過ぎ地面に着弾。
氷柱が立ち、そこから青い幼女が姿を現した。
第二相『氷結の女帝』クレッセンド・ロッテンマイヤー。
ライトに喰われ、弱体化したが能力は健在。氷を自在に操る可愛らしい少女が、小首をかしげながらライトに聞いた。
『久しぶり!! お兄さん、なにすればいい?』
「……目の前にいる男を、『止めろ』!!」
『はーい!!』
「な……っ、な、なんだこれっ!?」
そうだ。戦わない、止めればいい。
そのための力なら、何発でもあるじゃないか。
ライトは、クレッセンド幼女に命じる。それだけでいいのだ。
「な、なんだお前っ!!」
『お兄さんを止めればいいのね? じゃあ、カッチカチにしちゃいまーすっ!!』
「と、止まれ!! 『オレに近づくなっ!!』」
ストライガーの目の色が変わり、クレッセンド幼女を睨む。
だが、クレッセンド幼女は首を傾げるだけだ。
『? 目、いたいの? 色がへんだよ?』
「なっ……ど、どうして!? ギルルダージュ!!」
『……ありゃ、人間だけど人間じゃねぇ。中間みてーな存在だねぇ……カドゥケウスの力も交じってやがるから効かねぇみたいだぜ』
「な、そ、そんなのどうすれば」
『逃げな……って、無理か』
すでに、氷のサークルが完成していた。
クレッセンド幼女が両手をワキワキさせ、じりじりと詰め寄ってくる。
『おにいさん、つーかまーえたっ!!』
「っぐ、あぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーッ!?」
クレッセンド幼女がストライガーに抱き着いた瞬間、ストライガーの四肢が一気に凍り付き、首から下が完全に凍ってしまった。
『やった!! 捕まえたよーっ!!』
「……よくやった」
『えへへー』
ライトはクレッセンド幼女の頭を撫で、氷漬けのストライガーに言う。
「リンたちを元に戻せ」
「わわわわかったぁぁぁぁぁーーーーーッ!! 死にたくない死にたくないぃぃぃぃっ!! からだ、身体が凍り付いてるぅぅぅぅぅっ!!」
「早く戻せっ!! 死ぬぞっ!!」
「もも、戻れって、もどれぇぇっ!!」
ストライガーの目が発光し、白い光が発射された。
白い光はリンとライトに命中、すると、リンたちは一瞬だけ痙攣をおこして気絶してしまった。
植え付けた記憶の抹消と改竄……リセットをした反動だ。ライトは頭を押さえふら付くがなんとか堪える。
サニーがリンを抱きかかえ、メリーはマリアを、バルバトス神父はシンクを支えた。
バルバトス神父の身体は元に戻り、小さく息を吐く。
「ふぅ……終わったようだね」
「たたた、助けてくれぇぇぇっ!! 寒いよぉぉぉぉっ!!」
ストライガーの叫びが、周囲に響き渡った。
◇◇◇◇◇◇
ライトはストライガーの氷を砕き、目に手ぬぐいを巻き付け全力で殴った。
ストライガーの歯が何本か折れて吹っ飛び、メリーと一緒に本気で脅して解放した。『俺たちに近づけば命はない』、そう言うと、ストライガーは首を何度も振って逃げ出した。
ライトは、バルバトス神父たちと一緒にマリアの別荘へ。
気を失ったマリアたちをベッドに寝かせ、バルバトス神父とサニーにお茶を出した。
「本当に、ありがとうございました」
「いや、気にしなくていい。それよりも、メリーくんの強さに驚いたよ」
「……確かに」
メリーを見ると、ソファに座ってクッキーを齧っている。
メリーがこんなに強いとは思わなかった。メリーが『あたしが戦う』というのは、冗談でもなんでもなかったようだ。
ライトは、メリーの頭に手を置く。
「メリー、ありがとな。お前のおかげで助かった」
「別にいい。あたしもみんながもどって嬉しいから」
メリーは、この先大きな戦力になる。それが確認できただけでも収穫だ。
サニーは紅茶を飲み、バルバトス神父に言う。
「神父様。これから私たちは……」
「もちろん。贖罪の旅をつづけるさ。サニーくん、何度も言うが、無理をして付いてこなくても」
「いえ、行きます」
「……やれやれ」
どことなく嬉しそうなバルバトス神父。
この二人にも、たくさん助けられた。
「バルバトス神父。それと……サニー。今回の件は忘れません。何かあれば力になります」
「ああ。ありがとう」
「……少しは、恩返しできましたか?」
「あ?」
「いえ、なんでもありません」
バルバトス神父とサニーは旅を続けるという。
いつか、どこかで会えるだろう。そう言って、二人は去っていった。
別荘の前で見送り、部屋に戻ると……。
「……ライト、メリー」
「……わたし、は」
「……うぅ」
リン、マリア、シンクが、目を覚ました。
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