第179話・戦力確保

 メリーは、乾パンをモグモグ食べながらライトに聴く。

 岩場の隠れ家のテントの中。ライトとメリーは作戦会議中だ。


「どうするの?」

「あいつら、まだマリアの別荘にいるのか?」

「うん。別荘でくつろいでからダンジョンに戻るって。500階層まで行ったって言ったら、あのキモい人喜んでたー」

「……ちっ」


 ストライガーは、ダンジョンで稼ぐ冒険者だ。

 ライトやメリーは興味なかったが、500階層となるとかなりの強敵ばかり出現する。修行相手としか見ていなかったが、魔獣の部位を売れば一生遊んで暮らせるほど稼ぐのも難しくない。

 ライトたちがヤシャ王国に来たのは、大罪神器の情報を集めるためだ。ファーレン王国を中心とした四カ国全てを巡ったため、ふりだしであるヤシャ王国を再び探すためである。

 またダンジョンに戻るのは、正直意味がない。

 ある意味、【強欲】の大罪神器を見つけたという結果はあるが……。


「カドゥケウス。ストライガーを殺せばリンたちは戻るか?」

『多分な。ギルルダージュが奪ったモンは全て戻る……と思う』

「アルケイディア、どうなの?」

『さーね。でも、戻ると思うわ』

「……根拠が薄いな。イチかバチかの賭けになるかも」


 居場所は、マリアの別荘だ。

 勝利条件はストライガーの殺害。そしてリン・マリア・シンクの解放。

 戦力はライト、メリー。だがライトはストライガーに対して『戦意』を奪われており、メリーは戦い向きの力はない。

 リンたちは、ストライガーの『仲間』として『感情』を植え付けられている可能性がある。正面から向かえば、リンたち三人と戦うことになる。

 

「……かなり厳しいな」


 ライトは、今のままでは厳しいと思った。

 この状況でストライガーの殺害を行うのは不可能に近い。

 チラッとメリーを見るが、美味しそうに乾パンを食べている。


「…………」

「もぐもぐ……どうしたの?」

「いや、食べたらリンたちの様子を探りに行くか」

「うん」


 やはり、頼れるのは自分だけ。

 せめて、メリーに危害が及ばないように守ろう。そう決める。


 だが、この時点でライトは読み違えていた。


 ◇◇◇◇◇◇

 

「おや」

「あっ……」


 ヤシャ王国・下町。

 以前、ライトとリンとマリアの三人だけだった頃には踏み込んだことがない、下級層の住人が住まう区画で、ライトとメリーは再会した。


「ば……バルバトス、神父!?」

「やぁライトくん。元気そうで何よりだ……おや、そちらのお嬢さんは?」

「メリー。よろしく、おっきな人」

「ははは。これは可愛らしいね。っと……リンくん、マリアくん、シンクくんは?」

「あ、あの、神父様……私は」

「おっと、済まないねサニーくん。ライトくん、彼女を知っていると思うが紹介させてくれ。彼女はサニー、最初はきみの元への案内だけだったのだが、私と一緒に贖罪の旅をしたいということでね……修道女として同行をしてもらって」

「バルバトス神父!! そうだ……お願いします、協力してください!!」

「お、おお?」


 ライトは、髪が短くなり修道女の服を着たアンジェラ、もといサニーを無視し、バルバトス神父に詰め寄った。

 大罪神器【憤怒】のバルバトス神父。これ以上無い戦力ではないか。

 サニーもバルバトス神父も驚くが、バルバトス神父はライトの両肩に手を置く。


「落ち着いて。まずはゆっくり話をしよう。ちょうど宿を取ったのでね、そこに行こうか」

「は、はい」

「えっと、わ、私……」

「ねぇねぇ、お菓子買っていい?」


 困惑するサニー、団子屋を見てヨダレを垂らすメリーを連れ、四人はバルバトス神父が取った宿へ向かった。


 ◇◇◇◇◇◇


 下町の安っぽい宿の一室だった。

 ベッドが二つと窓際に小さな円卓と椅子が一脚、小さなタンスが一つだけしか置いていない部屋だった。

 バルバトス神父は椅子に座り、メリーは床に座ってライトとサニーは並んでベッドに腰掛けた。

 ライトは、これまでの事情を全て説明する。


「なるほど……【強欲】ときたか」

「はい。あいつの能力で今の俺は戦えない……お願いします、俺に手を貸して下さい」

「…………」


 バルバトス神父は腕を組み、静かに瞑目する。


「話し合うことはできないのかな?」

「…………」


 そうだ。バルバトス神父はこういう人間だった。

 ライトは頭を抱えそうになる。話しをするということは、ストライガーは望むところだろう。感情を奪い、植え付ける隙を与えるだけだ。


「……無理です。あいつの能力は話すだけでも危険だ。バルバトス神父、あいつを叩きのめす力を貸して下さい!!」

「…………ふむ」

「ライト様……」

「……お前も、力を貸してくれ。お前相手なら、リンたちも油断するかもしれない」

「私は構いません。あなたには恩がありますので……ですが、神父様は」

「…………」


 戦いに消極的なバルバトス神父は、押し黙る。

 恐らく、バルバトス神父とストライガーの相性は最悪だ。有無を言わさぬ一撃でストライガーの殺害をする。それがバルバトス神父に求めることだ。

 ライトは、小さく息を吐く。


「……わかりました。無理を言ってすみませんでした」

「……待ってくれ。話をすれば」

「駄目です。申し訳ないですが、この件には絶対に関わらないで下さい。バルバトス神父は話せばわかると仰るでしょうが、ストライガー相手じゃそれは命取りだ。操られたあなたが襲い掛かってくることになれば、俺たちは間違いなく敗北する……」

「…………」

「メリー、行くぞ」

「いいの?」

「ああ。あと、お前も悪かったな。もし協力するってんなら、バルバトス神父がこの件に関わらないように抑えてくれ」

「あ、あの……でも」

「じゃあな」


 ライトは立ち上がり、メリーと一緒に外へ出た。


 結局、協力は得られなかった。

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