第168話・順調に進んでいます

第五相『大迷宮』ラピュリントス・101階層。

 ここは休憩スポットなのか。半円形のドーム型空間にはテントが設営され、数組の冒険者たちが暮らしているように見えた。

 ライトたちに声をかけた長髪の冒険者は、にこやかな笑顔で言う。


「ここまで来た冒険者グループは久しぶりだ。並の冒険者は下層で稼ぐ人ばかりだからね……本気で踏破を狙わなきゃ、ここまで来ない」


 しみじみと言うが、踏破など考えてないライトたち。

 すると、冒険者の相手は任せろとリンが前に。


「あの、私たち初めてで……ここは?」

「ここは『休憩階層』って呼んでいる。100階層ごとに設けられた空間で、魔獣もいないし水もあるし、なんとトイレまである特殊な空間なんだ。転移魔法陣もあるからいつでも地上に戻れるし、高ランク冒険者はここを拠点にして探索をする」

「へぇ……こんな空間が」


 長髪の冒険者は手を胸に当てて微笑む。


「オレは金級冒険者ストライガー、仲間と一緒にここで稼いでいる。わからないことがあったら聞いてくれ」

「あ、ありがとうございます。私は銀級冒険者リンです。仲間と一緒に鍛えるために来ました」

「鍛える……へぇ、立派なもんだ。その若さで銀級とは」

「い、いえ……えへへ」


 ストライガーと名乗った長髪の冒険者は、仲間のいるテントに戻った。

 戻るなり、楽し気な会話をしている。きっと付き合いが長いのだろう。

 リンは、周りを見ながら言う。


「どうする? そろそろ夕方になるし……戻る?」


 反対する者はいなかった。

 ライトはともかく、マリアとシンクは連戦で限界だったのだ。

 戻り、軽めに夕食を取って入浴。ライトは一人で眠り、女子は三人部屋で眠る。

 特にイベントもなく一日が終わった。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 再び101階層へ来たリンたちは、ストライガー一行に鉢合わせした。

 

「おや、昨日の」

「おはようございます。これから探索ですか?」

「ああ。120階層までは行けるからね。今日はもう2階層ほど進んでみる予定だ」


 ストライガーの仲間は三人。戦士、魔術師、格闘家で、全員が銀級の冒険者。しかも女性だ。女性だからと言って舐めるつもりはない。自分たちも似たようなものだ。


「ああ、紹介するよ。オレのパーティーで、戦士のアイシャ、魔術師のピピ、格闘家のロゼだ。みんな銀級でとても頼りになるよ」

「アイシャよ。よろしくね」

「ピピです……どうも」

「ロゼ。ま、同級だしよろしくな」

「り、リンです。よろしくお願いします!」


 大人の女性たちに挨拶され、カチカチになるリン。

 ライトたちも適当に挨拶し、ストライガー一行はダンジョンの奥へ向かう。


「行こう」

「ええ。ストライガー、油断しないように」

「はいはい。ピピ、大丈夫?」

「うん」

「ロゼ、油断しないようにな」

「しないっつの! 見てろよストライガー、あたしの足技のすごさ、知ってんだろ?」


 四人の冒険者は、仲良くダンジョンの奥に消えた。

 リンはその後ろ姿を見送り、ゆっくりと振り返る。


「くぁぁ~っ……なぁ、さっさと行こうぜ」

「むぐむぐ……マリア、くるしい」

「はぁぁぁ~ん……クッキーを齧るシンク、小動物みたいで可愛いですわぁ♪」

「……zzz」

「…………はぁ、うちはこれか」


 肩を落とすリンは、ダンジョンに入ってもいないのに疲れていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 ライトは、祝福弾を使わず通常弾だけで魔獣の群れを屠っていた。

 銃弾一発でオークは倒せる。だが、あえて撃たずに素手で叩く。

 ライトは、自在に変化する左手をいくつかの形状に固定する。

 

「抉れッ……!!」


 シンクを見て思いついた『巨爪』、マリアの百足鱗を見て思いついた『荊鞭』、そして巨大な拳。これが現在のパターンだ。

 硬度も高く、オークのハンマーや棍棒を受けてもビクともしない。

 接近・中遠距離、全ての距離で戦える。それがライトの強みだった。もちろん、祝福弾やカドゥケウスの能力もプラスされる。

 戦闘能力はパーティーいち。ライトは、手に負えないレベルで強くなっていく。


「よし、終わり」


 オークの集団を壊滅させ、ライトは息を吐く。

 現在145階層。ダンジョンに挑戦して三日目……驚異的な速度だった。

 途中、すれ違う金級冒険者グループもいたが、リンが挨拶するだけでライトたちは無視。徐々にだが『挨拶のできない連中が高階層にいる』と、噂されるようになる。

 もちろん、そんな声は気にすることはないが。


 こうしてライトたちは順調に進み、一週間で400階層まで到達した。

 前代未聞。冒険者ギルドは大騒ぎ……にはならない。

 どの階層まで進んだかは、登った冒険者にしかわからない。

 自己申告とギルド職員の同行により、初めて高階層に登ったと認識される。だが評判を気にしない一行は、400階層に到達しても何も言わなかった。


「おい、敵が強くなってる……気を付けろ」

「ドラゴンの群れ、強かった」


 ライトが警戒するが、シンクはニコニコしたままだ。

 リンは念のためマップに記入しながら進む。さすがに、リンだけでは魔獣の集団を相手にするのが辛くなっていた。


「マリア、次に魔獣の群れが出たら、一緒に」

「お任せを♪」

「だ、抱き着かなくていいってば!」


 メリーは、戦うというか『盾』として使われている。

 ドラゴンのブレスですら『怠惰』の力で停滞させてしまうのだ。どんな攻撃も、メリーには届かない。


「くぁぁ~……ん、たまには歩こうかな」

「そうしろよ。マリアに担がせすぎだぞ」

「ん~」


 一行は、順調に進んでいる。

 もうすぐ、500階層……そこに、何かがいる。


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