第五章・大罪神器【怠惰】アルケイディア・スロウス

第148話・リンと一緒に町へ

 ライトたちは、国境の町にやってきた。

 ここまで来ると雪も消え、街中は明るくポカポカしている。厚着していると汗が流れるので、四人はコートを脱いでラフな服に着替えを済ませた。

 この町で支度をして、ウェールズ王国へ向かう。


「食料と服、あと……デカくなったこいつを入れるホルスターだ」

『悪いね相棒、カッコいいのを頼むぜ』

「はいはい。てきとーにな」


 カドゥケウス・セカンドを入れるホルスターとベルトだ。

 武器屋で特注になってしまうので、何日かは滞在しなくてはならない。まずは宿を取り、馬たちを休ませることにした。

 町一番の宿を取り、マリアが宿泊代金を支払った。マリアの個人資産は未だに謎で、どこに大金を隠しているのかはリンですら知らない。白金貨をジャラジャラと出した時には驚いた。

 部屋に入り、シンクはさっそくマリアに言う。


「ボク、美味しいご飯が食べたい」

「わたし、美味しいスイーツが食べたいですわ」


 マリアとシンクがそう言った。

 しかも、マリアの手には町のカタログらしきものがある。どうやら百足鱗を伸ばし、町のどこかから拝借したらしい。


「マリアマリア、ここ行きたい」

「ここ、焼き肉屋ですわ。わたしには少し重いですわね……こちらのケーキ屋さんはどうです? カフェもありますし」

「いいよ。でもお肉食べたい」

「わかりましたわ。リン、あなたは?」

「んー……ライトに付き合うよ」

「え? 別にいいけど」


 シンクとマリアは食べ歩き、ライトとリンは武器屋へ向かうことになった。

 その後、合流して買い出しを済ませ、町で夕飯を食べることになり、さっそく四人は別行動をする。

 ライトとリンは、久しぶりに二人だった。


「なんか、最初の頃に戻ったみたいだね」

「ああ。懐かしいな」


 賑やかな町を二人で歩き、武器屋を探す。

 大抵は町の中央に大きな武器防具屋があるので、探すのも楽だった。散歩を兼ねて探し、大きな武器屋を見つけさっそく中へ。


「武器、私も研いでもらおうかな……あまり使ってないけど」

「好きにしろよ。じゃ、オーダーしてくる」


 ライトは店主の元へ。

 店主にカドゥケウス・セカンドを見せ、『これを収めるホルスターが欲しい』と交渉をしていた。

 リンは、店の中を見て回る。


「はぁ~……私、役に立ってないなぁ」


 ふと、そんなことを考えてしまう。

 戦いでは大罪神器の三人がいる。リンは怪我を治したり、マルシアの力で隠れ家を提供したりと、どうも戦闘で役に立っている感じがしない。

 水属性の魔術ならだれにも負けない自信はあるし、剣術もそこそこだとリンは思っている。実際はこの世界最高の魔力量を持ち、回復魔術だけなら世界最高レベルなのだが、どうしてもリンは戦いで役に立ちたかった。


「……うん、やっぱりギルドで依頼を探そう。私でも戦えそうな、盗賊退治とか」

「終わったぞ。完成は二日後だ」

「うわわっ、お、驚いた……」


 ライトがひょっこり現れ、リンの隣で言った。


「何か買うのか?」

「う、ううん。大丈夫。えっと、冒険者ギルドに行かない? 時間もまだあるし」

「別にいいけど」


 マリアとシンクとの待ち合わせまでまだある。

 リンとライトは、冒険者ギルドへ向かった。


 ◇◇◇◇◇◇


「で、あったのか?」

「…………ない」


 ライトは冒険者ギルドに設置されてる椅子に座り、掲示板から帰ってきたリンに聞いた。

 リンが依頼に積極的になるのは珍しいと思い、様子を見ていたが、どうも焦りを感じた。


「なぁ、お前も銀級……上から四番目の冒険者だろ? そんなに焦らなくても、お前ならすぐに、ええと……レインボー級だっけ? になれるさ」

「……はぁ」

「お前、聞いてないな」


 リンは銀級冒険者。

 位で言えば高レベル冒険者に当たるのだが、その功績も自分だけの力じゃない。ライトたちがいたから、これだけ早く高いランクになれた。

 もちろん、冒険者で最強を目指しているわけではない。高レベルの冒険者になれば危険度の高い依頼を受けられる。強い賞金首や盗賊団の情報があれば新しい祝福弾を作れるし、冒険者ギルドでなければ得られない情報もある。それに、旅の資金だって稼げるのだ。

 なんとなく、リンは旅に貢献していない……ネガティブな思考に落ちていた。


「おい、リン!」

「ふわっ!? な、なに?」

「なに落ち込んでんだか知らないけど、とにかく帰るぞ」

「はーい……はぁ」

「やれやれ」


 ライトとリンが冒険者ギルドから出ようとした時だった。


「きゃっ」

「っと、悪いね」

「あ、いえ」


 リンが、膝まである黒髪の女性とぶつかった。

 慌ててリンが謝り、黒髪の女性がリンの頭をポンポンと叩く。

 年齢は二十歳くらいだろうか。女子大学生くらいの年齢だ。


「きみ、冒険者?」

「は、はい」

「そっちのは彼氏? へぇ、二人で冒険者家業か……若いねぇ」

「かかか、彼氏じゃないですっ! えっと、仲間で」

「ふふ、ごめんごめん。その若さで銀級って珍しくてね。じゃ」

「あ……」


 チラリと、女性の胸元で冒険者の証であるタグが見えた。


「え」


 色は、虹色……最高ランクの、レインボー級。

 この世界に四人しかいない、虹級冒険者の一人だった。


「あ、あの!」

「ふふ、励めよ若者!」


 女性は、柔らかな笑みを浮かべて受付へ行ってしまった。

 ライトは全く興味がないのか、一連の流れを見ても何とも感じていない。


「おい、メシ喰いに行こうぜ」

「…………」


 この出会いが、リンとライトにとって大きな意味のある出会いとなると、今はまだ気付いていない。

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