第149話・強さが欲しい

「ふぁぁ……なぁ、メシ食おうぜ」

「あ、うん……」


 リンは、黒髪の虹級冒険者と僅かだが会話した。この世界に四人しかいない最上級冒険者。聖剣を持っていた頃ならともかく、リンが敵う相手じゃない。

 ライトは全く興味がないのか、欠伸していた。


「マリアとシンクのやつ、どこにいるんだ?」

「ちょっとライト! 今の虹級冒険者が気にならないの?」

「ああ、興味ない。まぁ、どんな《ギフト》を持ってるのかは気になるな。戦力になれば」

「あのね……」

「はいはい。それより行くぞ。メシ食って買い物しようぜ」

「もう……」


 二人は歩き出し、マリアとシンクと合流した。

 買い食いしていた二人は、ほかほかの肉まんを齧っていた。ライトとリンの分も買ったらしく、渡してくる。


「おう、ありがとな」

「ん」

「どうぞ、リン」

「ありがとー」

「ライトライト、この町、出店がいっぱいある!」

「ふーん……じゃあ、昼飯は出店でいいか。適当に案内してくれ」

「ん!」


 四人は、町の出店巡りをして腹を満たし、食後のデザートに適当なカフェを選ぶ。

 お茶を飲みながら、ライトは武器屋でのことを話した。


「カドゥケウスのホルスター、数日はかかるみたいだ。それと、冒険者ギルドに行ったけど、手頃な依頼はなかった。女神に勇者に『八相』と戦い尽くしだったし、数日はのんびりしようぜ」

「そうですわね。なら、みなさんでお買い物でもしません? ふふ、食べ歩きしながら町を見ましたが、いいお店がたくさんありましたわ」

「いく!」

「好きにしろ。俺は寝てる……あと、シンクは賞金首だからな。念のため変装でもさせておけよ」

「わかりましたわ。では、女の子だけでお買い物しましょう」

「…………」

「リン? どうしたの?」

「え、あ……ちょっとね」


 リンは、先程の虹級冒険者が気になっていた。

 自分の功績とは言いがたい銀級と、凜々しく力強い感じがした虹級冒険者。女として憧れはある。

 それに、自分の仲間は……。


「リン? どうしました?」

「おなかいたいの?」

「…………」


 自分の身体にベタベタ触れてくる同性愛者に、S級賞金首にして手足を切り落とすことが得意な年下の少女だ。大人の女とは言いがたい。

 リンは、あの虹級冒険者に強さを感じていた。

 大罪神器の所有者である三人のお荷物。それが今の自分。付いていくと決めた以上、やはり力は欲しい。


「……私、ちょっと行きたいところが」

「そうですの? では三人で行きましょう!」

「いこう!」

「……えと、一人で」

「嫌、ですわ! わたしはリンと一緒です♪」

「おー!」

「…………ライト、ねぇ……あれ?」


 ライトがいない。

 すると、会計でお金を支払い、そのままカフェから出て行くライトの姿が。


「ライト、寝るって」

「…………」


 リンは、大きなため息を吐いた。


 ◇◇◇◇◇◇


 女子三人は、カフェを出て歩き出した。

 シンクの髪をお団子にして帽子を被らせ、マリアの趣味全開のフリフリのワンピースを着せて変装させる。素材がいいので可憐な妖精みたいに見えた。


「まぁまぁ、可愛いですわ♪」

「確かに……」

「これ、動きにくい……脱ぎたい」

「ダメですわ! あなたは賞金首なのですから、変装しないと!」

「うー」


 嫌そうなシンクだが、仕方なく従った。

 三人は冒険者ギルドへ向かう。目的は虹級冒険者の話を聞くこと。マリアとシンクは付き添いで、リンの目的である。

 ギルドに到着すると、リンはさっそく受付へ。

 カウンターに乗り出すように喋るリンに、受付嬢が少し身を引いた。


「あ、あの! ここに虹級冒険者の方が来ませんでしたか?」

「はい。『万象剣』キリカさんですね? 先程、ギルド長に呼ばれて行きましたけど……ああ、あの方のファンですね」

「え、ああ……まぁ」

「ふふ。世界に四人しかいない虹級冒険者ですもんね。わかります」

「あ、あはは」


 『万象剣』キリカ。それが名前だとわかった。

 力が欲しいリンは、どうしても会ってみたかった。


「あの、キリカさんに会うことはできますか?」

「んー、会えますけど、彼女はファンも多いですからね……ほら」

「え」


 受付嬢がギルド内を見渡すと、そこにはたくさんの女性冒険者が集まっていた。

 どうやらキリカのファンらしい。全員がソワソワし、ギルドの受付奥の部屋……キリカがギルド長と話をしている部屋を見ていた。全員、リンと似たような目をしている。


「あー……」

「リン、諦めた方がいいのでは?」

「うぅ……せっかくここまで来たのに」

「リン、買い物しよ?」

「…………はぁ」


 結局、この町でキリカに会うことはできなかった。

 三人は買い物を楽しみ、宿へ戻る。

 ライトはぐっすり眠っていた。リンたちは風呂へ入り、この日は何事もなく終わる。

 そして数日後、新しいホルスターを受け取り、ライトたちは国境の町を出た。

 次の目的地はウェールズ王国。秋の国である。


「これで四つの国に入ったな」

「そーね……」

「お前、まだ虹級冒険者に会えなかったこと悔やんでるのか?」

「べっつにー……」


 御者席に座るリンは不機嫌だった。

 ライトは機嫌の悪いリンに関わるのを止め、手綱を握る。

 

 次の大罪神器を探す旅が始まった。

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