第146話・次の目的地へ

 第三相を討伐したライトは、右手で祝福弾を弄びながら洞窟に戻ってきた。

 すっかり白い霧も晴れ、真っ暗な空と白い雪の積もった大地だけがある。そんな当たり前のことが嬉しく、ライトは小さく息を吐いた。


「戻ったぞ」

「あら、お帰りなさい」

「…………リンとシンクは?」

「お、おほほ……て、テントでぐっすり寝ていますわ」

「……お前、何したんだよ」


 なんとなく想像が付いたが、敢えて何も言わない。

 マリアの肌が妙にツヤツヤしているのを無視し、ライトは焚火の前にどっかり座る。するとマリアも隣に座った。


「それ、第三相ですの?」

「ああ。『霧王国の巨人スリム・ヨトゥンヘイム』って言うらしい。たぶん、霧の劣化版だけど使えそうだ」

「へぇ……」


 マリアはライトから祝福弾を受け取り、しげしげと眺めている。

 ライトはポットの白湯をカップに注ぎ、喉を潤した。


「……お前、もう寝ろよ。あとは俺が起きてるから」

「あら、お優しい。でも、大丈夫ですわ。むしろあなたが休むべきではなくて?」

「別に、今回は大したことない。妙な『八相』だったけど、命を奪うような力じゃなかったしな」

「ふふ、ねぇライト、さっきの霧……わたしたちの誓約すら通り抜けましたわよね?」

「ん、ああ。そうだけど……って、おい!!」


 マリアはライトの手を取る。

 だが、マリアは痛がるどころか平然としていた。


「どうやら、霧の効果がまだ残っているようですの……」

「…………」

「先程の約束、覚えてますか?」

「…………いいのか?」

「ええ。わたし、あなたのことは嫌いじゃありませんわ」

「……まぁ、俺もだ」


 ライトはマリアの手を握り、優しく抱き寄せた。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌朝、リンとシンクが起きてくると、すでに朝食の用意がされていた。

 マリアがスープをかき混ぜ、ライトが馬に水を飲ませている。それを見たリンはマリアを手伝い、シンクはライトの隣で馬にブラッシングを始めた。


「おはようございます。リン」

「お、おはよ……その、昨日は見苦しいところを見せまして」

「いえ、とっても可愛かったですわ♪」

「あ、あはは…………ん?」

「?」


 リンはマリアを見て首を傾げた。


「マリア、首……赤くなってるよ?」

「え? あ……だ、大丈夫ですわ。おほほ」

「?」


 スープをガチャガチャとかき混ぜ、マリアは誤魔化した。

 ライトとシンクは作業を終え、四人は揃って食事をする。

 パンとスープ、焼いたベーコンとシンプルな朝食だが、みんなで食べるとどれも美味しい。ライトはそう思っていた。

 外は快晴。昨夜の不気味な霧が嘘のようだ。


「今日中に国境の町まで進んで、ウェールズ王国に入ろう。そこから大罪神器の情報と、冒険者ギルドで盗賊や賞金首を狩って力を付ける」


 リンが、パンを齧りながら聞いた。


「そう言えば、ウェールズ王国には大きなダンジョンがあるけど、どうする?」

「ボク、行ってみたい」

「わたしはどちらでも構いませんわ」

「ま、焦らなくていいだろ」


 次の目的地は、秋の王国ウェールズ。

 残る大罪神器は三つ。女神フリアエと勇者一行との決戦も近い。

 だが、ライトたちには試練が待ち受けていた。


 ウェールズ王国で、とんでもないことに巻き込まれるとは……この時はまだ、誰も知らなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る