第127話、ライトとシンクともう一人

 第二相を討伐し、冒険者ギルドのある町に戻ったライトたち。

 最初に泊った宿を選び、同じ部屋が空いていたのでそこを拠点にすることにした。

 町に来た理由は、第二相が討伐されたことで吹雪が止み、凍り付いた魔獣や人間が溶け始めると報告するためだ。死体の回収と、運が良ければ凍り付いた魔獣の素材を手に入れられるだろう。

 リンは、影からマルシアを出してベッドの上で撫でまわし、シンクはベッドのシーツをめちゃくちゃにしながら転がり、マリアはいつの間にかワインを飲んでいた。

 ライトは、カドゥケウスを磨きながらリンに聞く。


「報告はリンに任せるしかないけど……信じてもらえるかだな」

「あ、たぶん大丈夫。こう見えて『シルバー級冒険者』だからね。信じてもらえるかともかく、無視はされないと思う」

「じゃあ、報告はリンに……って、いつのまに昇級したんだ?」

「以前この町で受けた依頼で上がったの」

「ああ、盗賊退治と魔獣退治か……すっかり忘れてた」


 冒険者に興味のないライト、マリア、シンクに、リンは苦笑した。

 マリアはおつまみのジャーキーを齧り、リンに言う。


「ではリン、わたしが一緒に行きますわ。その後はデートでもいかが?」

「デートはともかく一緒に行こっか。シンクは一緒に連れて行けないから、ライトにお願いしてもいい?」

「お願いって……どうすんだよ。宿で寝てればいいのか?」

「そんな勿体ない……変装させるから、一緒にご飯でも食べてきなよ」

「そうですわ! リンはわたしと食事、そしてベッドで……」

「はいはいはいはい。じゃあライト、任せた」

「ごはん!」

「っと、くっつくなよ」


 ライトは背中に飛びつくシンクを引き剥がし、ため息を吐いた。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日、ライトはシンクを連れて町で買い食いしていた。

 

「おいひい」

「こら、こぼすな」


 両手に串焼きを持ち、ぽろぽろ零しながら齧っている。

 ライトに兄弟はいないが、妹がいるならこんな感じかと、妙に疲れてしまった。

 シンクは、もこもこしたフリルのコートに可愛らしいブーツ、マフラーを巻いて毛糸の帽子を被り、長い髪をツインテールにしている。

 この見た目なら、S級賞金首『四肢狩り』だと気づかれないだろう。


「ライトライト、あっちにクレープ屋さんあった!」

「わかったわかった。走るなよ」

「ん! じゃあこうする」

「……まぁいいけど」


 シンクは、ライトの腕に抱きつく。

 ネコのように目を細め、ライトの腕に顔を擦りつけている。


「えへへ……」

「…………」


 ぬくもりを知らない野良猫。ライトにはそう見えた。

 懐いているならそれでいい。シンクは、これからの戦いに必要だ……が、戦いなどせずに、幸せな暮らしをしてほしいと思う自分もいる。

 シンクにクレープを買ってやり、近くのベンチに座った。


「……なぁ」

「なに?」

「お前、第三相を倒したら協力してくれるんだよな」

「うん。あのねあのね、ライトもリンもマリアも好き。だからね、これからも一緒にいたいの。手伝ってほしいことがあるならなんでもするよ」

「…………ああ、ありがとな。リンもマリアも喜ぶ」

「ライトは?」

「……お、俺も喜ぶぞ」

「……っ、うん!」


 シンクはにっこり笑い、クレープを完食した。

 年中冬の領土だが、今日はとてもよく晴れている。

 すると─────。


「おや、キミは……」

「あ」


 ライトたちの前に通りかかったのは、線の細い神父……バルバトス神父だった。

 天気がいいからかコートも着ず、黒い司祭平服だけの姿だ。帽子を脱ぎ、静かに一礼した。


「やあ。今日はデートかい?」

「デートというか、子守というか……」

「……? だれ?」

「ちょっとした縁のある神父さんだよ」

「はじめましてお嬢さん。私はバルバトス、よろしくね」

「…………」


 シンクはバルバトスをジッと見ると、ライトの腕に抱き着いた。

 

「おい?」

「…………」

「はは、嫌われてしまったようだ」

「すみません。ちょっと人見知りで……」

「構わない。この世の全ての出会いが幸せに繋がるとは限らない。でも、どんな出会いにもきっと意味がある……お嬢さん、きみと私の出会いに感謝を」

「…………ん」

「ふふ。ライトくん、よかったらお茶でもどうだい? これから教会で懺悔……いや、お悩み相談をする予定でね。もう少し時間があるから、話でもどうだろうか」

「ああ、いいですよ。俺たちも時間あるし。なぁシン……なぁ?」

「…………ん」


 シンクという名前は出さないことにした。

 一応、賞金首なので気を遣う。


「では、行こうか」

「はい」

「…………」


 シンクは、なぜか黙り込んでしまった。

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