第126話・次の脅威

新しい祝福弾を手に入れたライトたちは、氷の山から下山した。

第二相クレッセンドを討伐後、吹雪はピタリと止み、それどころか雲が消えて晴れ間までできたのだ。氷の城から水滴がポタポタと落ち、溶けるのは時間の問題だろう。

 影を使って下山していたが、途中から四人で歩いていた。

 魔獣も人も凍っている。だが……氷はいつか溶け、死体に戻る。


「……一応、冒険者ギルドに報告するか」


 ライトがそう言うと、マリアとリンは驚いていた。


「ほ、報告って……第二相を倒したって言うの?」

「そんなバカ正直に言えるかよ。氷が解けたら死体や魔獣の死骸だらけだ。吹雪も止んだし、死体の回収くらいはできるだろう」

「そうですわね……帰るべき場所に、帰れるといいですわね」

「ああ……」


 道中、凍り付いた死体から水滴が落ちていた。

 第二相が消えた今、魔獣も戻るだろう。この山も、フィヨルド王国でありふれた山の一つに戻るだけ。

 ライトはポケットから、群青色の祝福弾を取り出す。


「あ、それ、第二相の?」

「ああ。『嘆きの氷姫ブランシュネージュ』っていうらしい。氷系の祝福弾……どんな効果なのかね」

「また物騒なことを考えてません?」

「バカ言うな。敵もいないのに撃つかよ」

「ライト、お腹へった」

「はいはい。馬を迎えに行ったらメシにするぞ。今後のことも話さなきゃだし、祝勝会も兼ねてな」

「ん! ねぇねぇ、お鍋いっぱい食べていい?」

「ふふ。構いませんわ。ねぇリン」

「うん。シンクは頑張ったもんね」

「最初から全員でやればもっと楽だったけどな」


 ライトは、自分の右目をさする。

 第四階梯『喰わず嫌いの右目プロヴィデンス・オブ・カトブレパス』。視認した一体の動きを完全に止める。その間、ライトも全く動けないという誓約がある。一対一では全く使えない能力……つまり、仲間前提の能力だ。


「…………」

「ライト、どうしたの?」

「いや、なんでもない」


 リンが首を傾げるが、ライトは何も言わなかった。

 今更、仲間の存在を喜ぶなんて……らしくないと思ったからだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 下山し、馬を預けた村に向かい、馬を回収して宿へ入った。

 夕飯は鍋で、そして豪勢に頼むと伝えると、言った通りに豪勢な夕食となる。

 鍋はもちろん、肉や魚も充実し、ホットワインも上質な物が出てきた。


「じゃ、かんぱーい!!」

「「乾杯」」

「かんぱい」


 張り切って号令をかけるリンに対し、いつも通りのライトとマリア、そして慣れてないのか棒読みのシンクが、ホットワインのグラスを合わせた。

 あとは、食べて飲んで騒ぐ。

 リンが料理を取り分けてシンクに渡し、ライトは勝手に食べ、マリアはワインを楽しむ。第二相討伐という快挙を成し遂げたのに、どこまでもいつも通りだった。

 食事が終わり、部屋に戻る。

 

「で、これからどうするの?」

「第三相!」


 シンクがいきなり大声で言った。

 ライトがリンを見ると、リンは頷く。


「っと……そうか、第三相もいるんだっけ。でも、情報がないな」

「それなら、別の山に向かえばいいわ。盗賊から得た情報は二つ、そのうちの一つが第二相だったから、第三相はきっと別な山にいる……かも」

「別の山……ああ、光る物体を見たとかいうやつか」

「うん。第二相はアタリだったし、可能性はあると思う」

「よし。じゃあその山に向かうぞ。マリア、シンク、いいか?」


 マリアは、シンクの髪を櫛で梳いていた。

 話は聞いていたらしく、二人とも頷く。シンクは髪を梳かされるのが気持ちいいのか、猫みたいに目を細めていた。


「次こそ一人でぶったおす!」

「あん、動かないで」

「はーい。マリア、ありがと」

「はいはい」


 やる気満々のシンク。

 第三相相手でも一人で戦うという。なので、第二相と同様に、危なくなったら手助けをするというルールを決め、同意させた。

 第三相を倒したら、ライトたちの旅に同行し、女神と勇者を倒すための力となる契約だ。もちろん、シンクに確認したが忘れていない。

 次の目的は第三相……。


「このまま八相を全部討伐するか?」

「ふふ、いいかもね」


 冗談っぽく言うが、八相の内三体を一つのグループが討伐するなど、未だかつてない快挙だ。本来なら歴史に名を刻む英雄である。


「リン、次の場所までの位置は?」

「大丈夫。冒険者ギルドのある街を経由してから行けるよ。せっかくだし冒険者ギルドに報告してから向かおっか」

「ああ。じゃあ寝るか」

「さ、終わりましたわ。今日はもう寝ましょう」

「ん。マリア、一緒に寝ていい?」

「ええ、どうぞ」


 四人は、戦いの疲れもあってかぐっすりと眠った。

 次の目的地も決まり、旅は順調だ。第三相を倒して、勇者を倒す。




 だが─────。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る