第120話、祝勝会と報告

 アバランチを討伐し、倒した証拠として右手を切断して麻袋に入れ、討伐の喜びなど皆無の状態で町まで戻った。二人は冒険者ではない、鍛錬と検証のためだけに大型危険魔獣と戦っただけ。普通の冒険者だったら凱旋レベルの功績でも、特に変わらず町に戻ってきた。


 一応、リンの名前で受けた依頼であり、報告すればリンの功績になる。

 A級賞金首と盗賊団、大型の危険魔獣の討伐は、報告すれば昇格間違いなし。現在青銅ブロンズ級のリンだが、この功績を報告すればシルバー級冒険者になるだろう。そうすれば、依頼のランク上限なしに受けることができる。それこそ、シンクと同格のS級賞金首も討伐できる。

 ライトは、冒険者ギルドでなく宿を目指しながら手綱を握る。報告の前に宿で落ち合うというのは最初に決めたことだ。


「リンが昇格すればS級も狩れる。戦力アップのチャンスだ」

「それだけじゃありませんわ。国家指定のS級盗賊団や組織も相手にできますわ」

「くくっ、いいなそれ……全部潰して祝福弾にしてやる」


 ライトとマリアは、御者席で凶悪な笑みを浮かべる。

 個人でS級盗賊団や組織を相手にすることはもちろん可能だ。だが、居場所がわからなければどうしようもない。

 冒険者ギルドの情報収集能力ならそれができる。隠密に特化した情報収集専門の冒険者や、どこからか知らない場所の情報も集まるのだ。現に、アバランチの居場所も冒険者ギルドの情報のおかげだった。


「腹減ったな……なぁ、リンたちが帰ってなかったら、鍋でも食うか?」

「あら? デートのお誘いですか?」

「バーカ」

「ふふ、ご一緒しますわ。もちろん、あなたの奢りで」

「…………」


 ライトは苦笑した。

 マリアは微笑んだ。

 カドゥケウスとシャルティナがボソボソ喋っている。


『聞いたかシャルティナ、この二人がデートだとよ』

『聞いたわ。ああ、あたしの可愛いマリアが男とデートだなんて』

『なぁなぁ、リンの嬢ちゃんは抱いたのか?』

『ええ。女同士の熱い夜を過ごしたわ。最初は嫌がってたリンだけど、夜も更ける頃にはすっかりハマっちゃってねぇ』

『ケケケッ、なぁシャルティナ、聞きたいんだけどよ……オレらの誓約の痛みって、痛覚を麻痺させりゃ感じないと思うか?』

『うーん……試したことないけど、なんで?』

『いや、マリアの嬢ちゃんが相棒に抱かれるためにゃ、やっぱ誓約の痛みが問題なんだよなー……第四相の祝福弾を応用すりゃ、痛覚だけを遮断することができると思うんだが』

『マリアも男を知るいい機会かもねぇ……試す?』

『ああっぶぉあぁぁぁぁぁっ!?』


 ライトは、久しぶりにカドゥケウスを投げ捨てた。

 だが、すぐにライトのホルスターに転移して戻ってくる。


『なにすんだよ相棒……』

「全部聞こえてるぞ、この野郎」

『あん、マリアってば怖いぃ』

「シャルティナ、冗談はやめてくれません?」


 ギャーギャー騒ぎながらも、宿に到着した。


 ◇◇◇◇◇◇


 宿に戻ると、リンとシンクが鍋をつついていた。

 ライトとマリアは顔を合わせて苦笑し、部屋に戻ることなく二人の元へ。


「あ、おかえり」

「おかえり。二人とも大丈夫? 怪我はない? 怪我してるなら私が治すから」

「大丈夫。雑魚だったし怪我もしてねーよ」

「そちらはどうでした? リン、シンク」

「あー……」

「むぐむぐ」


 シンクが肉鍋をがっつき、リンは頬をポリポリ掻く。

 それだけで、何かあったのだとわかった。


「で、どうなったんだ?」


 ライトは宿の給仕を呼び、ホットワインを注文。マリアも同じものを注文し、すでに肉が消えつつある肉鍋のほかに、山菜鍋を注文した。


「シンクが頑張ったから依頼は達成。盗賊団は壊滅……それと、第二相の情報が二つ、手に入ったわ」

「二つか……」

「うん。盗賊団のリーダーが言ってたの」

「マリア、山菜鍋も食べていい?」

「いいですけど……あなた、肉鍋の野菜も食べなさいな」

「んー」


 運ばれてきた山菜鍋のキノコが気になるのか、シンクは鍋をジッと見ている。だがマリアは、肉鍋の野菜が残っていることを指摘し、山菜鍋には触れさせない。

 ライトとマリアは、運ばれてきたホットワインのグラスを持ち、特に何も言わずに軽く合わせた。


「で、盗賊のリーダーは何て言ってた?」

「あ、うん。一つは、第二相は吹雪の中心地である大雪山の頂上に氷の城を建てて住んでいるらしいわ。もう一つは、大雪山とは別の雪山の頂上で、光る物体を目撃したとか」

「大雪山と別の雪山か……どっちも面倒だな」

「うん。登れば途中で必ず凍り付くらしい。生きて登った人や帰ってきた人がいないとか……要は、向かったら死ぬ山ね」

「なるほどな……じゃあ、馬は連れて行けないな。行くのも、俺とシンクだけか」

「は!?」


 リンは目を見開いた。


「もともと、こいつの頼みを受けたのは俺だ。危険を冒すなら俺だけでいい。どっちに登るとしても、無理だ」

「はぁ~……あのさライト、今更それはないと思う。というか……雪山に登る方法、私にはあるんだけどなぁ」

「は?」

「ふふ……おいで、マルシア」

『きゃう?』


 リンは、自分の影からチビ黒狼のマルシアを呼ぶ。

 宿の飲食スペースなので、名前を呼ぶだけだが。


「この子に頼んで、みんなを私の影のなかに入れて運んでもらうの。そうすれば全員、無傷で山頂まで行けるよ」

「…………む」

「さ、何か言うことは?」

「…………」

「マリア、野菜たべたー」

「なら食べていいですわ」

「やった!」


 シンクは山菜鍋に手を伸ばし、マリアと一緒に食べ始めた。

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