第115話・新たな同行者と次の町へ

 翌朝。なぜかシンクは裸でライトのベッドにいた。


「……………………」

「んぁぅ……」

「おい、起きろ」

「ふぁ? んん~……あれ、なんでここに?」


 シンクは眼をゴシゴシ擦り、大きく伸びをして欠伸する。

 小ぶりな乳房が揺れ、濡羽色の手足が朝日でキラキラ光り、真紅の髪もフワリといい香りがした。リンと同じ匂いなのは、同じ液体洗剤を使ったからだろう。

 ライトは立ち上がり伸びをする。


「着替えてメシ、その後に出発だ」

「ん。第二相を探すんだよね」

「ああ。次の町で情報を集める」


 当面は、第二相と第三相を探しつつ、祝福弾集めと己を鍛えることに専念する。冒険者ギルドで依頼を探すのもいいし、凶悪な魔獣の情報があれば討伐に出向いてもいい。今はとにかく力が必要だ。

 シンクの力が手に入るなら、『八相』の捜索くらい問題ない。それに、シンクの力なら、苦労せずに倒せそうだ。

 互いに打算的な関係だ。仲間ではないのでこれでいい。

 ライトはシンクのことを気にせず着替え、さっさと一階に降りてしまった。


「ふぁ……ん、みんな、朝だよ~」

「ふぁぁ……おはようございます、リン」

「んん。あれ、シンクは?」

「ここ~」


 シンクは、裸でライトのベッドから降り、二人の眼を完璧に覚ます。


「ちょ、そこ、ライトの」

「あ、あなた、なにを」

「ん~……おしっこ行ったときに間違えたみたい」

「って、早く服、服着なさい!」

「ん~」

「あなた。全裸じゃないと寝れないのですか?」

「うん……ふぁぁ」

「眠いのね……って、ライトは?」

「下に行った~」


 ライトは馬の世話をしに行ったと気付くのは、もう少し先の事だ。


 ◇◇◇◇◇◇


 四人が揃ったのは、ライトが馬の世話を終えた後だ。

 食事に向かうと、ちょうどリンたちが揃って鍋をつついていた。


「朝から鍋かよ」

「いいでしょ別に。美味しいのは朝からでも食べれるしね」

「ええ。お鍋は最高ですわ」

「もぎゅもぎゅ……」

「やれやれ。俺は普通にサンドイッチでいい」


 宿の女将にサンドイッチを作ってもらい食べていると、シンクがジッと見ていた。


「なんだ、食べたいのか?」

「うん。いい?」

「仕方ないな……ほら」

「ありがと!」


 サンドイッチを一切れシンクに渡すと、美味しそうにモグモグ食べ始めた。

 まるで小動物だなと思い、昨夜できなかった質問をしてみた。


「なぁ、お前。腕はどうしたんだ?」

「うで? もぎゅもぎゅ」

「ああ。デカい爪だったろ? 今は普通の腕や足だから気になってな」

「ごっくん。これ、変形させてる。第二階梯『狂咬クルイガミ』、四肢を好きな形に変化させられるの」

「へぇ……」

『シンク、自分の能力をむやみに話すのは止めなさい』

「でも、ライトはご飯くれたからいいの」

『……はぁ』


 イルククゥが大きくため息を吐いた。

 シンクの扱い方がわかってきたライト。だが、リンたちがいい顔をしていないので、この場での追求は諦める。

 先は長い。シンクの能力を聞くチャンスはあるだろう。


「…………」

「……もう一切れ、食べるか?」

「うん!」


 ライトは、完全にシンクに懐かれた……。


 ◇◇◇◇◇◇


 朝食後、ダイアウルフの件で騒がれるのが面倒だったので、女将にだけ挨拶をして出発した。

 リンとマリアが雑貨屋で買った服などは宿に届いていたので、忘れ物なく出発。ダイアウルフの皮が干してあるのを見て満足し、四人を乗せた馬車は次の町へ。

 御者のライトは、隣に座るリンに言う。


「八相の情報か……あと、情報を集めつつ冒険者ギルドで依頼を受けよう。シンクは賞金首だから、変装でもさせて……なんだよ?」

「……なんか、シンクに優しいなーって」

「そうか? それより、あのコートと服装じゃ目立つ。セーターでも着せて、髪型も変えてやってくれ。賞金首と一緒にいると俺たちまでヤバい」

「大丈夫。マリアに任せてるから」

「ん?」


 リンが御者席の後ろにある窓を指で差す。

 窓を覗くと、マリアの隣に座ったシンクが、セーター着て髪を結ってもらっている最中だ。しかも、シンクは満面の笑みを浮かべている。


「ふふ、なんだか姉妹みたい」

「……一応言っておくけど、あいつが賞金首ってこと忘れるなよ」

「うん。でも、今は仲間だからね」

「……仲間ねぇ」


 次の町まで、約五日ほどの距離だ。

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