第79話・シュバーンエッジ

 第四相が関係していると思われる魔獣・スキイロクラゲ。

 その名の通り透色の海月で、特徴として生息地が陸地なのと、海ではなく宙を漂う。

 その体は常に帯電しており触れると感電し、無数にある触手からは麻痺毒が分泌されている。なので剣で切ることも拳で殴ることもできない、遠距離での狙撃でしか倒すことは難しい。


 問題は、スキイロクラゲは大量の群れで現れるということ。

 獲物を感電させ、麻痺毒で硬直させたところで現れるのが……スキイロクラゲの主であり『第四相』、超巨大なスキイロクラゲ、『海月翁くらげおきなジェリー・ジェリー』というわけだ。

 ジェリー・ジェリーは、自らの身体を細かく分裂させてスキイロクラゲを生み出し、大量の獲物を弱らせてからゆっくり捕食する。つまり、スキイロクラゲが現れたなら早急な討伐が必要なのである。


 今回、ヤシャ王国郊外にスキイロクラゲが確認された。

 数は数百、ジェリー・ジェリーにとっては触手一本以下の分裂である。

 ヤシャ王国冒険者ギルドに集まった青銅級以上の冒険者は、速やかに討伐に当たらなければならない。


「……ってことか」

「うん。ざっくりまとめるとね」


 ライトたちは冒険者ギルド内に集まり、ギルド長のイゾウから聞いた話をまとめていた。

 集まった青銅級は総勢四十名ほどで、それぞれ4~5人のグループに分かれている。年代もバラバラで、ライトたちと同年代ほどから中年の集まりまで様々だ。

 すると、イゾウがギルド内に響く声で言う。


「よーし、討伐隊は集まれ!」


 再び集合し、イゾウは言う。


「この中で青銅級以上の等級の者はいるか? いるなら手を上げろ」


 すると、十名ほどが手を上げる。

 

「ワシたちはシルバー級冒険者パーティーじゃ」

「ボクらは黄金ゴールド級。知らないかい? 『シュバーンエッジ』の名を」


 一組目は、三人組の冒険者パーティーだ。

 初老の魔術師、老人と言ってもいい腰の曲がったお爺さん、盾を背負った老婆だ。どう考えても縁側で茶を啜っている年代だ。

 もう一組目は、金髪の少年がリーダーを務める四人組だ。

 キラキラした鎧に剣を装備したリーダー、魔術師の少女、盾を背負った大男、弓矢を持った耳長の少女だ。

年代はライトたちとほぼ変わらない。だが、シュバーンエッジと言う冒険者パーティーは有名らしく、青銅級冒険者たちがざわついた。


「知ってるか?」

「さぁ?」

「ふ、二人とも……」


 ライトとマリアは全く興味を示さなかった。

 イゾウも感心したようだ。そして、銀級の老人冒険者たちに言う。


「今回の討伐指揮はオレが執る。あんたらには補佐を頼みたい」

「ほっほ、ジジィやババァじゃが、若いモンの役に立てるならぜひ」

「ありがとう。シュバーンエッジ、君たちは冒険者の中心となって戦ってくれ。期待している」

「任せてくれ。黄金級の実力を見せてやろう」


 ライトは、黄金級冒険者に目もくれずに質問した。


「スキイロクラゲの見つかった場所は?」

「ん、ああ。ここから東に向かった街道沿いの雑木林だ。商人一行が森で浮遊するスキイロクラゲを見かけたらしい」

「東……」


 ライトは振り返ろうとしてリンに引き留められる。


「……なんだよ」

「駄目! 今回はギルドの依頼を受けた形で一緒に行くの! 前みたいに勝手に討伐したら、マルコシアスのときみたいな騒動になっちゃうでしょ!」

「別にいいだろ。そのあとも依頼が受けやすかったし、いいこと尽くしじゃないか」

「駄目だって! 私たちはいいかもしれないけど、依頼掲示板を依頼書が埋め尽くしてたんだよ? 至急の依頼とかあったかもしれないのに、受ける冒険者がいないなんてことになっちゃう」

「…………はぁ、わかったよ」


 結局、他の冒険者たちと一緒に出発することになった。


 ◇◇◇◇◇◇


 冒険者ギルドが手配した馬車に分かれて乗り込み、スキイロクラゲの目撃された街道へ向かっていた。


「…………」

「へぇ、リンって言うのか。ボクはハインツ、よろしくね」

「よ、よろしくです……」

「君は?」

「…………」

「あ、ま、マリアです。この子ちょっと人見知りで」

「リンとマリア、こっちの彼は?」

「ライトです。ええと、私は冒険者ですけど、この二人は冒険者じゃなくて、私の仲間なんです」

「そっか。冒険者じゃないってことは、傭兵なのかい?」

「そ、そんな感じです」


 ライトたちと同乗したのは、黄金級冒険者グループのシュバーンエッジだった。

 リーダーである金髪の少年ハインツは、先程からリンに話しかけている。


「ボクのギフトは『聖剣士』、『剣士』の上位ギフト『魔剣士』のさらに上位、滅多にいないSRスーパーレアギフトさ。ボクの仲間たちもRレアギフトの持ち主でね、君たちは?」

「えっと、私は……Rレアです」


 少し言いにくそうだったのは、リンの影の中で寝ているマルシアのギフトだからだろう。

 マルシアはリンの影の中が気に入ったのか、リンに呼ばれる以外は常に影の中で過ごすようになっていた。


「レアかぁ。そっちの二人は?」

「あ、こっちの二人は特別で……」

「特別? レアなのかい?」

「ハインツ、もうやめておけ。他人のギフトを詮索するのはマナー違反だ」

「はいはい。悪かったよダイノス」


 ダイノスと呼ばれた大男は、腕組みしながらつぶやく。

 ハインツの話が真実なら、このダイノスもレアギフト持ち。持っているのは盾だし、死んだら使えそうな祝福弾になるかも……と、ライトは不謹慎に考えていた。

 すると、ハインツの隣に座る魔術師風の少女が言う。


「まぁまぁ、別にいいじゃない。それより、私はリナよ。よろしくね」

「は、はい。私はリンです」

「リンね、リナとリン、なんか似てるわね」

「あ、そうかも。なんて……」

「ふふ、見ての通り私は魔術師なの。スキイロクラゲは触れることができないし、今日は活躍しちゃうんだから」

「私も魔術は自信がありますので、がんばります!」

「お、言ったわね? じゃあ競争しよっか!」


 リナは、リンに好意的だった。

 一人で対応していたリンにとって話しやすい人物で、全く喋らないライトとマリアに恨み言の一つでもぶつけたかったリンにとっては癒しだった。


「ねぇルーナ、あんたも競争する? エルフの弓の腕前と私たちの魔術!」

「いいよ。どうせわたしが勝つ」


 ルーナは、森の民エルフの少女だ。

 弓の腕前でエルフに勝つことは絶対に不可能。そんな格言があるほどエルフの視力は優れている。遠距離系の攻撃でエルフに勝つことは難しい。

 これが、黄金級冒険者グループ・シュバーンエッジだ。


 接近戦のハインツ、防御のダイノス、魔術師のリナ、遠距離のルーナと、バランスの取れたチーム編成だ。

 それに対してリンのチームは……。


「……なんだよ」

「なにか?」

「……なんでもない」


 ちょっとだけ、向こうが羨ましいリンだった。


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