第80話・スキイロクラゲ

 馬車は東の街道に入り、スキイロクラゲの目撃情報があった林の近くまで来て停車した。

 林から一キロほど離れた場所に降り立った冒険者たちは、己の武器を確認する。

 今回は狙撃がメインなので、戦士系の冒険者も弓を持っている。


「今回は、俺の独壇場かもな」

『ケケケケケケケケッ、相棒、やりすぎんなよ?』

「アホ。祝福弾にもならないクラゲ相手に、やりすぎもないだろ」


 カドゥケウスを抜き、クルクルと回す。

 リンは魔術、マリアは変わらず百足鱗で戦うらしい。特に気にならなかったが、気まぐれで聞いてみた。


「おい、お前。スキイロクラゲに触れて平気なのか?」

「ああ、百足鱗ですか。確かにわたしの身体の一部ですが、毒に侵されるようなモノではありませんわ」

「そうか、ならいい」

「あら? 心配してくださったのですか?」

「違う。お前が倒れたらリンに負担がかかるからだ」

「そう。ならその心配はないと言わせていただきます」


 そう言って、マリアはシュバーンエッジとお喋りしているリンの隣へ。

 相手は『第四相』の一部なのに、シュバーンエッジの連中はずいぶんとリラックスしているようだった。


「リン、何かあったらすぐに下がるんだ。前衛はボクたちに任せて後方から魔術支援を頼むよ」

「うん、わかった」

「リンはわたしが守りますわ」

「ありがと、マリア」

「ふふ、リンとマリアちゃんって仲良しね」

「おいおいリナ、マリアちゃんはリンの仲間だぜ? 仲良しなのは当たり前だろう?」

「わかってるわよハインツ。それとリン、ライトはいいの?」

「あー……うん、ライトは集中してるから」


 ライトは、近くの石を拾って装填し、予備として小石をポケットに入れておいた。

 できれば金属が好ましいが、贅沢は言えない。それに石の弾丸もなかなか強力だ。

 祝福弾は『強化』と『浮遊』、いざという時のために『神喰狼フェンリスヴォルフ』を準備しておく。今回は射撃がメインになるので、祝福弾よりも通常弾を重視しておく。


「……こんなところか」


 準備を終えると、ギルド長のイゾウが冒険者に集合をかけた。


「いいか、これより目撃情報のあった林に向かって進む! シュバーンエッジは前衛を頼むぞ!」

「お任せを」

「何度も言うが、決してスキイロクラゲには触れるな! 感電だけじゃなく麻痺毒で硬直してしまうぞ」


 注意事項を話すと、林に向かって歩き出した。

 ライトの位置は真ん中で、リンとマリアはなぜか最前列のシュバーンエッジと共にいる。

 だが、そんなことはどうでもいいのか、ライトは周囲を警戒しながら歩く。

 

「…………来るなら来い」


 ライトは『第四相』だけでなく、異形の四肢を持つ赤髪少女・シンクも警戒していた。

 どんな事態にも対応できるように、つねに周囲に気を配れ。ライトはあらゆる状況を想定しながら進む。

 歩くこと20分、目撃情報のあった林に到着した。


「いいか、ここからはパーティー毎に別れて行動だ。決して無茶だけはするな」


 イゾウは、この入口で指揮を執るらしい。入口で指揮もクソもないだろとライトは思ったが、ライトは冒険者じゃないので黙っている。

 すると、シュバーンエッジの四人が前に出て、さっさと森に入っていった。


「じゃ、お先に」


 たったそれだけで、森を進んでいく。負けじと他のパーティーも林の中に入っていく。

 ライトもリンと合流した。


「行くぞ」

「うん。私は魔術で援護するから、二人でよろしくね」

「ああ」

「わかりましたわ」


 最後に残った三人は、林の中へ踏み込んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 昼前だが、林の中は薄暗い。

 冒険者パーティーは別れて進んだので、周囲にいるのはライトたち3人だけだ。


「確か、透き通ったクラゲだったな?」

「うん。大きさも大したことないけど数が多いらしいよ」

「物理攻撃は通じるのですか?」

「大丈夫みた……あ、みっけ」


 十メートルほど先に、五十センチほどの透き通ったクラゲがプカプカと浮いていた。

 たまにパリッと発光しているのは帯電だろうか。触手は十本以上あり、内二本だけが長くなっている。情報ではあの二本から麻痺毒を出すという。


「とりあえず一発」


 ライトはスキイロクラゲに向け発砲すると、あっけなく砕け散った。

 ゼリー状の肉片がボトボト落ち、死んだように見える。


「…………おい、終わりか?」

「なんかあっけなさすぎ……」

「待って、あそこ……それにあそこも」


 マリアが指さした先に、同じスキイロクラゲが浮いていた。

 数もどんどん増えてきた。まるで、一匹の死に反応したように、何十匹も集まってきたのである。


「なるほどな……まぁ、問題ない。目の前のやつをやれ」

「了解!」

「ふふ、全部まとめて削ってやりますわ!」


 三人は背中合わせになり、目の前のスキイロクラゲに向け集中した。


*********


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