第71話・新祝福弾と祝勝会


リンとマリアが合流し、さっそくライトは質問した。


「使えそうなギフトの持ち主はどれくらいいた?」

「私は一人だけ見つけたわ」

「…………」

「おい、お前は?」

「…………あなたの言うことを聞く義理はありませんでしたので」


 つまり、探していない。

 マリアは、戦闘に集中するあまり、ライトの頼みを完全に忘れていた。慣れない接近戦をするために海賊たちと戦っていたが……。


『この子、接近戦に夢中になってねぇ~……あなたの頼みを思い出したころにはもう海賊が残ってなかったのよ』

「しゃ、シャルティナ!!」

「マリア……なんか可愛いね」

「リン……なら、今夜は可愛がってくださる?」

「それは却下」

「…………ったく」


 ライトも、海坊主との接近戦を楽しんでいたフシがあるので、マリアを責めることはできない。そもそも、マリアがライトの言うことを聞くなど、あまり期待していなかった。

 

「全員喰うのはリスクが高い……仕方ない、リンの見つけたギフトを教えてくれ」

「あ、うん。ええと……あそこの人」


 リンが指さしたのは、刀で首をスッパリ斬られて出血死した海賊だった。

 ライトは左手を伸ばしてカドゥケウスに命じる。


「カドゥケウス、リロード」

『ほいほーい』


 左手に死体が喰われ、手には小さな弾丸が現れた。


「おぉ! 『鑑定アナライズ』の祝福弾か。これは使えそうだ!」

「でしょ? これならいちいち敵に聞かなくても、どんなギフトかわかるよね」

「ああ。じゃあさっそく……」


 ライトは、『鑑定』の祝福弾を自分に撃つ。

 そして、恐怖で平伏している海賊たちを見た。


「あれ……『剣士』に『槍士』、『闘士』に……なんだこれ、ギフト名しか見えない。それに……死体には何も映らないぞ」


 ライトの眼には、平伏している海賊たちに被さるようにギフト名が表示されていた。死体を見るが、何も映らない。


『そりゃそうだ。弾丸にすると能力は劣化するって言っただろ? 生きてる人間のギフト名しか見れないってこった』

「……そうか」


 本来の『鑑定』なら、名前や年齢、性別やギフト名はもちろん。練度が上がれば身長や体重、侵されている病気も見れるし、人間だけではなく魔獣や道具の鑑定もできる。

 生きてる人間だけ、しかもギフト名のみという結果だが、ライトは満足していた。


「ま、あるとないとじゃ全然違う。ありがとな、リン」

「どういたしまして。そうそう聞いて、マルシアってすごいの、私と「あ、見て下さいな、船が来ましたわよ」

「お、ほんとだ。やれやれ、これで依頼達成か」

「…………まぁ、あとでたっぷり聞かせてあげる」

『きゃんっ!』


 海賊船に向かう商業船を眺めながら、リンはマルシアを抱っこした。


 ◇◇◇◇◇◇


 商人の船にいた乗組員が、海賊の船に乗ってきた。無数の死体があるや否や、ポルテも乗り込んでくる。


「ま、まさか……さ、三人でこれを?」

「他にいるように見えるのか?」

「いい、いや、その、素晴らしいな! たった三人で海賊を殲滅して、しかもC級賞金首の海坊主まで倒すとは!」


 リンの手には、海坊主が持っていた薙刀が握られている。

 これは討伐の証で、これをギルドに卸すことで討伐の証となる。ちなみに死体は海に落ちたと言い訳しておいた。


「依頼は完了。もう海賊に悩まされることもないだろ」

「ああ。と言いたいが……この近辺にいるのはこの海賊団だけではなくてな、規模の大きなものから小さなものまで、まだまだたくさんいるのだよ」

「「「…………」」」

「はぁ~……強い冒険者が依頼を受けてくれたらなぁ」


 よく見ると、海賊船の積み荷を乗組員たちが運び出している。

 ライトはリンを小突いた。


「え、ええと、とりあえず今日はここまでにします。ギルドに報告しなくっちゃ!」

「そうかい? よし、報酬は増額しておこう。また頼むよ、わっはっは!」


 結局、この商船は海賊船と積み荷全てを手に入れた。

 島に向かって積み荷を降ろし、再びワイファ王国港に戻るころには、すでに日も暮れていた。

 

「ギルドの報告は明日でいっか……お腹へったぁ」

「だな。肉が食べたい……」

「わたしは軽いのでいいですわ……」

『くぅん……』


 夜は大人の時間。酒場も騒がしく、リゾートの王国なだけあってにぎやかだ。

 大手の酒場ではダンスショーや音楽隊が音を奏で、大衆店では屋外に設置された椅子テーブルが全て埋まっている。

 ライトたちは、にぎやかな飲食店街を歩きながら、空いていそうな酒場を探した。


「お、あそこなんてどうだ?」


 ライトが見つけたのは、大きな樽がいくつも積み重なっている大衆酒場。冒険者たちが今日の冒険の打ち上げをして大いに騒いでいる。

 酒場の中はとても広く、席もそれなりに空いていた。

 席に座ってウェイターを呼び、さっそく料理を注文する。


「俺はバイソンステーキとエール、大ジョッキで」

「わたしはカニクリームパスタと、この店で一番高い白ワインをボトルで」

「……ボトルかよ。人様の金で」

「あら? 何か?」

「はいはい喧嘩しないの。全く、お似合いの二人なんだから」

「「はぁ!?」」

「ほらまたハモった。ふふふ、ほんとに似てるね」

「「…………」」


 すると、ウェイターが苦笑しながら言う。


「ええと、そちらさんのご注文は?」

「あ、ごめんなさい。ええと……私はオークステーキ、飲み物は……」


 リンは、ライトとマリアを見た。

 この世界の成人年齢は15歳。お酒はもう飲める歳である。


「よ、よし。赤ワインのグラスでお願いします!」

「はーい、ではしばらくお待ちくださーい」


 料理を注文した三人は、今日の成果を語る。


「あの海坊主とかいう賞金首、パワーはすごかったけど大したことなかった。まぁ、ギフトに恵まれたおかげで、鍛錬を疎かにしたパターンだな」

「そういえばライト、ほんとうにいいの?」

「ああ。俺は冒険者じゃないからな、賞金首を狩った功績はお前にやるよ。それに、功績よりいいもん手に入れたからな」


 ライトの手には、二発の祝福弾がある。

 『筋力増強』と『鑑定』の祝福弾。どちらも使えそうだ。


「リン、あなたの冒険者等級、今回の件で上がるのでは?」

「どうだろ。まぁC級依頼とC級賞金首の討伐だし……基準がわかんないからなぁ」

「ふふ、昇級したら次はB級ですわね。次も海賊を?」

「いやー……なんかどっちが海賊だかわかんないからやめとく」

「だな。まさか海賊船の積み荷だけじゃなく、船そのものを奪うとは……商魂が強いというか、同じ穴のムジナというか」

「あ、そうだ聞いてよ! マルシアとわた「お待たせしましたー、ご注文の料理でーす!」

「お、きたきた。はぁ~……ようやくメシだな」

「ええ。疲れましたけど、こうして食事を前にするとお腹が鳴りますわね」

「ああ、ってリン、どうした?」

「…………べつに」


 ライトたちはグラスを掲げる。


「じゃ、お疲れ様でした。かんぱいっ!」

「「かんぱいっ!」」


 依頼の打ち上げは、とても盛り上がった。

 お酒が入って上機嫌になったのか、ライトとマリアも普通に会話している。

 リンはステーキを切ると、足元で丸くなっているマルシアにあげる。意外にも、ライトもバイソンステーキを切り分けてマルシアに与えていた。

 ライトはエールを一気飲みし、マリアは優雅にワイングラスを傾け、リンは初めての赤ワインにベロベロになる。


 ライトたちの夜は、楽しく穏やかに過ぎていった。




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