第37話・リンの冒険者登録

 ハワード騎士に詳細を確認したライトとリンは、町で買い出しをして旅の準備をした。

 目的は、『リィアの町』の領主に書状を届け、ワイファ王国に報告をする。

 明日には出発なので、ライトとリンは町をのんびり歩いていた。


「確か、笑顔の町だっけ……」

「うーん、リィアの町には立ち寄ったことないからわからないなぁ。主要都市や国境の町には立ち寄ったけどね。でも、平和な町っていいよね」

「ああ。ハワード騎士が言うくらいだからな」


 二人は、町の中央まで来ると、飲み物を買って日差し避けのあるベンチに座った。

 町の中央には様々な建物がある。


「ねぇライト、冒険者登録する?」

「冒険者……ああ、なんでも屋か」


 金がなければ冒険者、一攫千金狙うなら冒険者、戦いたければ冒険者、困ったことありゃ冒険者。

 そんな格言があるくらい、冒険者は一般人に有名な職業だった。

 小さな農村に生まれた若者が家業を継がず冒険者になるなど、今のご時世では珍しくもない。

 ライトは父が騎士だったし、騎士になるという目標があったため、冒険者になるなど考えたこともない。


「んー……金は入るし、無理して稼ぐ必要はないだろう」

「えー……」

「なんだよ、不満か?」

「だって、冒険者って異世界召喚あるあるじゃん。私、ちょっと憧れててさ」

「…………」


 たまーに、リンは意味不明なことを言う。

 これも勇者の影響なのか……ライトは、本気で心配していた。


「ま、まぁ……登録したいならしてくれば?」

「ライトは?」

「お、俺はいいよ……」

「ふーん。じゃあ私だけで行ってこようかな」


 リンは立ち上がり、買ったジュースを飲み干してゴミ箱に投げ、そのまま冒険者ギルドへ走っていった。

 その後姿を眺めていると、腰のホルスターから声が響く。


『相棒、笑顔の町もいいが、忘れんなよ』

「あ?」

『ここから森を抜けて行くって言ったろ? 盗賊の住処がある森をよぉ』

「……わかってるよ。お前にとっては朗報だ、俺も死ぬわけにはいかないしな……やられたらやり返す」

『ケケケケッ、久しぶりに食事が楽しめそうだ。いいか相棒、盗賊に慈悲なんてくれるなよ。まーた家族がーとか待ってる人がーとか、甘ったれたこと言うなよ』

「……そうだな」


 もし、騎士を続けていたら、盗賊退治とかもあっただろう。

 それこそ、冒険者ギルドに盗賊退治の依頼が入ることもある。

 命のやり取りをしなくてはならない日は、きっと来る。


『いいか相棒。命は誰であろうと平等だ。聖人も悪人も一つの命。だがな……一つしかない命を奪い、貪るような屑がいることを忘れんな』

「…………」


 この言葉は、後に重く響くことになる。


 ◇◇◇◇◇◇


 リンが冒険者ギルドから戻ってきた。


「ただいま!」

「おう。登録は済んだのか?」

「うん。見てこれ、ギルドプレート」


 リンは、何の変哲もない灰色のプレートを見せてくれた。

 プレートには、精巧に模写された顔と名前、そして等級が書かれている。


「リンはストーン級か。ええと……一番下だよな?」

「そりゃ登録したばかりだしね」

「ドラゴン討伐の前に冒険者になってればなぁ」

「そんなの別にどうでもいいわ。それより、これから冒険者として依頼を受けて、等級をじゃんじゃん上げて……」

「おいおい、まずは書状を届けるんだろ」

「わかってる。書状を届けたらワイファ王国に行くんでしょ? そこで依頼を受けてみたいな」

『お嬢ちゃん、大罪神器の捜索も忘れんなよ。相棒が復讐をするためには絶対必要なことだ』

「わかってる。冒険者ならいろんな情報が集められるから! というかお嬢ちゃんってやめてよ」


 冒険者の等級は七段階。


ストーン級。

メタル級。

青銅ブロンズ級。

シルバー級。

黄金ゴールド級。

白金プラチナ級。

レインボー級。


 と、昇給すればするほどプレートの色が変わっていく。

 石級はなりたて冒険者で10代前半の若者に多いとか。


「異世界あるあるの一つ、冒険者登録は完了、と」

「…………」


 ライトとリンは、宿へ戻り明日へ備えることにした。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 翌日。

 宿の前にはライトたちの馬車があった。


「よし……ゆっくり休めたか?」

『ブルル……』


 ライトは馬を撫で、馬車のチェックをする。

 騎士団で使う馬車の手入れは新人騎士の仕事だったから、簡単な手入れや修理はできる。積み込んだ道具に大工道具もあるので、多少の傷や破損はライトが修理するつもりだ。


「食材に着替えに調理道具……調味料に毛布に……あとは」


 リンは、荷物のチェックをしていた。

 長旅になるのは間違いない。旅の道具の点検やチェックは、勇者パーティー時代からリンがやっていた。


「よし、点検終わり」

「私の方も終わり。いつでも出発できるわ」

「ん、じゃあ出発するか」

「うん。目的地はリィアの町、森を抜けて向かいましょう」


 馬車に乗り込み、ライトとリンは出発した。

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