第31話・カドゥケウスの特性

 ライトとリンは、領土国境の町を出発した。

 目的はワイファ王国。大罪神器の捜索と強くなるためのレベルアップが目的だ。

 知らないことは多いが、カドゥケウスをある程度信用して、先に進むことにした。

 馬車を走らせること1日。ファーレン王国領土から抜け、ワイファ王国領土の外れに入る。


「ようやく、ファーレン王国から出れたね」

「ああ。まずは一安心か……」


 リンに御者を任せ、ライトはその隣に座る。

 ライトの腰のホルスターに収まるカドゥケウスが言った。


『油断すんなよ相棒。それと、道中で死体を見つけたら迷わず喰え』

「あのな、そんな物騒なことあると思うか?」

『あるだろ。盗賊だとか魔獣に食い殺されたとか、死体なんてどこにでも転がってるご時世だ、死にたてホヤホヤの死体じゃないと祝福弾は作れねぇからな』

「は……? なんだよそれ」

『ああ、言ってなかったな。オレは死体に集るハエだがグルメでね……死んでから一日以上経過してる死体のギフトを弾丸にすることはできない。まぁ死んだ人間からギフトが抜けるっつーのが正しい言い方だけどな』

「……お前、制約だらけじゃねぇか」

『世の中そんなに甘くないってこった』


 この調子だと、まだ知らない機能がありそうだ。

 ライトは、リンに馬車を止めるように言う。


「どうしたの?」

「いや、どうもこいつは信用ならない。ちょっと検証の必要がありそうだ」

「検証? ああ、カドゥケウスの」

「ああ。認めるのは癪だが、こいつは俺の武器だから、ある程度の特性を理解しておかないとな」

「わかった、じゃあ今日は安全なところで野営しよっか」

「頼む」


 リンは、地面に手を置いて魔力を集中させる……。


「……見つけた。水の流れ……近くに川がある」

「さすが水属性、水脈を探す探知魔術もあるって聞いたけど」

「ふふ、回復系の魔術が使えるの水属性だけだからね。聖剣の力で習得は容易かったのよ……それだけは感謝しないとね」


 馬車を走らせ、リンが見つけた川に到着した。

 清流というべき美しい川で、どうやらそのまま飲んでも問題なさそうだ。

 ライトは顔を洗い、馬に水をたっぷり与える。


「じゃあ、私は夕飯の支度をするから」

「頼む。終わったら手伝うよ」

「うん」


 ライトは、川から少し離れた場所に移動した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 リンから少し離れた場所に移動したライトは、左腕の袖を巻くって黒い腕を出し、右手でカドゥケウスを持つ。


「カドゥケウス、この左手で喰えるのは、死体と岩だけか?」

『うんにゃ、生物と魔力が通ってる物以外なら大抵喰えるぜ。ある程度なら自在に伸ばせるし、柔軟性もある。左腕だけなら失っても数日で生えてくる』

「なるほど……」


 ライトは左手を開き、振りかぶって突き出した。


「おりゃっ!!」


 すると、左腕が伸びた。

 限界まで伸ばそうとしたが、10メートルも伸びない内に止まり、戻ってきた。

 自分の腕ながら、少しだけ気持ち悪い。


「ふむ……不意打ちで使えるかも」


 ライトは地面の土を左手でつかむ。


「装填」

『はいよ』


 カドゥケウスに、土くれの弾丸が装填される。

 試しに一発だけ岩に撃ってみたが、土の弾丸は岩を傷付けることなく爆ぜた。


「弾丸は材質に依存するのか……」

『そうだぜ。まぁ、石とか岩とか、なければそのへんの木とか摑め。土とか水とか柔らかいモンは弾丸にゃあ不向きだな』

「……」


 意外と、厄介な誓約が多い。

 ライトは左手で小石を掴んで弾丸にして、岩に向けて放つ。

 すると、小石は岩を貫通して背後の木にめり込んだ。


「やっぱり、石とか岩とか金属とかのがいいな……それと、この眼だ」


 ライトの目は、右目だけが真っ赤に染まっていた。

 白目部分が赤くなり、黒目部分が金色に染まっている。人間ではありえない変化だった。


『それは『ベルゼブブのマナコ』だ。オレを握ると発現する能力の一つだな。まぁ、よーく見える便利な目ってとこだ』

「ふーん……」


 確かに、よく見える。

 川の反対側にある木の葉っぱを食べている青虫ですらよく見えた。

 見えすぎて逆に気持ち悪い。慣れるまで時間が必要だった。


「…………あと、一番の問題はこの武器か」


 銃、とリンは言っていた。

 手に吸い付くような取っ手(リンはグリップと言っていた)、人差し指で引ける引き金、引き金を引くと発射される弾丸。

 こんな武器、他にはないだろう。


「……っ!!」


 ライトは、カドゥケウスを構えて川の反対側めがけて発砲した。

 弾丸は葉っぱを食べてる青虫を掠め、木の幹を貫通する。


「……待ってろクソ勇者共。脳天に風穴開けてやる」


 この武器を使いこなす。ライトはそう決意した。


 ◇◇◇◇◇◇


 リンの元へ戻ると、いい匂いがした。


「あ、おかえり。終わったの?」

「ああ、とりあえずな。何か手伝えることは?」

「ん、そろそろできるから大丈夫」


 いい匂いだが……見たことのない料理だった。

 茶色いドロドロしたスープにサラダ、そしてパンという組み合わせ。パンとサラダはいいが、スープだけはわからなかった。


「……なぁ、それなんだ?」

「ああ、こっちの人はカレーを知らないんだね。これ、私の故郷の料理なの。カレーっていうんだけど、旅の途中で試行錯誤して作ったのよ。うろ覚えの知識で、数種類のスパイスを組み合わせて、ようやくそれっぽい味になったの」

「か、かれー? う、美味いのか?」

「もちろん。ちょっと辛いけど美味しいよ! 食べてビックリなのは間違いない!」


 馬車の振動で割れないように、木製の食器を準備する。

 深皿にカレーを盛り、サラダとパンを準備して完成。折り畳みの小さなテーブルに料理を並べ、岩を椅子にして食事を始めた。


「いっただきまーす」

「いただきます……」


 リンは、美味しそうにカレーを食べている。

 ライトは、少し悩んでカレーを掬い、思い切って口の中に入れ……目を見開く。


「……うまい」

「でしょ?」


 辛くドロッとした液体だが、なかなかうまい。

 ごろっとした野菜とカレーが合わさり、何とも言えない味。

 カレーにパンを付けて食べるのも美味いし、口直しに食べるサラダはとてもすっきりしてる。

 あっという間にカレーを完食した。


「はぁ……美味かった。ありがとな、リン」

「おそまつさま」


 食器を川で洗い、片づけを終える。

 リンは、着替えを持ってライトに言った。


「水浴びしてくるから、火をよろしくね」

「ああ」

「その……こっち来ないでね」

「わかってるよ」


 ライトも体を拭き、下着と服を着替えた。

 今日はリンに御者をしてもらったので、彼女にはゆっくり寝てもらおう。それに、騎士時代に野営訓練は何度もした。一晩や二晩程度なら、寝なくても問題ない。


「…………はぁ」


 雲一つない空に輝く星はどこまでも美しい。

 明日は、ワイファ王国領土の町や村を探して進む。お金の心配もあるし、金を稼ぐ手段を見つけなければならない。

リンの水浴びの音を聞きながら、ライトは考えた。


「やることが多い……」

『ケケケ。相棒ってば騎士より忙しいぜ』

「…………」


 ライトは、肯定も否定もしなかった。

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