第二章・大罪神器【色欲】シャルティナ・ラスト・ロンド

第30話・これからの進路

 再び、領土国境の町に戻って来たライトとリン。

 2人は念のため宿を変え、町の外れにある寂れた宿を選んで部屋を取った。もちろん2人部屋だ。

 馬車を宿の裏に隠し、馬の世話とエサをお願いして、これからの方針を決める。

 適当に夕飯を腹に詰め込んだライトとリンは、狭く古い部屋で話し合っていた。


「これからだけど、どうする?」

『言ったろ、女神を殺さねーと相棒の復讐は果たせねぇ。祝福の女神フリアエは死んだ人間ならいくらでも生き返らせることができるんだ』


 ライトの問いに答えたのは、ボロいサイドテーブルに置かれた異様な武器。火薬すらないこの世界ではありえない『銃』、カドゥケウスだった。

 リンは、少し埃っぽいベッドの上で質問する。


「死んだ人間を生き返らせるって……うそでしょ?」

『嘘じゃねぇ。そもそも、なんで女神がこの世界にいると思う?』

「それは、勇者レイジのクソが喚びだしたからだろうが」

『そんな単純なことじゃねぇ。そもそも、喚んだからハイ来ましたなんてマネ、いくら女神でもできねぇよ。絶対的な力を持つオレですらこんな姿なんだ』

「じゃあ、どういうことだよ」


 ライトがカドゥケウスに質問する。

 最初はカドゥケウスを毛嫌いしていたライトだが、リリカとの戦いを得て僅かながらの信頼をしていた。

 そんなライトの心情を知ってか、カドゥケウスはやけに饒舌だ。


『いいか、オレや女神は人間の持つエネルギーを力としている。女神は人間の『信仰心』を、オレみてーな魔界の神は『恐怖』を……」

「あ、ちょっとゴメン。いい?」

『ん、なんだよ? お嬢ちゃん』

「お嬢ちゃんはやめてよ。あのさ、けっこう会話に出てくるけど、魔界ってなに?」

『あ? んなのオレたちの住んでる場所に決まってんだろ。女神の住む『天界』、人間の住む『地界』、魔神の住む『魔界』……ああ、人間には馴染みないのか』


 カドゥケウスは、サラリと言った。

 ライトもリンも、顔を見合わせて首を傾げる。


「天界とか魔界とか……そんなの、存在するのかよ」

『当たり前だろ。女神フリアエやオレが証拠だ。ともかく、女神は人間の信仰心をエネルギーにしている。いいか、欲張りな女神サマたちは、人間の信仰心を集めるために、魔界との協定を破りやがったんだよ』

「……頭痛くなってきた。なんだよ魔界との協定って」

『天界と魔界の協定。それは『地界への介入と干渉を禁ずる』ってやつだ。あのクソ女神共は、魔界との協定を反故にして人間界へ干渉し、信仰心をひたすら集めてんだよ』


 ライトとリンは、いきなりの情報料に頭を抱えていた。

 だが、カドゥケウスは止まらない。


『とにかく最後まで聞け。いいか、信仰心を集める簡単な方法はなんだと思う?』

「………そりゃ、神様はすげーって思わせることだろ」

「………っ!! そ、そうか!!」

『そうだ、お嬢ちゃん』


 ライトはともかく、リンは気が付いた。


「ギフト……女神の祝福」

『そうだ。女神は地界にギフトをばらまいて、人間たちの信仰心を集めてんだよ。わかってると思うが、この地界の人間たちはみーんなギフトを持ってる。女神を悪く言う奴なんて誰もいねぇ……信仰心ガッポガッポ、女神は手の付けられねぇくらい力を持ってやがる』

「おいおい、魔界とやらは何してんだよ。協定破られてダンマリなのか? ギフトがばらまかれたとか言っても、ギフトなんてもう何十何百年前以上前から授けられてんだぞ」

『そりゃ魔界だって黙っちゃいなかった。でも……人間ってのは、神の奇跡をその身に宿したときから神に魅入られちまってんのさ。力があればどんな『恐怖』にだって立ち向かっていける。魔神の力の源である『恐怖』が感じられなくなっちまって、魔神じゃどうしようもなくなっちまったのさ』


 カドゥケウスの声は重く感じられた。


『そんな時、1人の勇者が立ち上がった。女神の力でほぼ干渉出来なかった地界に進出し、女神を倒すために人間たちの『恐怖』の象徴になろうとした勇者……」

「ゆ、勇者……まさか」


 リンは口を押さえ、ライトは目を細める。


『そう、勇者ラルシド。人間に恐怖を与えることで女神から人間を解放しようとした魔界の勇者…………お前たち人間が『魔刃王』と呼ぶ存在だ』


 魔刃王は、人間のために戦っていた。

 その事実は、リンに重くのしかかる。


「ど、どういう、こと」

『女神の目的はわからねぇけど、フリアエが地界に来たってことは何かしらの思惑があるはずだ。例えば、信仰心を集めるための象徴として君臨し、勇者レイジと4人の聖剣使いを利用するとかな』

「え…………」

『ラルシドは、天界と地界と魔界を、元のあるべきすがたに戻すために、人間と戦ったのさ。現に、ラルシドが戦い始めてから、魔界には『恐怖』が蔓延し、力ある魔神の数柱は力を取り戻した。だが……事態はそんなに甘くなかった』


 カドゥケウスは、ハッキリ言った。


『異世界からの勇者召喚、これによって喚ばれた異世界人が、圧倒的な才能と信仰心で聖剣使いに覚醒、勇者ラルシドをあっけなく倒しちまった。しかも、ラルシドを使ってフリアエまで来ちまった……』

「あ、あ……」

「リン、落ち着け」

「……は、い」

「カドゥケウス、もっと言い方を考えろ」

『へいへーい、悪うございやした、相棒』


 全く反省の色がない声で、カドゥケウスは謝った。


『でも、まだ希望は残ってる。女神をぶっ殺せばいい。いくら強大な力を持っていても、女神だって命は一つしかない。殺せば終わりだ』

「女神を殺すねぇ……」

『ああ。今の女神は万能すぎる。命すら作れる力があるからな、たとえ勇者を殺しても生き返らせるだろうな』

「……ッチ」

『そのために、オレがいる』


 カドゥケウスは、自信たっぷりに言う。


『魔界最強にして最悪の魔神、大罪神器【暴食】と呼ばれたカドゥケウス様がいるからな』

「…………」

『おいおい相棒、疑うのかよ?』

「……別に」


 ライトは、カドゥケウスの話を全て信じていない。

 証拠のない話だし、カドゥケウスが嘘を付いてる可能性だってある。それに、最強最悪の魔神とやらが、どうしてこんな真剣に女神を倒そうなんて言ってる理由をこいつは喋っていない。


「……とにかく、これからどうするかだ」

『決まってる。相棒、この世界を回って力を付けろ、そしてオレ以外の大罪神器を集めて女神をぶっ殺せ。女神を殺した先に、お前の復讐がある』

「…………」


 女神を殺すのは賛成だ。

 勇者レイジと4人が信じているのが女神なら、その女神を滅ぼすのもいい。

 

『とりあえず、この世界を回ってみたらどうだ? 相棒、急ぎの旅じゃねぇんだろ? テキトーな戦場で弾丸作って、テキトーな戦場で実戦経験を積めよ』

「…………」


 強くなる事は賛成だが……殺しに関しては別と思うライトだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 落ち込むリンの肩を叩き、ライトは聞いた。


「リン、こいつの言う通り強くならなくちゃいけないのは事実だ。どこか鍛えられそうな地形とか魔獣がいる王国はどこだ?」

「魔獣……魔獣ですと、やっぱりワイファ王国ですね」

「ワイファ王国……」

「はい。リゾート地としても有名な王国ですね」

「……よし、最初の目的地はワイファ王国にするか」

「はい、わかりました」


 次の目的地は、常夏のワイファ王国だ。

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