第28話

 ひと時、三人で恋バナで盛り上がったけどそろそろ暗くなる。遅くなる前に帰るかな。


 寮の階段を降りた所でコーデリアはまだ顔を赤くしながら夕食は自室で取ると走って行った。彼女も色々思うとこあるんだろけど…ダドくんと上手くいくと良いな。

 

 さて、私は食堂で食べて帰るかな。自室でオーダーすると軽食になりがちだ。シンクもないし食べ終わった後食器をケースに入れるとはいえ部屋に置きっぱなしにするの嫌なんだよね。翌日回収になるけど。頼めるメニューも若干違うんだよね。今日はちょっとガッツリ食べたい。


 夕食を食堂で取る生徒はさすがに昼よりは少ない。まず昼休憩と違い夕食は生徒によって時間がバラバラだし、さっきのコーデリアみたいに自室で取る人もいるからだ。


 今日はちょっとお肉な気分。牛フィレのステーキを頼んでみる。そう言えばうちは野菜だけど、コーデリアは酪農で食用肉扱ってたな。詳しくは聞いてないけどコーデリアんとこの肉だったりして。


「お、夕飯か?マリアも」


 どっかで聞いた声が後ろからする。ジェイクだ。返事も待たずに隣に座る。


「ジェイクも夕食?」

「ああ。割と美味いよな、この学食」


 とりあえず一緒に食べてるけど…色々あったから…何となく意識してしまうのを何とか抑え込む。ん?


「アレ!ジェイク、お酒飲んでるの!?」


 よく見るとグラスにワインが入ってる!


「ん?ああ、今日はもう多分寝るだけだからな。教員用に扱いがあるのな、この学食」

「待って?まだ未成年でしょ?何で飲んでるの?あ、帝国は16歳から飲めるの?」


 王国は未成年の飲酒は禁止されている。お酒は成人、20歳からだ。


「あっ言ってなかったか。オレは20歳だ」

「ええええ!?えっ、ちょっと待って?同じクラスだよね!?同じ学年よね?えっ?」

「ははは、いや調査だから同じクラスにしてもらったが別に同い年じゃないな」


 ええっ!確かに同じクラスなのは調査だとは聞いてたけど全く気づかなかったし違和感なかった…普通に同い年だと思ってた…。


「じゃあジェイクさんて呼ばないと?」

「やめろ、コーデリアみたいな事言うな」


 思わず吹き出す。でも衝撃的過ぎる。


「まだ学園にいるって事は調査終わってないんだね」


 …そうだ、そういえばジェイクは何故アルン様を調査してたのか。何を調査してるのか。教えてくれないかな?何か解決の糸口になるかも知れないし。


「ねえ、どうしてアルン様を調査してたの?」

「ん?それを聞くか…」

「…今のままじゃアルン様、修道院に送られてしまうからさ…なんか、回避できる方法を探してるんだけど…決め手がなくて…」

「…心配しなくていい。オルシュレン嬢が修道院に送られる事は絶対ない」

「!?」


 え、ちょっと待って?なんで絶対とか言い切るの?私、今まで色々やってきたのに、何か私の知らない決定的な情報があるの?


「王国は一夫一妻制で国王すら側室がないよな」

「うん。あまり宗教色は強い国じゃないけど宗教上ダメだね」

「帝国はそうじゃねえ。いや、一夫一妻制なのは同じだが上位貴族や皇室は側室を持つ」


 何の話?


「それがどうしたの?」

「皇帝陛下となると後継を残すためにも大勢の側室を持つ。だが、当然側室内にも権力争いがあってな…」


 帝国で陛下の子を授かる事は男児女児関係なく強い権力を持つ事になる。故に力のない側室は懐妊したり出産したら母子共々命の危険にさらされるなどよくある事で、複数の護衛を雇うのだが中には護衛を雇うのが難しい、貧しい者もいる。


 先代皇帝の側室のひとり、アルアシアもその一人で、大変美しく、陛下の寵愛を受けていたが貧しい男爵の出身であったため護衛は一人しか雇えなかった。ある日、彼女は妊娠したがそれをひた隠し、女児を出産するが、彼女は護衛一人では子供を守り切れないと悟り、秘密裏にティタニア国に娘を逃した。


「何の話をしてるの?まさか…」

「ティタニアの貴族に助けられてそのままティタニアのグリンヒルド侯爵の娘として育てられたそうだ。わかったのは最近でな、ティタニアを併合した際にその事実が浮上してきたんだ」


 ん?ティタニア?ティタニア貴族?アルン様の話じゃないんだ?


「宰相イシュト・オルシュレンの奥方だ」

「あっ!!」


 待って待って!?じゃあ、アルン様は帝国の皇帝陛下の…血縁!?


「そういう事だ」


 ん?後ろから声をかけられる。振り向くと。


「え!アレク殿下!!」


 そこにはアルン様との婚約を破棄し、その後も執拗にアルン様を虐げようとしてる王太子アレク殿下が!私達の話を聞いていたんだ!


「アルンシーダ・オルシュレンは帝国の、皇帝の姪に当たる。そんな女を、妻として迎えられるかっ!」


 憎々しく吐き出す様に言い放つ。まさかここに来て王太子殿下が居るとは。そして、婚約破棄の理由がアルン様が皇帝の血縁者だったからだなんて。


「これはこれは、王太子殿下。まさか後ろで盗み聞きされていたとは」

「ふざけるな、帝国の犬が。知って話したであろう!」


 ちょっとジェイク、何挑発してんの?酔ってるの!?この人すぐ激昂する人よコワイ。というかジェイクが帝国人なの知ってるのか、やはり陛下が便宜を図ったのかな?


「本来ならこの国の王太子である貴方と皇帝の姪であるオルシュレン嬢の婚約を持って、帝国との同盟を締結するはず。じきに戻ってくるでしょうが国王や宰相はその話で帝国まで足を運んだというのに、一体何かんがえてるんですかね?殿下」


 そうか、そういう事だったんだ…

 今、大きな歯車が動き出した気がした。


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