14日目 White Close Enka
その日、僕は風邪を引いた。
そのため、ずっと家にいることになった。
非常に暇だった。
時間ばかりが経過していくのを肌で感じながら何もすることができなかった。
こういうことが、時間を使えているという事なのだと思う。
人間は、皆、勘違いしている。
時間をうまく使えているかどうか、そのことを常に考えている。時間通りに動き、時間を生み出し、時間を節約し、時間を貯金する。
正直言って、おそらく認知が歪んでしまったのだと思う。
時間は生み出すことはできないし、節約することはできない。ましてや貯金などもっての他である。
時間は常に流れているのだ。
何かを早くこなしても、何かを遅くこなしても、時間は過ぎている。
そして。
仮に何かを早くこなして自由な時間を生み出したとしても、そこで生み出される利益が、何かをこなしていた時に生まれる報酬を上回るレベルにいっていないことなど多々ある。
というか、そんなことばかりだ。
分かっているのだ。
結局、時間なんて、どうにもできない。
時間の中に自分がいるということを自覚することしかできないのだ。
時間に追われている人、という表現がある。
バカじゃないのか。
時間に追われていない人など、そもそもいない。
わざわざそうやって言葉で表現する意味がどこにあるのだろう。
おそらく、そういう言葉で何かを表現し、再確認するということが一番時間の無駄だと気が付いていない。
そう。
僕は思う。
というか、そんなことを思ったのには理由がある。
僕の家の前で、二人の営業が歩いていて、突然、大柄な営業マンが小柄な営業マンに、時間をうまく使えていないと怒り始めたのだ。説教と表現しなかったのは、最早、ただ怒鳴っているとしか感じられなかったからだ。
おそらく、怒鳴っている本人も。
怒鳴られている方も。
これは説教ではないと感じていたのではないだろうか。
けれど。
それが止まることはなかった。
これが一番時間の無駄だと分かっているはずのに、明らかに、無駄だと認識できているはずなのに止めなかった。
つまり。
少なくともその時、時間は有益にも無益にもどちらであったとしてもその時間分流れたという事である。
時間というものにそもそも利益が絡むことはないという判断ができないと、いつまでも時間というものに対して誤解することになる。
時間は価値がある。
時間は尊い。
時間は素晴らしく。
時間は宝。
時間は命であり。
時間は文化であり。
時間は人そのものであり。
時間はすべてだ。
僕の知る限り、そこまで分かっている人間は、時間を使いこなそうと思わない方が幸福になれると知っている。
知っていて。
使いこなそうとする。
おそらく。
おそらく。
おそらくだけれど。
そうして。
不幸になろうとしているのだと思う。
何も考えずに幸福に生きているとバカに見られるから。
わざわざ何かを考えて悩むことで必死に不幸になりにいく。
ちゃんと不幸にならないと、良い評価がもらえない社会だからしょうがないと思う。
僕は思う。
もうすぐ死ぬことになるが。
だったらここで死ぬのもいいのかもしれないと。
「今、死んでもいいや、とか思ったでしょ。」
今、彼女が僕の額に絞ったばかりの冷たいタオルを乗せてくれる。
熱が体から静かに、音もなく、逃げていく。
「今、死んでもいいや、とか思ったでしょ。」
彼女の顔を見た。
怒っていた。
そして。
僕は十六日後に絶対死ぬ。
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