第39話 脅威の存在

「やった!」


「倒した?!」


しかし怪物は次の瞬間には今まで以上の奇声を上げると、その声にクラウスの作った魔法壁にヒビが入った。


「魔法壁に亀裂だと!」


驚きを隠せないクラウスの横に一人の若者が現れ、新たな魔法を唱えて壁の修復強化をしていた。軽やかで紫がかった髪に眼鏡が印象的で端正な顔立ち、背も高く衣服には魔術師独特の法衣系の出で立ちで全身を固められていた。


そしてもう一人現れた者は女性であった。その女性は繊麗せんれいな身体をしていて長い髪の毛をアクセントになっている髪帯で結び背中まで伸ばしていた。細い体を薄い素材の生地で出来た服を着ており、半リムの眼鏡と首にはチョーカーをそして額にはサークレットを身に付けていた。細面の顔からは綺麗な青い瞳が印象的な女性であった。その女性がオルトに向かって何かを投げると、投げた物は魔法壁をすり抜けオルトはそれを手に取ることが出来た。二人を見たオルトはそこに見覚えがある姿があるのだった。


「ジェシカ! リュールか?」


そう口から漏らしたのは現れた二人の名前であった。


「お前たち…いつ戻った?」


「先程戻りました、父上」


質問に答えたのはクラウスの長男であり、魔術師のリュール・リヒテンバッハ・ミッターだった。


「しっかし、戻って見たらとんでもない魔物がいる……しかも久々に見たオルトがやられそうだし~キャは!」


軽い笑い声と共に声をかけて来たのは長女のジェシカ・クエンバッハ・ミッターである。


「勝手にやられ役に回すな!」


ちゃかされたオルトは言った。


「オルト~お久しぶり~ それ必要でしょ?」


ジェシカは、ちゃめっ気たっぷりで手を振りながら応えた。彼女が投げて渡した剣は、赤い鞘に収まっていた。


「助かった! 魔法壁は任せるぞ!」


オルトはそう言うと渡された剣を鞘から抜いた。


「魔法壁をすり抜ける剣とはまさか! 取り戻したのか? あの剣を!」


ヒース王がリュールに聞くと、畏かしこまった二人は改めて戦っているオルトに視線を向けながら伝えいた。


「かなり骨が折れましたが、取り戻して参りました。」


みんなが見る先には怪物と対峙するオルトの姿があった。


「すまぬが、貴様を元に戻す術を知らぬ……ならば速やかに終わらせるのが良いだろう」


オルトは怪物に対し剣を構えた。怪物は奇声を上げるとオルトに連続的な攻撃を加えて来る、それを剣と身のこなしで受け流しながら防ぐと、力を込めて大きく怪物を弾き飛ばした。


その一瞬の隙を突き、怪物との距離をとるとオルトはウルを集めるように集中する――そして一気に技を放ったのだった。


「クロスディメンション!」


その技をくり出すと、魔法壁で遮られた中は大きな光の爆流でいっぱいとなり、繰り出した一撃を受けた怪物は体から煙をあげて動かなくなり、その場に崩れ落ちた。


倒れた怪物は跡形を残さずにすぐに消え去ると、クラウスが思わず呟いた。


「オルトあの頃より更に強くなってません?」


「ああ――私もそう思った」


「あれ以上強くなってどうするんでしょう」


「同感だな……はは」


ヒース王も面食らった表情で答えた。


怪物が倒され魔法壁が解かれると周りに終わった事が理解された。その場から逃げ遅れた人たちや、先程まで対戦していた相手から大きな歓声と喜びの声が沸きあがった。


オルトに駆け寄るチェスターとセシル。命を助けられた騎士や戦士たちもオルトの周りに集まって感謝の声を上げている者もいた。


「オルト!」


二人の声がオルトにも聞こえた。しかし、オルトの顔には喜ぶような表情にはなれないでいた。そんなオルトの所に先程現れたクラウスの娘と息子がやってくる。


「魔法壁があるからってあんな大技出すの危険だよん」


ジェシカがおどけた表現で言うのだった。


「あんな技出さなくてもその剣であれば倒せるでしょう」


同じくリュールも伝えるが、オルトの表情にはなぜか余裕はなく二人に話し出した。


「二人はどこに行っていたのか知らないが助かった。それと直ぐにヒース、クラウス、それと」


「ディアナ王妃?」


「ああ……皆に話さないといけない事が出来た」


真剣な表情のオルトにチェスターたちも重要さを感じた。


「国王と父は既に城に戻ったわ、城で皆に話せばいいんじゃない?」


ジェシカがそう伝えると、オルトは頷いて皆と共に城に向かった。

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