第32話 オルトの決断
ロレーヌの村に着いたバグナルはその状況をみて、かなりの被害があった事を知った。破壊されている建物や火災によって住めなくなってしまった家がかなりの数あったのだ。
「どのくらいの盗賊などが入って来ていたんだ……」
バグナルが
そこには数名の村人が壊れた家屋などの修理を行っていた。その中の村人にバグナルは話しかけた。
「すまぬが、オルト殿を探しているのだが……」
「オルトさんなら、その先の建物を曲がった辺りにいるはずだよ」
村人が指し示しながらオルトの場所を教えた。村人に教えてもらったとおりに行くと、オルトはその場で亡くなった村人の埋葬まいそうをしていた。
そこには質素ではあるがいくつもの墓が建てられており、オルトと数名の村人が作業をしていた。バグナルは彼に何を伝えていいのかわからなかった。そんな時にオルトの方が先にバグナルの姿に気が付いて声をかけてきた。
「何しに来た? 君はあのクエルと言う者をトルジェに連れて行き、裁きを受けさせないといけないのではないのか?」
「あの者は配下の兵に護送させている」
「……で何か用でもあるのか?」
「オルト殿……あなたは元々、トルジェの者だと聞きました」
バグナルは勢いに任せて言葉を向けてみた。残りの埋葬作業を他の者に任せてオルトは別の場所に移動していく。
「それがここに来た理由か?」
「はい……あなたほどの腕がありながら、このまま埋もれてしまうのは国の損失だと」
「すまぬが、国の事は私には分からぬ……私の力は近い者を守る為に存在する……それ以上でもそれ以下でもない」
オルトとバグナルはある家の前までたどり着いた。その家に入ると、何人かの子供とその面倒をみている大人がいた。そこにいる初老女性にオルトが声をかけた。
「この子たちの行先は見つかりそうか?」
オルトは今回このロレーヌの村で起きた惨事で身寄りの無くなった子供たちを心配してこの家に来たのだった。
声をかけた彼女はそんな子供たちの世話をしている一人だった。
「親戚や子供の居ない人たちに頼んでなんとか引き取り手は見つかったわ……ただ、あの子だけは見つからないのよ……」
オルトは悲しげな表情で寝ている幼い女の子を見ながら考えていた。
「バグナルだったよな……」
「ここにいる子供たちはトルジェから流れてきた賊や
バグナルは今回の件で国内の制度を考えないといけないと強く感じていた。中でも血縁による職務継承は急を要する問題だと思っていた。特に軍務に関しては……というのもクエルは代々の血縁継承によって職務が決っており軍の要職についていたのだ。その結果、起きてしまった痛ましい現実にバグナルはやるせない気持ちでいっぱいだった。
しばしの間オルトとバグナルは会話をした。それは他愛のないことから、国の外交、現在の経済状況、宗教や民衆の流行りまで楽しげに、そして時に真剣に語り合った。
バグナルとの会話でオルトは何かを決めた様子で、身寄りの無い子供たちの世話をしている女性に話をした。
「この子は私が引き取ろうと思う……」
その言葉に女性はびっくりしたが、しかしそれが自然のように聞き入れていた……女性はオルトに頷うなずいて応えた。
「そうかい……やっぱりオルトが引き受けるのが一番良いだろうね……この子の亡くなった親もオルトなら安心して任せられるだろう……」
そう言うと女性はオルトの肩に手を置いた。
バグナルは既にオルトの気持ちを考え、トルジェ軍に誘うのを諦めていた。
トルジェ軍の全体制にも手直しをしないといけないのは明らかで、優秀な人材は多く欲しいところだが、このオルトと言う人物はそれ以上の枠に収まらない力を感じたバグナルはオルトと知り合えただけでも良い出会いだったと思うことにした。
「私はトルジェに戻ります」
その言葉を聞いてオルトも決めたことを伝えた。それは引き取る幼い子供を考えての事だった。
「私もトルジェに行こうと思う……このままここに留まっていたら、いずれ周囲との間に問題も起きるかもしれない。この子にもここで起った出来事を問われるであろうし……その答えを私はまだ、見いだせていない……」
「この村の事は心配しないでいいわ……皆で立て直すから。オルトはあの子の事を考えてあげて」
そう告げてくれた女性にオルトは感謝した。
オルトは村に残す自分の私財を使ってほしい旨を女性に伝えて、必要な物の準備を早々に済ませると、バグナルと共に幼い子を抱えながらトルジェ軍の駐留している場所に向かった。
「では国内の途中まで一緒に行きましょう」
トルジェ軍は既に一万の兵を五隊に分け、引き上げを開始している最中で、最後の一隊はバグナル指揮の下で首都ウォ―センに向けて帰還を開始した。帰りの数日も、バグナルはオルトと有意義な話ができた。また、オルトが引き取った幼い子供は兵士たちに和やかな雰囲気を与え、道中での癒しとなっていた。
そしてオルトと別れる日がやって来た。
「この辺りで別れだ……」
「そうですか……」
オルトが分かれ道でバグナルにそうつぶやいた。名残惜しそうなバグナルではあったが、それが一生の別れでは無いことをオルトに言われ、良い再会を期待して別れることにした。
「私はセテの村に行く……何かあれば使いでもだしてくれ。それではな……次に会う時は良き日で!」
「オルトもお元気で……そして深琴も……」
バグナルはこの数日でオルトと親交を深めていた。わずか数日ではあったが親密と呼べるような日々であった。バグナルはオルトの去っていく姿を兵士たちと共に見送ると、首都を目指してあらためて帰路についた。
兵を率いてウォーセンに帰還すると、今回の件でクエルの罪状を重臣と国王の裁定で行われ、クエルの爵位階級の剥奪と投獄の刑が決まるが刑の執行前にクエルは逃亡し、行方をくらましてしまったと報告が
また南方討伐の件を調査した
クラウスは過去のバグナルとの出来事を改めて整理し説明を始めると。過去の出来事を思い返していたオルトも我に返りクラウスの言葉に耳を傾けた。
クエルの逃亡をきっかけに、バグナルの妻子の行方不明、その後バグナルの行動がバーサレルハイトを探し求めるものに変わり、それを阻止したために行動圏を隣国に移したバグナルが秘宝の情報を他国の有力者に伝え、トルジェを狙いだしたのではないか? というのが集めた情報と過去の出来事から推測したクラウスの見解だった。
つまり、レゴ王国、モファト教皇国、ナフラバ共和国の国々はトルジェ王国の秘宝の力を信じて、それを奪う為に行動を起こし始めたのではないか?という意味だった。
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