第22話 壁の向こう側

次の日の朝。集合場所にディープとまだ眠そうな顔のヒロサスがやってくる。集合場所には既にミワン、ピロ、桔梗、そしてリリシア(ビクス)とアル(ノキサーン)が待っていた。


 そんな集まっているところに、ハマが元気にやって来ると笑顔で挨拶をした。


「おっはよう! みんな!」


 最後にアーマーとポンの二人が揃ってやって来て、全員が揃ったのを確認し、ハマが声をかける。


「よし! 全員そろったみたいだね。みんな! 琴ちゃん救出作戦を実行します! 作戦は昨日打ち合せた通りだ。では、 みんな行くぞ~!!」


 そして一同はシーフの街に向かった。


 その頃、シーフの街では大広場と言うより、競技場に近い作りの広場では、レバンナと深琴の処刑台の準備が進められていた。


 ジャミスの独断的な決議をシーフ幹部たちは連日猛反対していたが、最終的に盗まれた物がシーフの誓約書であった事が確認されてしまい、ジャミスの行動を止める事が出来なかったのである。


「まさかレバンナ様がシーフの誓約書を盗んだなんて」


「他の物ならまだなんとかしよう。しかしあれはマスターアランが国王から直接頂いた大事な物、それに手を出したというなら、我々にはどうすればいいか分からぬ……」


 他のシーフ幹部よりも、かなり若い新参者の幹部であるレミーがその会話を聞いて疑問を問いかけた。


「すみません……私はまだそのシーフの誓約書なる物を見たことがなく、内容も知らないのですが」


「そうか、レミーはまだ日が浅かったな――シーフの誓約書とは我々ラスグーンシーフの長であるアラン様がこのトルジェ王国の国王から直々に頂いた確約書物なのだ。その誓約書は魔法書物でな、国王のヒース王がアラン様に特別に与えて、その書物を持つシーフ団体はトルジェ国内で、兵士の通常検閲を受けない、街への入場が制限されない、他の領民と区別される事がないなどの七か条の誓約が記されている物だ」


 もう一人の幹部が続けて説明した。


「もちろんこの魔法書物には制約力となる魔法力があるからな……これを破る事は普通の者には出来ないという事だ」


「誓約書が無くなるとどうなるんですか?」


 好奇心が旺盛な若いレミーは聞かずにはいられなかった。


「無くなれば我々はただのシーフだ。簡単に言えば、扱いが今までとは変わるのさ――兵士に検閲もされるし場合によっては牢獄行きだ」


「それで済めば良いが……シーフを嫌う者たちからの迫害や差別もあるだろう……最悪の場合は、このシーフの街自体が無くなり、我々を害そうとする輩も出てくるだろうな」


 それを聞いたレミーは顔が青ざめて慌てまくる。


「ではレバンナ様からそれを早急に回収しなくては!」


 レミーの言葉は他の幹部から愚問だと返された。


「レバンナ様は盗んでいないと言っておられた……それ以上の弁明もない」


「ああ。何か考えがあるのだと思うが……ジャミスの行動も把握されていた……困ったお方だ、そういう所はアラン様に似ているな」


「そんな呑気な事を! もし、その誓約書が戻って来なかったら私たちはこれからここで安泰な生活が出来ないかもしれないんですよね?」


「そうだ。だが、レバンナ様は何かを探っていて、そして何かを待っている様にも感じた」


「ああ。それが何なのかハッキリしないと手の打ちようがない。我々はレバンナ様を信じるしかないのだよ」


「今のうちに余所の街に逃げるとかできませんか?」


「無理だ。この街に住むときに、全員が等しく魔法をかけられたのを覚えているか?」


「え? はい――そう言えば、あったような」


「普段は見えぬが、誓約書に異変があればその魔法の効果で我々の体にシーフのしるしが現れるようになっている」


「ええ!! そんな、そんな魔法だったんですか! あれは」


「うむ。つまり、どこに行こうともそのしるしが体のどこかに出てしまうわけだから、例えばこの街から逃げても、シーフを嫌う連中に標的にされる訳だ」


 その話を聞いてレミーはへなへなと力無く、座り込んでしまった。


「そんな重要なものを……レバンナさま~」


 四人は話しながら着々と作り上げられていく処刑台を見ていた。





 独房では最後の望みを済ませたレバンナと深琴が身支度をしていた。レバンナは正装し、前日には風呂や食事も取らせてもらっていた。深琴も同じく食事や風呂などを許され、着ている物も綺麗になって返されていた。


「レバンナ……今日だよ? 大丈夫なの?」


「大丈夫も何も処刑だしな……」


 何故か落ち着いて会話をしている二人だった。特に深琴はレバンナが誰かを待っている様に思えたので、彼が行動を起こすのを待つつもりだった。


「レバンナは何を待っているの?」


「ごめん……もう少し付き合ってくれ」


「わかったわ。ここまで待ったんだし、レバンナの事を信じるわ」


「ありがとう深琴」


(間に合う筈だ……)


 心の中で祈るように呟くレバンナだった。


 

執務室ではジャミスが一つの手紙を読んでいた。


「ほ~う。あの方がファルドに入られたのか――順調ですね」


 そこにジャミスの部下の者が報告に来た。


「失礼します」


「なんだ?」


「処刑台の準備、もう間もなく完了いたします」


「そうか……レバンナと女はどうしている?」


「最後の食事などを摂らせました。身支度もさせてあります」


「わかった。昼になったら二人を処刑台のところまで連れて行け」


「かしこまりました」


 そういって報告に来た部下は部屋から出て行った。ジャミスは目を通した手紙を焼き、別の紙に何かを書き始めた。書き終わると窓辺からバルコニーに出て呪文を呟いた。すると、そこに大きく黒い鳥が飛んでくるのが見えた。飛んできた鳥はバルコニーの手すりに止まると、ジャミスは書いた物を足に括り付ける。


「これを届けよ」


 ジャミスが言うと、黒い鳥はその場から西の方角へ飛び立っていった。


(これでこのラスグーンは直ぐにでも崩壊する……そうなれば次は王都でも……マスターアラン、貴方の息子はもうじきいなくなるのですよ。そしてこのシーフの街は私が貰いうけます)


 ジャミスは高らかに笑い出した。


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