第17話 救出

 一方いっぽう、シーフの街に侵入した“聖夜”メンバーは、深琴がそんなことになっているとは知らずに探していた。三組に分かれて別々の場所を探していたが、アーマーとミワン、ハマとピロの二組は先ほど見えた大きな光が気になり起きた方向に向かっていた。


「なんだったんだ? さっきの光は?」


 先ほどの光が気になったハマは急いで向かっていた。


「アーマー! 何の光だったのかしら?」


 ミワンがアーマーに言うと、アーマーも同じように気になっていた。


「ああ、あの光は……何かあったんか?」


 二人が光った場所の方に向かっている途中で、偶然にもディープとヒロサスに出くわし、合流する形となった。


「アマさん」


「ミワンさん」


「ディープこっち来てたっちゃか?」


「どうしたんですか? 二人とも慌てて」


「お前らは見んかったっちゃか? あの光を?」


「あの光?」


 合流しながらディープとヒロサスの二人に先ほど見えていた光の事をミワンが説明した。


「そんな光、僕たちは確認できなかったですよ?」


「とにかくその方向に行って見るっちゃ!」


「そうですね、深琴さんの行方も何か解るかも知れませんし」


 アーマーたち四人が光の見えた方へ移動していると、自然と目的地を同じとするハマとピロとも合流することになった。


「ハマ! 気づいたっちゃか?」


「ああ!……あの光なんだったか確かめたくて」


 こうして三組に分かれたはずの六人は先ほどの光の発生源を探しに再び行動を共にすることとなった。



 その頃、深琴とレバンナは縄で縛られて独房のある場所に連れて行かれていた。レバンナは連れて行かれる最中にシーフの一人に尋ねた。


「マスターシーフはいつ帰ってくるんだ?」


「七日後には戻ってくると聞いていますが」


「そうか」


 会話を聞いていた深琴はレバンナに聞いた。


「ねえ、マスターシーフってここのギルドマスターの事?」


「そうだよ……今はシーフを世間からの有りようを変える為に、あっちこっち飛び回って協力をもらっている所だって聞いてる」


「協力?」


 レバンナはマスターシーフのやっていることを深琴に説明し始めた。


「元々シーフって稼業は世間的にあまり褒められた仕事ではないように見られてるよな……だから世間的にもシーフ側的にも、お互いを上手く理解しあえる様に根回ししてるのさ」


「ん~よくわからないのだけど」


「要はシーフと言う仕事が世間からうとまれないように『ちゃんとした仕事』だと、


 他の稼業や領主、最終的には国に認めさせるって事だよ」


「え? でもギルドでちゃんとした形は取れているんでしょ?」


 二人を連行しているシーフが、その会話がもどかしくて口添えした。


「それは、そのギルドが力を持っていれば何とかなるって事です。力のないギルドだと、ただの盗人や盗賊の類と同じに見られていたんですよ……しかも扱い方もひどいです…それを嘆いた我々のマスターシーフのアラン様が、シーフの地位向上の為にいろいろ考えて行動してくださってくれているのです」


「へ~そうなんだ! ここのマスターはすごい事をやろうとしているのね」


 その深琴の言葉を聞いたレバンナは、マスターシーフについてさらに語った。


「そうだ、シーフと言っても俺達だって普通に暮らしているし、何かあればいろんな事にも協力して来た。なのに俺達は他の稼業に比べると全く日陰で陰湿な印象で扱われてきたんだ」


「そんな悲惨な状態から救って、地位向上を掲げて動いてくれているアラン様は私たちにとって大事な存在で、希望でもあるんです」


 レバンナたちの話を聞いて歩いていると、あっという間に独房まで着いてしまった。二人は別々の独房に入れられ、二人を連行してきたシーフがレバンナに小さな声で語りかける。


「しばらくの辛抱ですアラン様が帰って来て、理由を聞けば解放されますから」


「わかってる」


 言葉少なくレバンナは返した。深琴はレバンナの隣にある独房に入れられ、案内したシーフは去り際に用事があれば呼んで下さいと伝えてその場を去っていった。


 ここまでのレバンナの対応に違和感を感じた深琴は聞いてみた。


「ねえレバンナ……シーフの中でこういう事ってよくあるの?」


「ん? 独房に入るような事か?」


「ええ……なんか慣れた感じだったし……緊張感というか、不安な感じがレバンナからしないから、もしかしてよくあるのかな~って」


 それを聞いてレバンナは素直に答えていた。


「まあ、子供の頃はギルドに迷惑な事も結構して謹慎もあったかな……まあオヤジの対面もあるし、しめしがつかないと不味いから、ちゃんとする様になったつもりだけどな~」


 そのレバンナの言葉を聞いて深琴はさらに疑問を抱いた。


「レバンナのお父さんって……このシーフギルドで偉い人なの?」


「親父はここのマスターシーフだな」


 一瞬にして深琴の思考回路が止まったのだろう表情にもそれが見てとれた。


「え? いま……マスターシーフって言った? あなたのお父さんが?」


「そうだけど……なにか変か?」


 レバンナは当たり前のように深琴の質問に答えたが、その答えは彼女にとってはかなりの衝撃であったようだ。


「ちょ!……だってマスターシーフの息子ならなんで独房なんかに入るのよ! 普通もっと権限とか威厳とかなんかこう、優遇されてるっていうか――」


「親父はそういう事はしない主義なんだよ……まあ、俺もそういうの嫌いだしな……みんなと公平に扱ってもらわないと、なんかこっちが具合悪いんだよな」


 自分と父親の考え方を伝えたレバンナだが、深琴は隣の独房で大きな声で騒いでいる。


「レバンナ! 何とか言ってここ出してもらってよ! あなた偉いんでしょ! マスターの息子でしょ! 早くこんな所から出してよ~」


「はいはい……来週にはマスターが帰って来るらしいから、それまでゆっくりしてな」


「こんな所でゆっくりも何もないよ~嫌だよ~出してよ~お風呂入りたいよ~」


 隣の独房の中で横になって話を聞き流しているレバンナのことなど露知らず、深琴は諦めきれずに鉄格子越しにわめいて駄々をこねていると、そこに誰かの足音が近づいて来た。その音はレバンナの房の前で止まり、そして一人の男の声が独房の中に響き渡った。


「レバンナさん……どうですか? ここの居心地は?」


 それは先程のジャミスであった。ジャミスは鉄格子越しにレバンナを見ながらそう話しかけると、うっすらと笑った。


「今回の件はあなたに感謝しなくてはいけませんね」


「なに?」


 レバンナは彼が何を言うのかを見極めようと、ジャミスの発言に注意を向ける。


「あなたとマスターアランをどうやって失脚させようか思案していたので助かりましたよ」


「どういう意味だ、ジャミス」


「そういう意味ですよ……私はマスターアランのやり方は好きではないのです。わざわざシーフ業を世間に認めさせると困るシーフ達もいるんですよ」


「お前はマスターのやろうとしている事の本当の意味がわかってないんだな」


 薄ら笑いを浮かべていたジャミスの片側の眉が上がり、レバンナの言葉に反論する。


「ええ解りかねます……それに、そうしないでいいと言う方々が他にいるのです……わたしは、その方々と意見が合うのですよ」


 レバンナはジャミスに自分たちの考えを理解してもらえない事がわかり、少し暗い面持おももちで問う。


「それでお前は、俺とマスターをどうしたいんだ?」


 その反応にジャミスはここぞとばかりに上から目線で言い放つ。


「そうですね~私はただ、このギルドから居なくなってくれれば良かったと思ってたんですけどね~他のシーフギルドにもマスターアランの行動が気に入らないって苦情が来まして……その人たちと相談して決めたことがあるんですよ……マスターアランには亡くなってもらう――もちろん、今回の件が無ければ、あなたも死なずに済んだのかも知れませんがね……私たちの大切な宝を窃盗しようとしたことと、不審者の侵入を手伝ったことが罪状にできましたし、ついでではありますが、あなたにも死んでもらう事にしました」


「そうか……何か企んでいると思ってたが、そういう事か、噂に聞いていたが、悪い盗賊シャドウシーフに属するという事か……」


 ジャミスの考えを見透かしたように表情を変えないレバンナに片側の眉を上げてジャミスは更に言った。


「おや、知っていたんですか? 私の計画を……それはなかなかに凄い洞察力ですよ――ですがあなたは今や囚われの身、弁明も釈明も何もすることができないのですよ」


 レバンナは背を向け特に反応も示さずに聞いていた。


 ジャミスはそんなレバンナの態度が気にいらなかった。今の状況はジャミスにとって生まれて初めてレバンナより有利な立場だというのに、レバンナが焦る素振りも見せないことがジャミスにとって苛立たせた。ジャミスは独房の鉄格子を叩いてまくしたてる。


「いいですか! あなたも、マスターアランもあと数日の命なんですよ! 命尽きるまでせいぜいここで自分のしたことを悔いていなさい!」


 ジャミスの発言を聞いていた深琴が口を挟んだ。


「あの~その話の中に私は関係ないので……私は釈放って事でいいんですよね?」


 深琴が柄にもなく、好意を持てない相手に愛想笑いと手もみしながら聞いてみると、ジャミスは興味を示すことなくあっさりと応えた。


「ん? あなたは、我々の物を盗もうとしたんですから当然処刑ですよ」


 それを聞いた深琴は食い下がろうとジャミスに言う。


「え~なんで~私は関係ないし~それぐらいの事で処刑されるなんてありえないよ~何も取ってないんだし~」


 ふてくされた様に言うがジャミスは感情に変化もなく淡々と言った。


「どちらにしろ今の会話を聞いてしまいましたからね~あなたもレバンナと一緒に処刑という事ですよ……それでは、またその日にお会いしましょうレバンナ」


 ジャミスは独房を後にする。その出て行く姿に深琴は叫びながら訴え続けた。


「ちょっと~そんな事言わないで~考え直して~何でもするから~」


 ジャミスは深琴の言葉に構わず去っていった。彼が居なくなったのを確認して深琴が言う。


「やっぱりダメだったわ。わたし色気ないしな~もっと情報引きだしたかったんだけど……あのジャミスって人、見向きもしなかった。レバンナもあの人相手にいろいろと大変なんだね」


「ジャミスが何か企んでいたのは分かっていたんだ……ただそれがあいつ一人の事なのか、他にどのぐらい協力者がいるのかが分からなかったんだけどな……まさか悪い盗賊シャドウシーフと手を組むなんてな」


「その悪い盗賊シャドウシーフってどんな人たち?」


「簡単に言えばなんでもやる集団さ、シーフにもいろいろいるみたいで俺達の目指すシーフは義を持った盗賊、つまり義賊ピュアシーフという言い方をする。それとは反対に金や利益になることだったら何でもするのが悪い盗賊シャドウシーフってことさ」


「目指す物が違うってこと?」


「いや、奴らにはポリシーやプライドなんてものは存在しないさ、自分たちが良ければ他のことなんかどうでもいいと思っているような集団……だから仲間も簡単に裏切るし、不利だと知ればすぐに陣営を乗り換えることもしょっちゅうある」


「欲望の赴くままに――って感じかしら」


「ああ……シーフと言っても人だ――人である以上は誰かしらに出会い、知り合って助けたり助けられることがあるはず。それを自己本位に動いてしまえば必ず歪が生まれ、その生まれた歪は、人と人を悪い関係にする。 だから人間社会には法律という規則を持たせ人との関わり合いを円滑にしている」


「レバンナって凄いわね、そんなことを理解しているなんて」


「ごめん、これは俺の考えじゃないよ、親父の受け売りだ……ただ俺にもわかっていることはシーフにもルールがあるってことだ。それを反故ほごしてしまえば俺達は社会の嫌われ者の集団になるしかない」


 ちょっと立派に聞こえた言葉はレバンナに対する深琴の中のイメージを変えていた。深琴はレバンナが考えているであろうこれからについても聞いてみた。


「それじゃ~このまま黙っているわけではないのね?」


「ああ……ただ、まだ動けないから暫くはここで大人しくしててくれないか」


「しょうがないな~レバンナのタイミングまで待つわ……こんな所は嫌なんだけどね」

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