第16話 捜索
その一方で深琴はレバンナに案内されて、街の一郭に来ていた。その場所は他の感じとは明らかに違いよそ者や部外者の立ち入りを拒んだ雰囲気を醸し出している場所だった。
「レバンナ? ここに何かあるの?」
「し~! 見つかったら俺も、どやされるだけじゃ済まないから、バレないように行かないと、まずいんだよ……多分この場所が一番怪しいんだ――大事な物はここに保管してあるからさ」
「そう、でもそんな場所には見えないけど……」
「そう見えるだけさ、木を隠すには林や森に、人を隠すなら街や都市にってね」
「なるほど! 同じような物を隠すなら似た様な物が多い場所にって事ね」
「そういう事!」
「へ~凄いわね、シーフってみんなそんなふうに考えるの?」
「さあ、他の所のシーフがどう考えているかは分からないな」
二人は目的の建物入口までたどり着いたが、当然そこには見張りがいた。
そして、二人が様子を伺っていると、見張り役がその場所から他の場所に巡回のため離れて行く。
「よし今だ!」
レバンナは深琴を連れて飛び込んでいった。
そこには扉があり当然、鍵がかかっている。
「この扉、鍵かかってるよ」
「わかってる、いまから開ける!」
「開けれるの?」
「あたりまえだよ! それ位の技術は習得しているからね」
レバンナが戸惑うことなく道具を取り出して鍵穴に差し込む、その様子をみて深琴はシーフって本当なんでもできるんだな、なんて感心をしているとレバンナはあっさりと扉の鍵を開けてしまった。
「ほら」
「凄いのね~レバンナ」
二人が無事に建物の中に入り終わった時に見張り役が帰って来たが、見つからずに済んだ。
「さてと、問題はこの先に探してる物があるかだけどね」
二人が進むと大きめの広間にでた。広間には囲むような形で二階にテラスがあり、そのテラスには小窓が
「なにここ?」
「さ~てこっからが問題なんだよな~」
そういうとレバンナが持っているバックから何やら取り出す。
「この器具でっと」
取り出した器具は金属の棒で、その先端に魔法紙を取り付けた。そしていくつもある扉の方向を向いて立ち、その棒で扉の反応を見ている。
すると一つの扉に向かって反応があった。レバンナの持っている棒が光りだしたのだ。
「ここか!」
そういうとレバンナは反応のあった扉を開けようとする。
「レバンナ、それは?」
「これは、同じ種類のものがあると光を発して教えてくれる物なんだ、っと……そういえば、名前まだ聞いてなかったよな」
「あ! 私、聞いてばかりで言ってなかったわ……ごめんねレバンナ、私の名前は深琴。よろしくね」
「そっか、深琴って言うんだ、いい名前だな」
「そう? ありがと!」
久しぶりに名前を褒められた気がした深琴はちょっと照れた笑顔で答えた。
扉が開かれると少し傾斜のかかった道があり、大人二人が横並びでも充分通れるほどの幅で真っ直ぐに伸びていた。
「この先にあるの? レバンナ?」
「多分ね……深琴が言っていた中身が魔法系の手紙ならさっき俺が付けた魔法紙と
「じゃあさっき道具の先に付けた紙は魔法紙なのね」
「そう、俺たち、結構いろんなもの持ってるんだよ。その中に魔法紙もあったからねそれを使ってみたんだ」
「へ~」
話しながら歩いている二人の前にまたしても扉が現れ、レバンナは早速その扉に仕掛けが無いか調べ始めた。
「なんかレバンナってしっかりしてるのね」
「俺だってもうすぐ一八歳になるからね、こんなのあたりまえだよ!」
そのレバンナの答えに深琴は驚いていた。深琴はレバンナがもっと幼く、せいぜい一二歳ぐらいの少年だと思っていたからだ。それほど見た目には若く見えていた。
「え? レバンナ十八歳なの? うそ~」
「まだ十七だよ!もうすぐ十八になるんだけどね」
「いや、あの、もっと若いかと思ってたから、かなりびっくりしちゃった――ごめんなさい、私より年下かと思って」
「気にしてない――良くその手の対応は受けるからな」
レバンナはこんな話をしながらも、調査を終えた鍵を開錠し、中の様子を見ながら入って行く。深琴はそれに着いていくだけでよかった。
「この部屋?」
部屋の中は大きな書棚に整理された書物があり、多くの物が整頓されて置かれていた。
「多分この部屋のどこかにあると思うよ、ここが魔法関係の保管所になっているから」
「そうなんだ……じゃあこの部屋の中のどっかに探してるものが有るって事かな?」
「深琴の探してるものかどうかはわからないけど、俺たちの持っている大事な物で、魔法関係、しかも手紙や書物ならここにあるはずだよ」
「よ~し、それじゃ~片っ端から探してみるしかないわね」
そう言って腕まくりをすると探し出す深琴だった。しかし勢い勇んで探し始めたものの、手がかりが魔法紙だという事以外にわからないので、かなり大変な状況での捜索になってしまっていた。
「こんなにあるんだと……探し出すの大変だよね~レバンナなんか早く見つける方法ない?」
「ん~深琴の探している物がハッキリわかっていたら手はあるんだけど……俺は向こうの方探してみるよ」
さすがのレバンナも現状を打破するのは難しく、地道に奥の方の棚や書棚を調べ始める。
深琴は何かいい方法が無いかを考えながら探していると、一つの本に目が止まった。それは簡単な魔法を記していた本だったが、それを読んで以前に、兄に教えてもらった忘れ物を見つける魔法を思い出した。
「もしかしたら教えてもらった魔法で探し出せるかもしれない……よ~し!」
そう言って深琴は魔法を唱えた。
「我が名において古の力を開放する……らどす…ふぃーる…ふぉ~りなる!」
そう唱えると一瞬深琴の周りがほのかにひかった。しかし、残念ながらそれ以上の事は起きることはなかった。
「あちゃ~やっぱりダメだったか……もっといっぱい、このての魔法教えてもらっておけばよかったわ。はぁ~」
ため息を
突然起こったこの出来事にびっくりしたレバンナは深琴の所に駆け寄って来た。
「深琴! 何したんだよ! これって!」
「わからないよ~ただ忘れ物の魔法を使っただけなのよ」
「え! その魔法の効力は?」
「近くにある忘れた物を取り戻したり、元に戻したりする魔法だよ~も~何がどうなってるのよ~」
「間違ったとかじゃないのか?」
「そんな事ないよ~ちゃんと覚えてたし、簡単な魔法なんだから」
その光はだんだん大きくなって部屋全体を包み込んだ。
すこしすると、その後はだんだん小さくなって、深琴の身体の中に納まっていくように光は消えて行った。光で目がやられない様にレバンナと深琴は目を堅く閉じていたので、光が収まった様子は見ていなかった。そして光が収まった感覚で目を開けた二人は、何が起きたかわからない状態で立ち尽くしていた。
「何だったんだ……今の」
「わからないけど……何もなっていないみたい……」
「あんな魔法初めて見た……」
周りを見渡し、何か変化がないか確認するレバンナだったが、特に変化はなく、光っていた書物なども元の状態であった。
「やばい!」
レバンナは重要なことに気がついてしまった。
それは今の大きな光が外にまで届いてしまったのでは無いかということだ。
「どうしたの? レバンナ?」
「今の光が外に漏れていたら、ここに侵入したのがバレてしまう!」
「え! まずいよ! まだ探しきってないのに」
「とりあえず探し物は後だ! 早くこの場所から逃げないと!」
「でも……!」
「今見つかったら、俺だって
「ん~もう! わかったわよ」
そう言って二人は急いでその場所を後にした。来た道を戻りテラスのある大きな広間までたどりついた。だが、広間への扉を開けた途端、待ち構えていた警備の一団が二人の目に飛び込んできた。
「しまった! 間に合わなかったか!」
レバンナにその集団の仕切り役と思われる男が話しかけた。その男は貴族が着るような服で身を包み、、黒いブーツを履いていた。腰の背中側にはダガーを持ってはいるが完全にお飾りで装飾品が多くつけられている。そしてその顔には好感の持てぬ笑い顔があった。
「レバンナさん! あなた何をしているのですかな? 大きな光が上がったと報告があって、来てみれば、まさかコソコソと我々が集めた宝をどうかしようとしている訳ではないですよね?」
「――ジャミス」
ジャミスと呼ばれた男はさらに深琴を見ながら付け加えた。
「それに、その女は何者ですか? 見ない顔ですが、まさかシーフ以外の者をこの大事な場所に入れた訳じゃないですよね、レバンナさん?」
二ヤッと笑いを浮かべるジャミスにレバンナは言った。
「確かに彼女はシーフではない――ただ彼女の物を一緒に探していただけだ」
「レバンナさん……あなたがしている事が、どういう事かお分かりになっているのですか?」
語尾を強めに、そしてレバンナのことをいたぶる様にジャミスは言葉を発していた。
「まってください! 私がレバンナに無理を言って手伝ってもらったんです」
「ほう! あなたがレバンナをそそのかしてここに入ったというのですか?」
「そそのかしたって……それはないけど、私の盗まれた物がここにあるかも知れないので、レバンナに頼んで一緒に探してもらってたんです――もしご迷惑でしたのならば謝ります」
言葉の続きを遮る様にジャミスは
「申し訳ないが、お嬢さん、ここは私達シーフの自治領域なんですよ! ですからあなたたちの常識は通用しないのです!」
話を聞いてくれそうもないジャミスを理解して、深琴は小さな声でレバンナにこれからの動向を聞いた。
「どうなるの?」
「わからない……でもジャミスだからこのままじゃ済まないのは確かだろな」
それを聞いた深琴は、思わず腰の刀に手を掛けたが、レバンナに止められた。
「この人数相手に何する気だ? 止めておけ……」
「でも……」
「あなたたち二人には房に入っていただきますよ。後で行う、我々の会議で処分を言い渡すまで」
「わかった……」
二人はなんの抵抗もできないまま縄に繋がれ、牢屋に連れて行かれてしまった。
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