第3話 森を抜けて

深琴を乗せた馬はイリノアの街に向かって森の中をどれくらい走っているだろうか――まだ遠くにある街の灯はなかなか近くになってはくれない。

急ごうとしている気持ちが乗っている馬に伝わるのではないかという感覚で走らせている中、何かが森の中から見ているような気配に気がつくとその存在は一つではなく、いくつかあることは容易に確認できた。

(何かしら?)

そう思った瞬間! 気配のする方から深琴の乗っている馬に何かを投げられて、馬の足に当たると馬が驚いて止まってしまった。

「きゃ!」

馬から転がるように落ちた深琴、そんな深琴の近くには、どこから現れたのか、数人の男たちが立っていた。

「誰! あなたたちは!」

深琴の声に応えるように笑い声が聞こえてきた。

「ヒャハッハッハー! こんな夜に女の子が一人で、どこに行くんですかね~」

深琴は男たちを警戒し、その場に対応できるような態勢に変えていた。

「もしかしてあなたたち、盗賊なの?」

「ご名答! そうです。俺たちが人々に忌み嫌われる盗賊です……さあ~わかっただろ、 おとなしく俺たちにお金を出して餌になりなさい! それだけでは終わらないけどな――ヒャハッハッー」

盗賊の下品な笑い声を拒絶するかのように深琴は腰に差している剣を抜いて盗賊に構えた。

「こんな所で時間を割いている場合じゃないのに……」

「いう事を聞いていればいいものを! しょうがない子だな~痛い目に合わないとわからないみたいだね~」

剣を抜いた深琴の姿を見て、盗賊たちも剣を抜くと躊躇ちゅうちょなく切りかかって来た。

深琴は剣で応戦するも暗がりから攻撃を受けるのでうまく反撃ができない――間合いが掴めずに防戦でしのいでいるようだった。

「もう! この人たちは!」

慣れたように、盗賊たちはいつの間にか深琴を囲んでしまいそうになる。

(しまった!)

盗賊たちが深琴へ迫ろうとしているその時、どこかから声がした。

「おいおい……こんな所で賞金になりそうなやつらに遇うなんて、なんて幸運の巡り合わせなんだ」

そして、その声は深琴にも向けられていた。

「そこの女の子! 君がこの幸運を運んでくれたのかい?」

深琴は暗がりでその言葉が、どこからする声かわからぬ様子であった。

雲が完全に晴れると、月明かりで辺りをハッキリと映し出す姿は、一人の青年の姿だった。

青年はスラッとした身体を大きな木にもたれるように姿を現した。髪の色は黒く背も高い首にはスヌードを巻き、細そうに見える身体は軽装の防具で包みロングブーツもレガース兼用。全体的に動きを重視した装備に見え、背中越しに担いでいる剣は使い慣れている感じのある代物であった。


「おい! おまえ! 今なんて言った!」

「俺たちに遇ったことが幸運だと!」

盗賊は突如あらわれた青年に向きを変えると、青年は自信あるように言葉を吐いた。

「その通りだよ、お前たちは俺の賞金になるんだよ! と言ったつもりだけど、そう聞こえなかったかな?」

青年の言葉で盗賊たちが苛立った表情になり、態度も大きく変わったのを深琴は感じとった。

「おまえ! 俺たちをその辺の盗賊と一緒にしてるつもりらしいが、見当違いだぜ!」

「俺たちは緑の盗賊団ゾックだぞ!」

盗賊団の名前を聞いた深琴は驚いて、思わず言葉にしていた。

「あなたたちがゾック? でも、なんでこんなところの森に」

「ゾックを知っているお嬢ちゃんの方が賢いかもしれんな~俺たちは狙った獲物は逃がさない! ここで俺たちに会ったことは、幸運なんかじゃなく運が悪かったと思い知らせてやる」

それを聞いて、さらに青年は高笑いをした。

「ハッハハッハッハ~本当にゾックなのか? 嬉しいね~、やっと俺にも運が向いてきた!」

そう言うと、既に盗賊の一人を倒していた。

倒された仲間を見た盗賊たちは、完全に態勢を変えて青年を先に相手にしなければいけない展開になった為に深琴のことを後回しにした。

「こいつ!」

「こいつからやるぞ!」

暗がりの中、剣と剣が激しくぶつかる音がする。

青年は盗賊相手でも怯むようすもなく襲ってくる相手を素早く応戦している。

後ろから向かってきた盗賊の一人を蹴り上げたあと、すぐに別の盗賊からの攻撃をしゃがんで避けた。そして青年は深琴に言葉をかけてきた。

「女神さん! こいつらは俺が貰う! 怪我したくなかったら、さっさと逃げな!」

そう話している間に、また一人倒していた。青年の動きには無駄がなく盗賊の人数をモノともせずにいたことで、盗賊と青年との戦いにより深琴が逃れられる隙が生まれていた。

助けてくれた青年に礼を言いながら深琴は馬を拾ってその場を脱出する。

「ありがとうございます。ご無事で!」

「おう! また会えたらな」

青年は四人目の盗賊を倒しながら、深琴に言葉をかけて送り出した。

遠ざかる馬上の深琴、それを背に盗賊を倒していく青年は明らかに余裕の感じだった。

「さ~って遠慮なく賞金首――いただきますよ~」

そういいながら盗賊をまた一人倒していく青年であった。盗賊たちも今頃になって彼の強さに気がついた。

「こいつ、つえ~」

盗賊は呟くのも既に遅かった。


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