第1章:水間カシヒトの秘密

水間樫人の秘密(1)


「でさあ、そこで夢が終わるんだけど」


 休み時間の、騒がしい5年4組の教室。水間みずま 樫人かしひとは、机をひとつ挟んだ所にいる火山ひやま しゅうに話す。


「でっかい部屋で、じいさんと兄ちゃんが話をして、でっかい箱を開けて、中からコードを出して、兄ちゃんが手に刺した?!わけがわからないなぁ……」


 カシヒトもシュウも、どこにでもいそうな、普通の小学生だ。カシヒトは黒のちょっとくせ毛で、背の順番に並ぶと真ん中より少し前。シュウは真ん中より少し後ろ。サッカークラブに通っていて、ちょっと茶色がかったさらっとした髪の毛だ。女子たちはどっちかといえばシュウのほうが気になって声をかけたがっているが、恥ずかしがってできていない。でも、

「何の話してるの?」

 つばさ、土田つちだ つばさは気にもせず割り込んでくる。つばさはカシヒトの隣の家に住む幼なじみだ。カシヒトと同じくらいの背の高さで、髪の毛を後ろで一つに束ねている。

 カシヒトがもう一度説明すると、つばさは何秒か考えて、こんなことを言った。


「それ、『前世』ってやつじゃない?」

「えーっ?!」

「この前『月刊ひまわり』でそんな漫画があったんだ!」

「またマンガの話かよ、目でっかいやつ」

 シュウがいうと、つばさはぶつぶつ返す。「いいじゃんかわいいもん」

「……でも、」

 カシヒトはわりかしまじめにうけとっていた。

「ぼくたち、まだ11才だし……15年くらい前には、ほんと全然知らない世界の人だったりして」

「じゃあおれは世界のすっごいサッカー選手の生まれ変わりだな」

「たまねぎじゃないの? それで今もたまねぎ嫌いじゃん」

「うるっさいなーつばさもそれじゃこんにゃく屋だろ」

「ははは、」

 そのあとは、いつもとかわりない3人のやりとりで話が続いていった。



 放課後、3人が途中まで−−シュウがサッカークラブに行く分かれ道まで横並びで歩いていたとき、前から見慣れない真っ黒の車が突進してきた。あわてて三人が脇によると、車は急停車する。通り抜けられない幅ではないと思って不思議に3人が顔を見合わせていたら、中から大きな男が2人出てきた。真っ黒なスーツに、針金のようなフレームのメガネをかけている。もう一人は耳に携帯電話のイヤホンをかけていた。

「ミズマ・カシヒトだな!」


「?!」


 返事をするまもなく、ずかずかと三人の間に立ち入った男たちはカシヒトの両腕をつかみ、シュウとつばさがたじろぐ中、車に連れこまれ……、


「か、カシヒト! おい待てよ!!何すんだよ!!」

「カシヒト君!」


 再び車は動き、二人の真横を通りすぎて去っていった。


「カシヒト!!カシヒトー!」

「どうしよう、カシヒト君が……!? シュウ君、カシヒト君の家に行こう! カシヒト君のお父さん、家で仕事をしてるから、いるはず!」

「……、うん! 電話してみよう!」

 シュウは、すぐにカシヒトの家へ連絡した。つばさは、車が遠くの角を右に曲がっていったのを見た。あちらには、高速道路の入り口がある。カシヒトは遠くに連れて行かれるかもしれない。


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