第70話 一学期の終了

 魔法学院での授業は、午前は座学で午後は実技に成っています。


 剣・槍・弓等の稽古も始まりました。

 対戦形式の稽古は基礎課程が終わった3年生から始まるそうです。

 私達は人形相手に、打ち込みと切り掛かりを行います。

 又、2人1組で形稽古をします。

 本物の剣では無く、竹の剣に革の細長い袋を被せた物を使います。


 野外実習では前衛・中衛・後衛全ての陣形が出来る様に、低クラスの魔物相手に基礎的な訓練が繰り返されます。

 人族が特に優れてるのは集団作戦行動で、魔族や魔物や獣人には単調な行動しか出来ないと教わりました。

 そして、人族は武術の研鑽にも優れてるそうです。

 練習を繰り返し、技術を上達させるのは、人族の素晴らしい習慣だそうです。



 夏休み前に期末試験が行われました。

 学科試験では兄妹で学年1位なってしまいました。

 目立たない様にと、ワザと1問だけ間違えたのに、2人して同じ問題を間違えた所為で、同点で1位になってしまいました。双子だからでしょうか?


 実技試験ではファイヤーボールを撃ち、5体の人形の的を無詠唱と遅延無しで全て連続で破壊しました。

 中心に当り威力が大き過ぎてしまい、満点以上になってしまった為、やはり兄妹で学年1位となってしまいました。

 軽く手を抜いたつもりでしたが……。



「カール、いつ期末試験の勉強をしてたのですか?」


「うん? いつも一緒にいるから……してないよね」


「そうですわね……私も特に何もしていないのに。実技はどうして同じファイヤーボールにしたのですか?」


「兄妹だから? 目立たない様に?」


「そう……」



 幼い頃から、ユウリお兄様が私達に昔話等の読み聞かせをして、上泉信綱殿がチャンバラゴッコをしてくれました。

 エリナお姉様は魔法少女を目指して、色々な魔法をダンスしながら詠唱するので、それを見ていた私達は、遊び感覚で楽しく覚えてしまっていた様です。


(試験では恥ずかしいので、アニメのダンスと呪文はしませんでしたが、その所為で無詠唱・遅延無しでファイヤーボールを撃っていまい、満点越えと成ってしまったのです)



 魔法学院に入学してからは、ユウリお兄様とユキお姉様が私達に魔法を教えてくれる様になりました。

 毎朝、ユウリお兄様とユキお姉様は剣術と弓の稽古をしています。

 私達もケガをしない範囲で自由に稽古をしていました。

 その為、魔法学院で教わる授業は、私達には日常の事でしかなかったのです。


 又、岩窟城やトロルヘイムの領主館に【転移】で遊びに行くと、野や山で武器や魔法を使って遊びます。

 魔法で遊ぶ様になったのは学院に入学してからですけど。



「2人供、沢山の威力ある魔法が使える様に成ると思うから、制御の仕方と特殊な使い方を教えよう。

 パッシブスキルは通常意識する必要は無いけど、【詠唱省略】【魔法遅延省略】は状況に応じて使い分けた方が良い。

 ファイヤーボールを例にすると、一般人は『詠唱して魔法を撃って遅延時間を消化して、又2発目を撃つ』と1回ごとに10秒ぐらい時間が掛ってしまうんだ。

 しかし、私達は【詠唱省略】【魔法遅延省略】が常時発動してるので、連続でMPが無くなる迄、撃ち続ける事ができる。これは、普段しない方が良いんだ。【詠唱省略】【魔法遅延省略】は、かなりのレアスキルで人族で持ってる者は居ないはずだから。

 更に、【魔力消費減】【魔力回復】で、魔力消費が少なく回復も早いので、長時間連続で魔法を撃ち続ける事ができる。

 そして【経験値倍】【成長速度倍】【限定解除】でレベルがドンドン上がり、上位の魔法を覚えると一騎当千の魔法使いになってしまう筈なんだ。そうすると、お父さん達みたいに魔法を使い過ぎて罰を受ける事もあるんだよ。

『過ぎたるは猶及ばざるが如し』と言うことわざがあるのだから。

 どうしても、非常時に魔法を使わないといけなくなったら、エリナに貰った衣装を着て、誰だか分からない様にするんだよ」


「「は~い」」




 ユウリお兄様とユキお姉様は素性を隠してる為、稽古をする時は岩窟城に行きます。

 私達も入学してからは、一緒に行って稽古をする様になりました。


 現在、岩窟城の主にはジュン様(呪龍ファフニール)が成っています。元々ジュン様の棲家だったそうですから。


「ジュンお兄様、金銀財宝がザックザックですわね」


「うん。又、沈没船を見付けて拾ってきたんだ。ロッテの欲しい物があったら持っていっていいよ」


「う~ん。今は間に合ってます」


「そう……呪いは掛ってないから遠慮しないでね」


「は~い」



 岩窟城には私達家族の部屋や親衛隊の部屋もありますし、客室もあります。

 夏場は避暑地代わりに結構訪れます。

 転移部屋というお部屋があって、王都アンディーヌの公爵邸・ハーマルの城と公爵邸・トロルヘイム領主邸・岩窟城・フォレブ草原の研修所は転移クリスタルで行き来できます。


 トロルヘイムの領主邸もかなり豪華で広いので、ユウリお兄様の大勢の子供とその母親が住んでます。

 妻はユキお姉様お1人で、他の方々は側室では無いと聞いてます。

 すでにカールがノルマンド公爵に成っている為、ユウリお兄様の子供達は公爵の兄弟として、トロルヘイム領主邸に住んでいます。

 この領主邸の主はオログ=ハイ様となっています。

 オログ=ハイ様が号令を掛けると、森中から、トロルと言う巨人達が集まって来るそうです。



 ノルマンド公爵領の中核はハーマル城です。

 ハーマル城にはミサエ・ナカハラ宰相が常在して、領内の政治を行ってます。

 ユウリお兄様曰く「世界一の宰相」だそうです。


 ノルマンド公爵領はアストリア王国で最も豊かで繁栄してると言われてます。

 ナカハラ宰相の2人の子供も、ユウリお兄様の御子だそうです……。

 私の事をお姉様と呼ぶ子供達が50人近くいます。

 宰相は、ユウリお兄様の全ての子供達に仕事を与えると頑張ってました。




 7月の初めの期末試験が終わると、そのまま夏休みになりました。

 エリナお姉様とルミナお姉様は、毎日トロルヘイム領主邸の庭で、衣装を着て魔法の稽古をしてます。


「エリナお姉様の詠唱は独特ですわね?」


「ロッテちゃん、この詠唱は日本のアニメの真似なの~。無詠唱でセリフを言ってるだけなの~」


「アニメですか?」


「ほらほら~、これ見て見て~」


 エリナはタブレットでピンキーマミのアニメ動画を見せた。



「フワ~ッ、ステキですわ~。お姉様、私も一緒に踊って魔法を撃ちたいですぅ」


「いいわよ~。私達はフェアリークレストって魔法少女隊を作ってるんだけど、ロッテも入る~?」


「はい、お願いします」


「僕も入りますっ!」



「カールは俺と戦隊レンジャーか仮面ヤイダーにしようか、少女じゃなくて少年だから」

 と、ユウリ。


「変身してカッコいい衣装が着れますか?」


「2人で一緒に考えて決めようか?」


「はいっ!」




 オーディン様の許可を貰い、コミケの開催中は、家族揃って日本で過ごす事になりました。


 私達はトロルヘイムのダンジョン最下層に行き、魔力源泉のクリスタルから東京の異世界生活研修所の庭に転移しました。

 私達家族は、日本に住んでるお爺様とお婆様に挨拶をして、浦安と言う所のホテルに宿泊します。



 翌日に私は夏コミで、ユキお姉様、エリナお姉様、ルミナお姉様とコスプレデビューをしました。


『フェアリークレスト魔法少女隊』

 と言う、オリジナルの架空アニメ物設定?だそうです。


 実際の魔法は撃ちませんでしたが、可愛くて色鮮やかなコスチュームを着てダンスして、とても楽しかったです。そして沢山の人に囲まれて写真も撮られました。



 ユウリお兄様とパッフィ様とオログ=ハイ様とカールは、魔法戦隊ストーマーのコスプレをしてました。

 顔がまったく見えませんから誰だか分かりません。

 私達のフェアリークレストは、目の周りを隠してるだけで髪と鼻と口は見えてますけれど。


「俺達4人は異世界から来た戦隊アイドル!」


「ストーマーオゥちゃん!」

「ストーマーマツジュン!」

「ストーマーニノちゃん!」

「ストーマー翔くん!」


「「「「4人揃って、魔法戦隊ストーマー」」」」


「えっ! ストーカ~?」

「違うよっ、ストーマーだ! ストームは日本語で嵐だよ」


 お兄様達の前には、残念ながら人だかりは出来ませんでした……。




 ヤマちゃんとコンちゃんは一緒にサークル参加をして、同人誌と言う物を販売しています。


「新刊は完売じゃ! フンスッ!」

 と興奮してました。



 親衛隊長のチヨ・モチズキ様とナカハラ宰相も、別の場所で同人誌を販売していました。


「子供が出来て母親に成ってもずっと続けたいです」


「発行部数は少ないですけど、コアなファンが待っているのですよ」

 と、言う事でした。




 3日目の夜には、K大学の『新次元文化研究会』の学生さん達と一緒に打ち上げに参加しました。

 他にコスプレ仲間や同人仲間も沢山参加しています。

 大井戸温泉昔話と言う所で大きなお風呂に入り、美味しい物を沢山食べました。

 フェアリークレストは『新次元文化研究会』の学生さん達に、とても歓迎されていたのです。


「リアルがちの魔法少女だから、興奮しちゃうよね~。今度是非、魔物に魔法を打ち込む所を見せてね~」

 と、言われました。




 幸せで満ち足りた時間を過ごすユウリ達だが、10年以上沈黙している魔族達は、無駄に大人しくしてる訳ではなかった。

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