第62話 冬のパーティ準備
異世界のノルン地方に冬が訪れた。
年末が近づき時折雪が舞うが、積もる事はあまり無い。
この次期はパーティシーズンだそうだ。
ハーマルの城でも年末と年始のパーティが企画されている。
俺もミサエ・ナカハラ宰相も、城でのパーティ経験が無いので、元ホクオー国貴族達に丸投げするしかない。
城には宮廷貴族と呼ばれる領地を持たない貴族達がいる。彼らにパーティも仕切って貰う事になった。
勿論、アストリアの王都アンディーヌでもパーティが開かれる。
俺の様な直臣の上級貴族は、出席する義務があるらしい。ハーマルの陪臣貴族は自由参加で良いと言われた。
ハーマルでのパーティには、ノルン地方の領主と各界の有力者を招待する事になってる。
俺は新領主として挨拶しなければならない。
「社会インフラ・教育・ギルド・生産・加工・交易についてコメントして下さいませ」
宮廷貴族のノーランド子爵はアラフォーのベテランで、元ホクオー国王都のクベンヘイブンでも宮廷貴族として王の側仕えをしていた。
「閣下〈ノルマンド公爵〉は私達に任せてパーティを楽しんで下さい、側仕えが全て補佐しますから」
「侍従長はノーランド子爵が就任してくれるのですか?」
俺は宮廷貴族達にハーマル城の役割分担も丸投げしていた、彼らの適材適所が分からなかったのだ。
「はい、宜しくお願い致します。侍従、女官、装束士、騎士、衛兵等全て決まりました」
「ありがとう。俺も城主は初めてだから、遠慮なく教育して下さいね」
「はい……まずは城主としての言葉遣いから勉強して頂きたいです」
「はははっ、そうだよね~。じゃなくて……うむっ、そうであるな」
「はい、そうであります」
「「はははっ」」
「ちょっと気が合いそうだな」っと思った。
俺はナカハラ宰相に高価な魔道具を貸与した。魔力が少ない貴族は、舐められがちと聞いたからだ。
「これで城仕えの宮廷貴族にも、臆する事無く宰相の仕事が出来るでしょう」
「有難う御座います」
ネックレス、腕輪、指輪の【魔力増加】で総合
俺のインベントリーに所蔵していたスクロールを使って、スキルと魔法も増やして貰った。
初パーティの数日前、俺はナカハラ宰相に城の地下牢に連れて行かれた。
「お代官様ぁぁっ、おらぁ、なんもやってねぇだぁぁっ!」
「はぁ……はいはい。他に誰も居ないから、ふざけてても良いですよ」
「ミサちゃんも少しぐらい乗ってよぅ、『黙って、きりきりあるけっ!』とか、言って欲しかったなぁ」
「そこまでは、付き合えません」
石の階段に足音をコツコツと響かせながら降りると、地下牢がある。
そこには『隷属の首輪』を『服従の鎖』で壁に繋がれた若い女性が居た。
「うんっ!? 見覚えのある顔だなぁ」
「そうでしょう、閣下を襲った女暗殺者です。パーティシーズンが始まるので、閣下の護衛騎士にしようと思い教育してるのですが、1つだけ問題が有るのです。この女には呪いが掛けられています、この識別クリスタルを通して彼女の首を見てください」
ユウリは右目にクリスタルを当てて覗いてみる。
実はユウリには必要無い事だったが、ナカハラ宰相に言われた通りにした。
「『隷属の首輪』の下に、黒い首輪の様なシミが見えるね」
「暗殺組織を裏切らない様に、呪いが掛けられてる様です」
「ふ~ん」
「とても強い呪いで、城付きの魔術師に解除を頼んだのですが出来ませんでした。女神様に呪いの解除を頼んで頂けないでしょうか?」
「うん、じゃあやってみるね」
「えっ!」
「ラオノラグ、ルアリシ、クコッザ、トッエイダ……」
俺は光属性魔法の詠唱を始めた、無詠唱では難しそうだったからだ。
「始まりから終わりまで見届ける方。光を作り我々の罪を許して下さる天の父よ。御心一つで
ピッキィイイイイインッ! キラキラキラキラッ!
暗い牢屋全体に眩しい光が広がる。それが7色の光の粒に成り、キラキラとチヨに向かって集まっていった。
「ふわぁっ……キ・レ・イッ!」
ミサエが溜息と共に呟いた。
パッリィィィィィンッ!
「ふ~っ、魔力をかなり使ったねぇ」
「黒い首輪のシミが消えてますっ! ハーマル
「はぁ、良かった良かったぁ」
「閣下、非常識です。人間が上級光属性魔法を使わないで下さい。宗教団体に目を付けられそうです」
「はははっ、人前では使わない様に気を付けるねぇ」
「彼女のステータスを確認して下さい」
「オッケー。【鑑定】!」
ピッキィイイイイインッ!
「おやまぁ……チヨ・モチヅキさん。こんにちは」
「閣下に挨拶をしなさいっ!」
「……こんにちは」
「信濃巫女頭で飛騨上忍なんだね、スキルも凄い、【忍術】Lv10なんだぁ。 飛騨上忍って、
「あっ、今のは私にも分かりました」
「結構古いのを知ってるんだね……」
「私は今だかつて、彼女以外に【忍術】スキルを持つ者には会った事が有りません」
「そうだね、俺も本物の『くノ一』を初めて見たよ」
「彼女は第1級犯罪奴隷として登録してあります。呪いが解けたので、閣下の護衛騎士としてお側に置いて下さい」
「うむ、宰相の言うとおりにするとしよう」
「……急にしゃべり方が変わりましたね」
「うむっ、ノーランド子爵に言葉遣いに気を付ける様にと言われたのだ……今思い出したんだけどね」
「はぁ、いつもその調子でお願いします」
「うむっ」
「又、暗殺者が襲ってくると思いますから、全てのパーティが終わるまで、必ず一緒に行動して下さいね。チヨは命掛けで暗殺者から閣下を守りなさい」
「いや、命は掛けなくても……それなりで良いから」
「駄目ですっ、閣下の代わりに命を捨てなくては意味がありません!」
「……うむっ」
「
チヨが答えた。
「そうですっ、これは褒美の前渡しです。がんばればモットあげましょう」
バサッ! 薄い本がチヨの前に投げ出されると、チヨの頬が紅潮した。
「何を上げたの?」
「オーディン様〈ヤマちゃん〉から頂いたBLの薄い本です」
「あっそう……それが褒美なんだ」
ナカハラ宰相はチヨの『服従の鎖』を外して、女護衛騎士の服に着替えさせた。
「閣下、決して『隷属の首輪』を外さないで下さい。彼女は暗殺者として、とても優秀です」
「うむっ、その時は宰相に相談しよう」
チヨはミサエを憎んでるが、ユウリには萌えキュンしていた。
いつしかユウリの置かれてる現状に、勝手な妄想を重ね続けていたのだ。
ミサエもユウリの話を色々と教えてやり、そう妄想する様に仕向けた。
オゥちゃん〈オログ=ハイ〉やジュンちゃん〈ファフニール〉との関係等を話して聞かせた。
腐女子のチヨは、薄い本を書いてコミケに参加したいと今でも思っている。
ユウリを題材にして、沢山のストックを心の中に積み上げていた。
そんな時にヤマちゃん〈オーディン〉が現われた、ハーマルの冬の最初のパーティ開場だった。
「ユウリ、元気か?」
「はい、
はっ、あの男だ! チヨはスグに思い出した。
「おっ、夏コミにいた娘だな」
「ご存知でしたか」
「いい物を持ってる娘だ」
「そうなんですか」
「何か言いたそうだぞ」
「はい。チヨ、遠慮せずに言ってごらん」
「……コミケに出店したい……です」
「「はははははっ」」
チヨの頬が紅潮した。
「もう応募も締め切ってるから、冬コミには出店できないじゃろう。夏コミの応募を一緒にしてやろう」
「
「パーティの予定と重なってなければ、冬コミにも連れてってやれば良い」
「そうですね、エリナとルミナもコスプレするでしょうから、一緒に護衛として連れて行きましょう」
「有難う御座いますっ!」
チヨは、いつもの何倍も大きい声を出して礼を言った。
ユウリはチヨの行きたい所に連れて行ってあげた。
チヨが東京のアパートに帰ると、既に知らない人が住んでいた。
チヨはガックリと項垂れる。
「私の趣味がバレてしまったはずです……もう親兄弟や知人には会わせる顔がありません」
「薄い本を回収できなくて残念だったね。元気を出して! 明日はコミケだから、新刊を買い捲っていいからね。お小遣いも十分にあげるから」
ユウリはチヨを慰めてあげた。
「今日は赤坂で中華料理でも食べよう!」
俺とユキ、ルミナ、エリナ、ミサエ、チヨで食べに行き、皆で有名ホテルに泊まった。
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