第61話 くノ一

【前書き】

 望月千代(もちづき・ちよ)14代目は 信濃国望月城主望月氏〈信濃国の滋野氏〉の末裔で、信濃巫女頭です。

 彼女は幼い頃から信濃巫女頭として英才教育を受けていました。

 表向きは神事や奉納舞等を司っていますが、実情は飛騨上忍の特殊技術継承者でした。

 文献に『千代女』と表記されるのは、母と娘が同じ名前の為で、『女』はむすめを意味します。英語圏で息子に父の名を付けた時に『ジュニア』と呼ぶ事と同じです。戸籍や住民票が無く、識字率が低い時代によくある表記です。

 先祖代々、信濃巫女頭の跡継ぎの娘の名前は『千代』とされてました。


 ★ ☆ ★


 18歳になった千代は腐女子だった。長野県の高校を卒業した後、趣味の為に東京の女子大学に進学する。

 そしてコミケに参加する為に、東京のアパートで1人暮らしを始めた。


 しかし、現実は思い通りにならない。夏コミには当選できなかった。

 それでも、1人ぼっちでBLの島巡りを3日間続けて行い、満足していた。



 千代は建物の端で、1人で収穫物を確認していたが、突然彼女の頭の中で警告音が鳴り響く。

 初めて感じる危機管理予知警報が、『ビービー』と鳴り響いた。


 その警報の対象者を探すと、以外にもパッとしない見た目の中年男性だった。

 千代は、狙っていた薄い本の新刊を全て買った後だったので、興味本位でその男の後をつける事にする。


 その男の跡を付けていくうちに、何故か「只者では無い」と感じたので、気配を遮断して隠密行動を取る。

 幸いにも人が多いので、気付かれてない様だった。



 が、一瞬! 男が人の目を盗んで壁をすり抜けた。


 ズルンッ!


 千代は俊足を使い、壁の裏に急ぐ。


『関係者以外立入禁止』で、誰も居ない通路に魔方陣が光っている。

 千代は躊躇ためらわずに飛び込んでしまった。


 シュィイイイイインッ!




 そこは、知らない世界だった。

 魔物が居て、魔法が使える異世界だった。

 千代だって、異世界漫画を読んだ事がある。薄い本のBL仕様の2次作品で……。

 当然ながら、女の千代は「BLの主人公には転生出来ないわ……」と思った。


「はっ、そもそも『転生』ではないじゃない! 『転移』だわ! 『巻き込まれて転移』と言うやつだわ!」


 千代はBLボッチが永過ぎた様だ。自分の発想が残念な事に、まったく気付いてない。


「とにかくあの男を探して日本に戻らないと、部屋に散らばってるコミケ2日分のBL本を、誰かに見られたら生きて行けないわ」




 しかし、全くあの男を見つける事は出来なかった。

 そもそも特徴を覚えていなかった。

 千代はオーディン〈ヤマちゃん〉が【認識阻害】を掛けていた事すら知らなかった。


「はぁ、駄目だわ! 3日も探して歩いたのに見付からない、警告音が鳴っても魔物ばかりだわ」


 しかも、異世界で若い女1人が生きてくのは難しい。

 忍者の知識と技術を駆使しても、快適な生活は送れなかった。



「冒険者ギルドに登録して、クエストを達成してお金を稼ぐしかないわ」


 しかし、初級冒険者はクエストを達成しても、貰える金額が少なかった。

 宿に泊まる余裕も無く、野宿ばかりしている。



「これでは駄目だわ、効率良く稼ぐ為に冒険者グループに入りましょう」


 だがグループに入っても、他人と魔物を狩るのは気を使う。

 男と女の混合グループだったが、先輩の女はリーダーと出来ていた。


 時々、いや結構頻繁にイチャイチャしている。

 四六時中一緒に行動しているので、イヤでも見てしまう。

 千代をいやらしい目で見てくるメンバーの男もいて、非常に居心地が悪かった。

 生活は少しづつ向上していたのだが。



「そうだ、私は忍者だわ! 狩人では無くて暗殺が本業だわ。きっと殺し屋ならもっと稼げるはずよ」


 千代は追い詰められていた、野宿をして化粧も出来ず風呂にも入れず、

「このままでは女らしさを無くしてしまう」と思った。

 だから発想が徐々にズレていってしまった。




「ふふふっ、やっぱり私は暗殺者だったのだわ!」


 千代は裏世界の暗殺者ギルドに所属して、スグに頭角を顕した。

 忍者の技術は異世界でも十分通用する。

 いやむしろ、現代日本よりも異世界の方が役立ったのだ。




 そんな或る日、ボスから特別に声を掛けられた。


「チヨ、デッカイ依頼が入ってるのだが、受けてみるか?」


「……はい」


 対象者の名前を聞いたら、もう断る事は出来ない。秘密裏に行動するのが暗殺者だからだ。


「お伺いします」



「後には引けないぞ、失敗すればお前が消される。殺すまで帰って来れないのだ、るか遣られるかだ!」


「今更後へは引けません、うけたまわりました」



「よしっ……ターゲットは『ユウリ・ユリシーズ・ノルマンド公爵』、報酬は白金貨10枚(約1千万円)だ!」


「白金貨10枚っ!」



「支度金として、金貨5枚を前渡しする」


「はい、必ず成功して見せましょう」



 大きな仕事だわ。

 成功すれば余裕の有る生活を送れるし、日本に帰る方法を探す余裕も出来るでしょう。

 目標を良く観察して、じっくり暗殺計画を練ろう。

 失敗は絶対に許されないから。






「なんだこいつは! 一体何者なんでしょう、人間なのでしょうか?」


 神出鬼没・荒唐無稽とは、この男の事を言うのだろう。


 この地に来てから覚えたレーダーマップに、対象をマーキングしてるのだが、スグに見失ってしまう。

 散々振り回されて、やっとトロルヘイムの領主館でチャンスが訪れた。



「よし、今しかない!」


 ビッシュッ、ズバババッ、ドスンッ!

【蜘蛛の巣】で体を拘束し、【毒手裏剣】を3本ずらしながら【兜割】でクナイを撃った。


「うひゃぁっ、ついにヤッタわ!」


 ズドンッ!

 次の瞬間、チヨの背中に【麻痺弾】が直撃した。

 チヨはバタンと倒れて、体が痺れて身動き出来なくなってしまった。


「女の子は女の子らしくした方が良いよ……」


 ユウリは私にとどめを刺さずに去って行った。



「やれやれ、閣下は男にも女にもアマアマです。しかし私は違います。お前を許す訳にはいきません」


 日本のOLスーツ姿の女性がチヨを見下していた。


 ミサエ・ナカハラ〈トロルヘイム領主代行〉は、痺れて動けないチヨに『隷属の首輪』を嵌めた。

 左手に魔石を持って、右手を首輪にかざしながら唱える。


「この女を第1級犯罪奴隷にする」

 ピッキィイイインッ!


 『隷属の首輪』の魔石がピカっと光って登録が完了した。

 ミサエは、ぐったりしてるチヨの両手を鑑定クリスタルにあてる。


「ステータスオープン!」


チヨ・モチヅキ Lv20

望月千代 18歳

大学生 信濃巫女頭 飛騨上忍

人間

HP200 MP200


[パッシブスキル]

ステータスウインドウ

レーダーマップ

物理耐性Lv3 魔力耐性Lv3

状態異常耐性Lv3

気配感知Lv5 危険察知Lv5

危機管理Lv5


[スキル]

家事Lv3 調教Lv3

料理Lv3 木工Lv5

細工Lv5 鑑定Lv3

探索Lv5 識別Lv3

採取Lv5 生活魔法Lv3

火魔法Lv5 水魔法Lv5

風魔法Lv5 土魔法Lv5

闇魔法Lv3

剣術Lv5 槍術Lv5

弓術Lv5 忍術Lv10



「お前はこれから、暗殺しようとしたユウリ様に仕えるのよ。その前に私が直々に、奴隷としてのしつけを十分にほどこします。おほほほほっ」

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