第47話 針葉樹の森はトロルの棲家

 複雑に入り組んだ海岸線が続くフィヨルドを眺めながら、高台の狭く荒れた街道を、北へ向かってのんびり歩いてく。


 暖流の影響で、同緯度の地と比べて比較的温暖な気候であると聞いていたけど、9月に入ってるにも拘らず汗が流れ落ちた。


 真っ直ぐな道はほとんど無く、カーブがやたらと多い。

 街道のアップダウンを無くす為には、丘や山の裾を周る様に道を作るしかないのだろう。

 トンネルを掘るか切通しを作れば、距離と時間を短縮できるだろうし、入り江や河口や谷は橋を懸ければショートカットできる。


 石材が多く取れるらしいから、アーチ型のトンネルと橋を作ろうかな。

 インベントリーで石材を運んで、土魔法で穴を掘って整地して、繋ぎの為に石灰でセメントを作って、土台とアーチ組む。


「う~ん、たぶんこれで出来ると思うけど。始めての事だから動画でも見ながら作れたら良いのだけど、インターネットが繋がらないからしょうがないか?……あっ! 日本に戻ってタブレットに動画をダウンロードしてくれば良いのか!」



 いくつかの漁村を通り過ぎて、日が暮れたので研修所に【転移】した。


「ただいま~」


「御領主様、お帰りなさいませ」

 ビアンカが出迎えてくれた。


「照れるなぁ、ユウリで良いよ」


「いけません。御領主様お風呂にしますか? それともお食事にしますか?」


「食べてからお風呂に入ります」


かしこまりました」



 食堂に行き夕食を食べてると、ナオちゃんが抱き付いて来た。


「パパ~、何処行ってたの?」


「う~ん、お散歩してたんだよ」


「ず~っと?」


「そうだねぇ」


 菜穂子は何時の間にか、後ろに立ってるユウナと背が同じぐらいに成っている。


「ナオちゃん大きくなったねぇ」


「ユナリンも大きくなってるよ~」


「そうだねぇ、ユウナも大きくなってるねぇ」


 そう言うと、ユウナは嬉しそうに身をよじってる。2人供小学校3年生ぐらいに見える。



「御領主様、獣人族は人族より成人するのが早いのです」

 大人っぽくなった犬人族のサリナがそう言った。


「そうなんだ、犬人族は何歳で成人になるの?」


「10歳です」


「ハヤッ! サリナは今何歳なの?」


「11歳です」


「それじゃぁ、もう結婚出来るって事?」


「はい」



「ふ~ん、犬人族の男の人と、巡り会う機会を作らないとね」


「いいえ、その必要はありません」


「えっ! 結婚したくないの?」


「私達7匹の主人は御領主様ですから、他の男には権利がないのです」


「……子孫を残さなくても良いの?」


「それはご主人様次第です」


 サリナの頬がポッと赤くなった。

 どうしよう……ユキは分かってるのかなぁ?



「わたしもパパとケッコンするの~」

 ナオちゃんが、また抱きついてきた。


「ありがとね~」


(女の子はオマセさんだから、こんな感じなんだよね)



 ☆ ★ ☆



 翌日も朝食後からトロルヘイム領に【転移】して、視察の旅を続ける事にした。


「パパ~いっしょ~」

 ナオちゃんが抱き付いてきた。


「一緒に行きたいの?」


「ダメ~?」

 首を傾けて上目遣いにお願いされた。


「じゃあ一緒に行こう」


 当然ユウナも一緒である。


 街道は狭く荒れてるので、馬車でなく馬を1頭轢いて行く事にした。子供達が疲れた時の為にだ。




 3人で厩舎に行くとラナちゃんが待ち構えていた。


「旦那様、お供させて頂きます」


「子供が歩き疲れたら、馬に乗せようと思ってるのだけど」


「どうぞ私の背に乗せて下さい」


「うん、ありがとう……じゃあ一緒に行こう。トロルヘイムに【転移門】テレポゲートオープン!」


 ブゥウウウウウンッ!



 転移門を潜ると眼下にフィヨルドの谷が見えた。


「じゃあ、元気に歩いて行くよ~」


「「「オ~ゥ」」」




 楽しくおしゃべりしながら歩いていると、道がますます荒れて狭くなってきた。

 カーブと上り下りが多くなり、高い木が増えてきた。

 だんだん木の密度が高くなり、気が付くと森の中を歩いていて、川も見えなく成っていた。


「何処かで道を間違えたみたいだね、曲りくねった道で方向を誤ったみたいだ」


「パパ~、マチガエちゃったんだ~」


「うん、ご免ね。地図で確認するねぇ」


「イッパイいるところでよかったね~」


「ね~、って何がイッパイ?」


 俺はキョロキョロと辺りを見回した。



「うんっ!?」


 ズズズズズズズズッ!


 周りの木や石から、次々とトロルが浮かび出てくる。


「仕舞った! オゥちゃんが居ないのに、トロルの森に迷い込んだみたいだ!」



 後ろから身長2メートルぐらいのトロルが石鎚を振り被り、俺の頭を目掛けて勢いよく振り下ろす。


「オリャアアアアアッ!」

 スカッ!


「……アラァア?」


 トロルの石鎚が砕けて砂になり、パラパラと俺の頭に降り掛かった。

 無詠唱で【土魔法】を発動して砂にしたのだ。



「オラの石鎚が砂に成っちまっただぁ!」


野人ヤジーンゴゥ! 入るんだハイルダああオオンッ!」


 勢いのまま、無詠唱で【土人形】ゴーレムを発動する。

 俺は、黒金の巨人ロボット型ゴーレムの頭頂部にあるコクピットに乗り込んだ。


野人ヤジンガー、ダゼェェットッ!」


 グゥオオオオオンッ!



 トロル達は突然現われた黒鉄の巨人に呆気に取られている。

 俺のゴーレムの方が背が高くて、トロルの頭頂部がコクピットの下に見おろせた。


「ドカットパァァァンチッ!」


 俺はリーダーらしき、石鎚を粉砕されたトロルを攻撃する。

 別に、腕は火を噴いて飛んだりしない、只のパンチだけど!


 ドゥオオオンッ!


 右ストレートがトロルの顎にヒットした。

 トロルが膝から崩れ落ち、前に倒れて顔が地面にメリ込む。



 俺はロボット型ゴーレムの左手を上に伸ばして、人差し指で空を指す。


「サンダァァブレイ…じゃなくって! サンダァァストォォォムッ!」


 ピカピカッ、バリバリバリッ、ドドドドドォォォンッ!


 気絶する程度に手加減した雷がトロル達を蹂躙して、ほぼ全トロルがしびれて地面に倒れた。



「もう良いのかい? 俺はトロルヘイムの新領主ユウリシミズと言うんだ。 また何時いつでも遊んであげるからね!」


「ウグゥゥ……」



 レーダーマップを見て、北にある町に進行方向を修正する。と言っても、森の中で真っ直ぐ進むのは難しく、地面は平坦でも無い。


「しょうがないから、空から街道に戻ろうか。俺は自分で【飛行】するから、ラナちゃんは子供2人を乗せて飛んでくれるかい?」


「はい、旦那様」



 俺は馬姿に戻ったラナちゃん(グラーニ)の背に子供2人を乗せてあげて、俺自身は【飛行】魔法で飛んだ。


 シュィイイイイインッ!



「あっ、見えた。あそこら辺迄、飛んで行こう」


『はい』


 シュィイイイイインッ!




 俺達は川沿いの街道に戻って再び歩いた。

 馬車が通れるぐらいの道だが、離合は難しいかも知れない。


 暫くして小さな集落に入ったが、食堂も宿も無さそうだ。


「研修所に戻ってランチにしよう」


「「「は~い」」」


「テレポゲートオープンッ!」


 ブゥウウウウウンッ!


「「「「ただいま~」」」」


 直接食堂にゲートを開いて帰って来た。



「「おかえり~」」


 エリナとルミナがランチを取っていた。



「エリナこっちに来てたんだ」


「そうだよ~、3連休だからね~。お兄ちゃん領主になったんだって~?」


「うん、今も視察中なんだ」



「ど~お、何か面白い事あったの~?」


「森に迷ってトロルの集団に襲われたけど、ドカンッとヤッツケテしまったよ」


「へ~、トロルってどんな見た目をしてるの~?」


「う~ん、大きめの原人って感じかな。大きな石鎚を振り回してきたんだ」



「倒しちゃったの~?」


「命は取らなかったよ。領地内に住む領民? に成るかも知れないからね」



「食べてから又行くの~?」


「うん、行くよ」


「じゃあ、私も行こうかな~。ルミちゃんはどうする~?」


「どうしようかな~……ユウリ、もう領都に着いたの?」


「まだだけど、もうすぐだよ」


「歩くの嫌だから。ゲートで領都迄、先に行っちゃおうかな~」


「ルミナはトロルヘイムの領都まで行った事が有るんだね?」


「そうよ」



「ルミちゃんがゲートを出してくれるんなら、それで皆で一緒に行っても良いよね~?」


「じゃあ、ゲート出しちゃおうかな~」


「ルミナ先生、お願いしますっ!」


「へへへ~、しょうがないわね~」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る