第三章 異世界で領地を経営します

第46話 普通の領主ですよね?

 ホクオー国の王宮に招かれ、王族や貴族の居並ぶ前で男爵を叙爵した。



「国内を荒らした魔族と魔物を討伐し、謀反人の捕縛に貢献した褒美として、ユウリ・シミズにトロルヘイム領を与え男爵とする」


「ははーっ、有難き幸せ……」


 俺は王宮の侍従から教わった、お決まりの叙爵の挨拶を間違えずに言った。


(待ち時間が長かったので普通に暗記出来たよ)



 論功行賞が終わり謁見の間を出ると、ハーマル侯爵が話しかけて来た。


「おめでとう、ユウリくん。と言いたいところだが、実はトロルヘイムは領主の成り手の無い領地だったのだよ。

 山と渓谷、森林ばかりの広い領地に、フィヨルドの小さな港町と、川沿いの狭い平野に小さな町がパラパラと散らばるように点在している。

 前領主は地元の出身で、平民としては魔力が多めだったので領主に抜擢されたのだが。その為に領地経営は素人だったので、税収も増えず中央進出の野望を抱いたのかもしれない」


「そうだったんですか」



「ユウリくんは宿屋と雑貨屋を経営してるし、従業員も雇ってるから領地経営も出来るだろう。

 フレイヤ様の加護もあるし、魔力も多く上級魔法も使えるから期待をしているが、困った時は何時でも相談に来てほしい」


「はい分かりました」



「それと壊れた社交場とその隣の屋敷は、土地と建物ごとユウリくんに上げよう」


「有難うございます」


「いや、ワシが引き取っても扱いに困るし、立て替えても修理しても費用が結構掛かるからな。 結局、領地も屋敷も普通の人間には荷が重いので、ユウリくんに押し付ける形に成ってしまったんだ」


「はい、そうなんですか」



「まぁ、慌てずユックリ領地経営してみてくれ。国王も税収はあまり期待していないらしいから」


「はい、大丈夫です……さっそく領地を見に行っても良いですか?」


「勿論だ。前領主の屋敷もそのまま残っているが建て直しても良いぞ。前領主の物は全てユウリくんに任せるから、好きに処分してくれ」



「前領主の家族や使用人は、どうなったのですか?」


「残された家族は全員が王都に拘束されているし、使用人は全て解雇した。ユウリくんが到着するまで国の管理人を置いているが、人事は全てユウリくんが決めてくれ」


「はい分かりました」





 俺は異世界生活研修所に関わる人達に集まって貰い、男爵を叙爵して領地を貰った事を報告した。


「「「おめでとうございます」」」

 使用人達からお祝いの言葉を貰った。



「俺が貰ったトロルヘイム領は山脈を越えた北の領地で、漁業と林業が中心の貧しい領地だそうだ。農業や畜産業は、ほとんど行われて無いと言う話だよ」


「人族には厳しい土地だが、ミョルニルを持ってるユウちゃんには、とてもラッキーな土地だぁ!」

 オゥちゃん(オログ=ハイ)がそう言った。


「そうね。鉱石が豊富で、鉄・ニッケル・チタン・金・銅・アルミ二ウム・コバルト・亜鉛が沢山取れるわ。

 石灰・石材・木材等の建築材料も豊富だし。

 火山も有るので温泉と硫黄を利用出来るわ。

 ただし……ドラゴンとトロルに邪魔されなければだけどね」


 ルミナ(スクルド)がトロルヘイム領に関する知識を教えてくれた。



「オラに逆らうトロルは居ないはずだぁ」


「そうね、オゥちゃんはトロル隊の元指揮官だったわね」


「それじゃあ、あとはドラゴンに注意すると言う事だね」



「現世では『ドラゴンの巣やトロルの棲家には財宝が山積みに成っている』と言う伝説があるけど、この世界ではどうなんだろうか?」

 と、コンちゃん(所長)が疑問を投げかけた。


「どちらにも、ビックリする程有るぞ! 世界中の宝を集めたかと思うほど沢山あるんだ」

 ヤマちゃん(オーディン)が、見た事があると言う。



「所長! 財宝が有ったとしても、それは彼らの物ですから。俺は無闇に他人の物を奪ったりしませんよ」


「ユウリ、お主が魔力源泉を支配すれば、ドラゴンもトロルもお主の支配下に出来る。財宝も全てお主の物だ!」


「そうなんですか?」


「魔力源泉を支配すれば、魔力の供給先をコントロールする事も出来るからじゃ。魔力を回復する事が出来なければ、たとえドラゴンと言えども、この地を去らなければ成らないからな」



「ユウリ、海の幸も豊富です。かの地ではタラ・ニシン・ロブスター・手長エビ・甘エビが取れます。とても美味しいのですよ」


「ユキ(ブリュンヒルデ)は魚好きだったね。俺もエビは大好きだなぁ」



「じゃあ、チャッチャと魔力源泉を支配しちゃってね! ユウリッ」


「ルミナは、何処どこに魔力源泉が有るか知ってるの?」


「知ってるわよ。ドラゴンの巣の先にある、ダンジョンの最奥99階のボス部屋の中よ」


「「「ざわざわざわざわっ!」」」


 人族と侍従達がざわめいた。



「ボスはあまり強く無いって事なのかな?」


「そうね。ダンジョンのボスとしては最強だけどね」


「ボスの名前は何と言うの?」


「「「「ベヒモス」」」」


 ヤマちゃん、オゥちゃん、ユキ、ルミナがシンクロして言った。



「「「ざわざわざわざわっ!」」」


 再び、人族と侍従達がざわめいた。



「え……ルミナさんっ! ベヒモスってレヴィアタンに匹敵する程強いって聞いてるんだけど?」


「そうね。ユウリなら大丈夫でしょっ!」



「はぁ、人族の意見も聞いてみようかな……ハンスさん(雑貨屋店主)はどう思いますか?」


 俺は女神の感覚は当てにならないと思ったのだ。


「はい、人族ではドラゴンの先のダンジョン迄、辿り着く事すら出来ないでしょう」


「ベヒモスに付いては、どう思いますか?」


「ベヒモスは神の作った完璧な獣と伝えられています。戦う事など考えられません」



「え~っと、妖精族の皆さんは、俺1人でダンジョンを攻略しろとは言わないですよね?」


「ワシは冬コミの準備が有るからな……」

「私も冬コミの衣装合わせに日本に行かないと……」

「オラはトロルを抑えとくだぁ……」

「私は身重ですから……」



「もしかして俺の事、総受けだと思ってるでしょっ!」


「「「「はははははっ」」」」


 

「まあ、面白そうだから着いて行ってやろう」

 とヤマちゃん(オーディン)。


「勿論、私も行くに決まってるわよ!」

 とルミナ(スクルド)。


「ユウちゃん1人に任せられないだぁ」

 とオゥちゃん(オログ=ハイ)


「……身重だからボス部屋に着いたら呼んで下さい」

 とユキ(ブリュンヒルデ)。


「ワシも剣術の研鑽の為に行かせて貰おう」

 と信ちゃん(上泉信綱)


「みんなありがとう。ユキは赤ちゃんの為に、無理して来なくても良いからね」




 まずは転移の為の場所を確保しよう。理想は屋敷内に専用の部屋を作るつもりだ。

 領地内全ての町を回り、領民と話をしよう。初年度の住戸税を免除するつもりだ。

 道路を整備して橋を掛けトンネルを掘る。

 溜池や貯水池を作り、上下水道を引き、熱効率の良い地中に、温泉水道を埋設しよう。

 ダンジョン攻略の為の拠点施設を作る。

 港を整備して鉱物資材用の運搬船を作る。アスロ、クベンヘイブン迄輸送出来る船を建造する。

 原材料の集積所の傍に、各種の工房を作る。

 工場から船積場まで馬車道を作る。

 採取場と工房の傍に、宿と寮と大衆食堂と公衆浴場を作る。

 家畜小屋を作り、その中にも地熱を引く。

 領内の暖房は、出来るだけ地熱を利用する。

 電気は川に水車を設置して、水力発電をする。渓谷が深いので発電量は期待出来そうだ。


 そんな青写真を胸に秘めて。商隊護衛で行った事の有る港町オダルスネに1人で転移した。


 シュィイイイイインッ!



「さぁ、ここからトロルヘイムの領都迄、1人で歩いて行くぞ~! オ~!」


 カラ元気を飛ばしてみた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る