第44話 賭博場荒らし

 うわぁっ、300万円(日本円換算で)以上儲かっちゃった。


(ラナちゃん遊びだから、ホドホドにね)


(はい、分かりました)


 心の中でそう言うと、ちゃんとグラーニの返事が心の中に返って来た。



 若い女性ディーラーが、客から見えない様にルーレット玉を交換した。

 俺は【識別】【探知】【察知】スキルを発動する。

 レーダマップを拡大表示すると、ルーレット用の玉を3つ持ってる事が分かった。


「儲かってすぐめるのも気が引けるから、もうちょっと遊んでみようかな。俺も1つの数字にベットしよう」


「私も又、そうします」



 俺達は、それぞれ1箇所の数字に1枚のコインを置いた。


 ディーラーが、さっきと違う玉を投げ入れる。

 ラナちゃんがそれをジーッと見ている。

 心なしかラナちゃんの顔が、キツクなった気がした。



「ノーモアベット(もう賭けてはいけないと言う意味)」


 玉がポケットに落ちる。


「あぁっ、又ハズレちゃったぁ」


 俺はわざとらしく悔しがった。


「私もハズレました」



「う~ん、1回ぐらい当らないかなぁ」


「旦那様、私の当てたコインを使って下さいね。沢山有るから景気良くいきましょう」


「そうだねぇ」



 俺は1箇所に一気に5枚重ねて置いた(日本円でおよそ50万円ぐらい)。


「私も同じ方法で」


 ラナちゃんも、俺と違う数字に5枚重ねて置いた。



 ディーラーが玉を投げ入れる。

 それを見たラナちゃんが、俺の置いたコイン5枚と自分の置いたコイン5枚を取って、27番の所に10枚のコインを重ねて置き直した。


「ひっ!……ノーモア…ベット」


 ディーラーの声が震えている。

 壁際かべぎわの黒服が、ガタンッ! と身を乗り出した。



 玉が27番のポケットにユックリと滑り落ちる。


 ガタガタッ、ドタンッ!


 ディーラーの女性は、崩れ落ちて気絶してしまった。



(ラナちゃん!)

(ダッテェ、ズルしてますものぅ!)


(それにしても、三千万円以上になっちゃうよ! この店潰れないかなぁ?)

(潰れて当然ですっ!)



「お客様、ディーラーが失態をお見せして申し訳ありません。こちらのルーレットはディーラーがいなくなってしまったので、あちらでトランプなど如何でしょうか?」


「うん、そうさせて貰おうかな」


「はい……それではこちらにどうぞ」



(こんなに目立ったら、孤児院出身者の様子を見るどころでは無いね)


(私がトイレに行くふりをして、様子を見てきます)


(うん、頼むね)



 黒服に椅子を勧められて、俺とラナちゃんはブラックジャックのテーブルに着いた。


「こちらは先ほどの支払いコインです」


 ゲーム用のゴールドコイン360枚がお盆に載せられて運ばれて来た。

 ブラックジャックを遊んでいる3人の男性客から感嘆の声が上がる。


「「「オオオォォォッ!」」」



 黒服はブラックジャックのディーラーに目配せして、指で何かのサインを送った。


(この店1番のディーラーが全てのコインを回収してくれる)

 黒服は、そう期待した。



「ラナちゃんは俺のゲームを見ていてね、ルール分からないでしょ?」


「はい」

 ニッコリ微笑んだ。



 ブラックジャックは、21を超えない用に手持ちのカードの点数の合計を21に近づけ、その点数がディーラーを上回る事で勝ちになる。


(トラブルに成らない様に、適当に負けて店に返そうっと……)


「旦那様、ちょっと失礼致しします」


「うん、ゆっくりしておいで」


「はい」


 グラーニはトイレに入ってから、何処かに【転移】した。



 一方、気絶したルーレットの女性ディーラーは、賭博場の奥の階段から地上に出て、隣の屋敷に連れて行かれた。

 牢屋の独居坊の様な所に入れられ、別の黒服の男に折檻を受ける。


「ヘマをしやがって」


 ドカッ!


 女性は黒服によって腹に蹴りを入れられた。



「私はミスをしてません」


「うるせぇっ、360ゴールドも客に勝たれて言い訳するんじゃねー」


 ドカッ!


「あうっ」



「負けた時は飯抜きだっ!」


「そんなっ、賭け事だから負ける時もあります」


「うるせぇっ、負けない様にイカサマ技を仕込んでるんじゃねーかっ」


 ドカッ!


「あっつ」



「給料も削られ、食事も抜くなんて、ひどいっ!」


「店に儲けを入れられずに、給料が貰える訳ねえだろうがっ!」


 ドカッ!


「ううっ」



「おい、あんまり傷物にするなよ。賭博場で役に立たなかったら、売春宿に売るんだからよ」

 もう1人の黒服が言った。


「ちゃんと見えない所を蹴ってるぜ、へへへっ」


 女が涙を流しうめいてると、突然男2人が声も無く崩れ落ちる。


 ドタ、ドタンッ!


 後ろには、さっきの美人女性客(グラーニ)が立っていた。



「ご免ね、私の所為せいで痛い思いをさせて……ところで貴方は孤児院出身者なの?」


「はい。ハーマルの教会の孤児です」



「ここの仕事を続けたい?」


めたいです。悪事を仕込まれ、給料も食事も満足に貰った事がありません」



「それじゃあ、荷物をまとめて逃げましょう」


「待って下さい、あと2人いるんです。一緒に連れてって下さい」


「どこにいるの?」


「賭博場で給仕とガードマンをしています」


「分かったわ」



(旦那様、先程のルーレットの女性はハーマルの孤児院出身者でした。男達に折檻されてる所を助けましたが、あと2人の孤児院出身者が店で働いてるそうです。店から逃げ出す事を希望しています)


(分かった、そこに居る女性から残りの2人の名前を聞いておくれ)


「2人の名前は何と言うのですか?」


「クララとマリウスです。私はクレアと申します」



 俺は【探索】で2人を探す。

 マリウスと言う男は賭博場の入口で立っていて、クララと言う女性はバニーガール姿で給仕をして回っていた。

 そのクララが丁度俺に酒の注文を聞きにきた。


「お客様、お飲み物はいかがですか?」


「ありがとう」


 俺はお盆の上のカクテルを取る。



(カクテルを【識別】!)

 ピッキィイイインッ!


 何と、酒にはマンドレイクと中毒性の薬物が含まれている!

 お客を賭博場から離れられない様にする為だろう。

 もしかしたら、大量採取されたマンドレイクかもしれない。


 俺は賭博場内の酒に対して、再度【探知】【識別】スキルを無言で発動した。

 その結果、店や倉庫の酒のほとんどに、マンドレイクと中毒性の薬物が含まれている事が分かった。



 俺はその後、ブラックジャックで2回遊んで20枚すった。

 ラナちゃんが戻って来たので、黒服に声をかける。


「連れの気分が良くない(虐げられてる孤児院出身者を見て)ので今日は帰ります。コインを換金してください」

「大金ですので、お泊りの宿まで警備を付けましょう。こちらへお越し下さい」


 男は壁際の黒服達に目配せをした。


 応接室に通されると、4人の黒服達も付いてきて後ろの壁際に並ぶ。

 現地通貨で白金貨34枚(日本円換算で3400万円ぐらい)がテーブルに乗せられた。



(へぇ、こんなに現金があるんだ。さすが領都の賭博場だなぁ)


「この金で孤児院出身者3人を身請けしたい」


「ふざけるなっ! ここで死ぬお前達には金など必要無い!」


 後ろの黒服達が一斉にロングナイフを取り出した。

 しかし一瞬で、ラナちゃんの後ろ回し蹴りで全員吹き飛ばされる!


 ドガガガァアアアアアンッ!



 黒服が破れ散り、後ろの男達は2メートルのホブゴブリンに、前の男は3メートルのゴブリンジェネラルに変身した。


 俺はミスリルの短弓で、素早くジェネラルの眉間と心臓を打ち抜く。

 ビュンッ、ドガッ!


 ラナちゃんは、俺の作ったミスリルの長剣で、ホブゴブリン達の首を一閃で刎ね落とした。

 スパパパァアアアアアンッ!



「終わった……」

 と思った瞬間、ジェネラルが立ち上がる、さすがジェネラルだ。


「【流星矢】!」

 ビュンッ!


 前から使ってみたかったのだ!

 短弓からはなたれたミスリルの矢は、直径50センチぐらいの隕石になり、ジェネラルの腹に大きな穴を開ける。


 ズッドオオオォォォォォォンッ!

 グッシャアァァァッ、ドッカァァァンッ! ガラガラガラァァァッ!


 流星はそのまま賭博場の壁を突き抜け、隣の屋敷も破壊してしまった。



「うわぁっ、仕舞った。隣の家まで壊しちゃった……しょうがない、ボアズさんを呼ぼう。 騎士団詰所に【転移門】テレポゲートオープン」


 ブゥウウウウウンッ!



 俺は開いたゲートに首だけを突っ込む。


「ボアズさん、いらっしゃいますか?」


「はい、ちょっと待ってください」


 見覚えのある騎士団員がドアを開けて呼びに行ってくれた。



 すぐにボアズ騎士団長が小走りで入って来た。


「ボアズさん、このゲートを潜ってハーマルの賭博場に一緒に来て下さい」


「了解」



「うわぁぁっ、こりゃ一体どうしたんだ? 大砲でも撃ったのかい?」


「すいません、やり過ぎました」


「……これ、ユウリくんの仕業なんだね?」


「はい……事の成り行きから説明させて頂きますね…………」

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