第39話 焼肉パーティ
「ごめんよ驚かせて。だけど、僕もビックリしてるんだ」
地面にヘタリながらコンちゃん(所長)が研修生達に謝っていた。
「コン先輩、取り敢えず立って下さい。余りのスペクタルに言葉も出ませんよ」
「ご免。腰が抜けちゃって立てないんだ!」
俺(ユウリ)はコンちゃんを立たせて肩を貸して呟く。
「俺達も一緒にパーティ登録しておけば、君達にも経験値が入ったのになぁ……残念っ!」
「いえいえ、そこじゃなくて……今のはコンピュータゲームなんかじゃ無いですよね」
シゲルが懸案だった疑問の核心に触れようとしてきた。
「うん、だとしたら何だと思う?」
とコンちゃん。
「ここは本当の異世界なんですね」
「正解!はーはっはっはー!」
「「「「はぁ、はいはい」」」」
「コン先輩、最初からそう言って下さいよ! 全然隠しきれて無いですよ」
「そうです、アマアマです。どう見ても現実ですもの!」
クルミが言った。
「犬人族に触った感触が生々しかったです」
アイラが手をニギニギさせて思い出していた。
「モフモフ禁止と言っていたのに、ガマン出来なかったか~。残念」
「それで所長、これからどうしますか? とりあえず一旦研修所に戻りましょうか?」
「うん悠里くん、僕も腰が抜けちゃったし、研修生にも興奮が納まる迄ゆっくりして貰おうかな」
「じゃあ、今日は特別な日と言う事で、皆で草原でバーベキューでもしましょうね」
俺は無線ブローチで研修所に居る侍従のビアンカに、バーベキューの準備をするように頼む。
「ビアンカ、宿泊者も従業員も全員が食べれるように、草原にバーベキューを準備しておくれ」
「畏まりました」
「冷蔵庫の牛肉とオーク肉をバーベキューソースに漬け込んでおいてね」
「畏まりました」
「大判振る舞いで、バンバン焼いてね」
「畏まりました」
「ビアンカは冷静だね」
「ユウリ様、早く準備に取り掛かりたいのです」
「ご免、よろしく頼むね」
「畏まりました……」
「ビアンカは芯の強い子だな、Sっぽいよな」
「ユウリ!」
「ご免なさいっ。ユキちゃん」
「何を謝ってるのですか? それよりも、もう隠す必要はないのでしょう? 【転移門】を研修所に繋げてください」
「はい……研修所に【転移門】テレポゲートオープン!」
ブゥウウウウウンッ!
魔道術式が色鮮やかに光りながら回転して、何も無い空間が丸く裂けていく。
「ふぁ~っ、綺麗!」
アイラが感嘆の声を出した。
ゲートが大きく開き、俺達は幌馬車に乗り込んで潜って行った。
研修所では、すぐそばの草原で侍従達がバーベキューの準備をしている。
「急いで無いのでゆっくり準備しておくれ。俺達は汗を流して休憩するからね」
「「「はい」」」
近くにいた侍従達が元気に返事をする。
犬人族達は肉にテンションアゲアゲの様だった。
その日はパーティになってしまった。
襲撃事件が起きたので気分転換を計りたかったから。
「悠里君は吸血鬼の親玉に襲われても落ち着いてるな~」
コンちゃん(所長)が焼肉を盛った皿を片手に、ビールを飲みながら話し掛けてきた。
「そんな事は無いですよ。周りが凄過ぎるから、
「いやいや、弓の腕前は超一流だろう。外した所を見た事がないぞ」
「はははっ、有難う御座います」
「ところで、今年の夏コミが8月9日から始まるのだが、悠里君は日本に戻るのかい?」
「まだ決めてないです、ルミちゃんはエリナと参加するんだよね?」
「ふんっ、私とエリナのコスの前に全人類を
「はいはいっ。全人類は来ないけどねっ」
「ユウリもユキお嬢様と一緒に、見に来ても良いのよ」
「そうだね、初めてのお産だからユキの様子を見ながら決めるね」
「はっ、そうだったわね……」
「そうだ騎士団員のユングさんもバーベキューに呼んであげよう!」
「呼べば良いでしょっ!」
「ユングさんは今、何処に居るのかな~?」
「私に聞かれても知らないわよっ……でも騎士団詰所に居るみたいね」
「じゃあ、転移門で騎士団ごと招待しよう! ルミちゃんお願いします」
「頼まれたから、しょうがなく呼ぶんだからねっ……騎士団詰所に【転移門】オープン!」
ブゥウウウウウンッ!
ルミナが開いたゲートに首を突っ込み誰かと話をしている。
やがてボアズとユングを先頭に、騎士団員達がゾロゾロとゲートから出て来た。
「やー、ユウリくんお邪魔します。何も貢献してないのに御馳走になるよ」
「遠慮なく沢山食べて下さい」
「ユングさん、討伐褒章の返礼にサファイヤのネックレスを国王陛下に送ろうと思ってるのですが、見て貰えますか?」
俺はインベントリーから国王陛下への贈答用に作ったネックレスを取り出した。
「ネックレスは構いませんが、これでは価値が見合いませんよ!」
「ホクオー国ではサファイヤは好まれませんか?」
「いいえ、高価すぎるのです。このサファイヤのネックレスでは領地が買えてしまうでしょう」
「はははっ、密約の『妖精の森の不可侵条約』の返礼も兼ねてどうでしょうか?」
「それは良いかもです。今回のバンパイアロード討伐と合わせて陛下に相談してみます」
「いつも妹のルミナがお世話になっています、姉のベルダンディーです」
「ふ~ん、あんたがユウリか。
またまた新たに美女が2人も現われた。ルミナ〈スクルド〉の姉達でノルン3姉妹と呼ばれる女神様達だ。
「ユウリです、始めまして。いつもルミナ様に助けて頂いております」
「いいえ、こちらこそ。ルミナの遊び相手になって頂き感謝しています」
「今度はもっと難しいナゾナゾを用意しとくからな!」
「はい、有難うございます」
「敬語をやめろ! 出自がばれるだろうが、ウルドで良い」
「私もベルでお願いします」
「はい!」
「それよりケーキだ! ユウリの作るケーキが食べたくて来たんだからな」
「はい、今日は出し惜しみしませんので、遠慮無く食べていって下さいね」
「ユウリさん、バンパイアロードを倒してくれて有難う御座います。私達ノルン3姉妹は、何百年も彼と戦い続けてきたのです」
「直接倒したのは、妻のユキですから」
「いいえ、貴方の作った聖剣で倒されたと聞いていますよ」
「俺は普通にミスリルで剣を作っただけですから」
「あらあら、普通の剣は女神が持っただけでは聖剣には成りませんわ」
「……」
(やばい! この件は深堀しない方が良さそうだ!)
所長も研修生達もビールをかなり飲んでいる。
もちろん、ビールは日本から持って来たやつだ!
(あぁぁ、ここでは貴重なビールの在庫が無くなってしまう。トホホ)
研修生のアイラは、侍従の犬人族のユウナから離れず、抱いたり食べさせたりしてる。
「ワタシは、ナオさまの付き人なのです」
「ダイジョーブ、傍にいるから~。ヒック」
隣では、クルミが神獣のナオちゃんを抱いて食べさせている。
「この子の白銀の髪と猫耳は凄く綺麗ね、しかも凄く良い匂いがするの」
クルミがナオちゃんの耳を触ろうとすると、耳が『ピシッ』とクルミの指を跳ねつける。
「ナオちゃ~ん。少しだけ甘噛みさせて~」
「ダメ~」
「一噛みだけ~」
「ダメ~」
「ウ~ンッ、イケズ~」
「ダイブ酔ってますね」
「そりゃ~あんなの見せられたら、飲まずにいられませ~ん」
「はははっ、滅多に無いと思うけど、すいませんでした。無事で良かったです」
「だから~、ナオちゃんの耳をひと噛みだけ~、オネガイッ!」
「パパァ、このおねえちゃん、ヘン~」
「エ~ン、行かないで~ナオちゃ~ん」
俺はナオちゃんを抱き上げてクルミの隣に座った。
「もうバレチャッタのだから、少し冒険の仕方を変えましょうか。今回のドロップアイテムを皆で分けましょう。巻物はそのスキルを持ってない人にあげて、レアアイテムは欲しい者でくじ引きにしませんか?」
「「「それは良いですね」」」
皆同意してくれた様だ。
「ユウリ、この聖剣はあなたが使って下さい。上泉信綱殿に稽古を付けて貰いましょう」
「うん、そうするね。ユキには新しい剣を作って上げようね」
「はい、そうして下さい」
「あの~、聖剣を持ってみたいのですが、だめでしょうか?」
シゲルが頼んだ。
「うん、いいよ持ってごらん」
バッチィンッ! ビリビリビリッ! ガッシャーン!
「ひーっ、痛い痛いっ、シビレタ~」
「聖剣は持ち手を選ぶと言うのは本当なのね」
アイラが言った。
「俺は製作者だからね、持てなければ修理も出来ないし」
「え~、ユウリさん、もしかして勇者なんじゃないの~」
「俺はまだ剣術スキルを持って無いからねぇ」
「テル、チャレンジしたら?」
「じゃあ、良いですか?」
「いいよ~」
バッチィンッ! ビリビリビリッ! ガッシャーン!
「ひーっ、やっぱり痛いっ、シビレタ~」
「ユウリさんの奥さんは勇者様なんですね?」
クルミが訊ねる。
「私は元ワルキューレですから」
「「「「「……!」」」」」
「すご~い!」
「ほんもの~?」
「サインしてクダサ~イ」
「ユウリくん、僕にも内緒にしてたのかい?」
コンちゃんが拗ねてる。
「はははっ、言ってませんでしたっけ」
「僕もサインして貰おうかなぁ」
「サインは勘弁してください、御免なさいね。私がワルキューレだった事はここだけの秘密です。皆さんには、聖剣でバンパイアを倒す所を見られてしまいましたから打ち明けたのです」
「じゃあ、お腹の子は日本人とワルキューレのハーフなんですね! フンス」
アイラが興奮してる。
「本物の魔法少女が日本の学校に通う事に成るかも!」
「「「「「……」」」」」
コンちゃんと研修生達の目に、オタクの火が燃え上がってる様に見える。
「夏コミ! 夏コミの本を書かなくちゃ!」
とクルミ。
「俺もユキさんをモデルに魔法少女のイラストを書きたい!」
とテル。
「夏コミには間に合わないだろう。冬コミだろうなぁ」
コンちゃんが答えた。
「うんうん。ユキさんの娘が成長して日本の高校に通い、魔法少女に変身して悪と戦う……いいわね~」
アイラが1人で頷いて妄想している。
「冬コミはこれで行きましょう」
「はぁ、はいはいっ。折角のバーベキューパーティだから、今日は好きに妄想して下さいっ」
「ユキさんっ、私は北欧神話が大好物なんです」
アイラがユキに詰め寄る。
「はい……」
「特にブリュンヒルデ様に憧れています!」
「それはどうも……」
「ブリュンヒルデ様は実在するのですか?」
「はい」
「もしかして、今も異界で眠っているとか?」
「はい。いいえ、もう目を醒ましました」
「どこかの王子様が、目覚めのキスをしたのですか?」
「はい……王子様の様な素敵なひとが……」
『ポッ!』っと顔が赤くなり、ユキはユウリをチラリと見た。
「今は何処かのお城で幸せに暮らしてるとか?」
「お城では有りませんが、幸せです」
「……うんっ?」
アイラが顎に指を当て、小首を傾げた。
「ブリュンヒルデは『白雪姫』や『眠れる森の美女』の元ネタだって話を聞いた事あるかい?」
俺はアイラにニヤリと笑った。
「はぁ、あります」
「白雪姫のユキちゃん(仮)って事です。秘密ですからね!」
ユウリが手を広げてユキを紹介した。
「な……なんですとーっ!」
アイラが泣き出した、泣き上戸だったのかな?
「うぐーっ、ぐひっ、うわ~んっ!」
「よしよし」
ユキが両手を広げアイラを抱き寄せ、肩をポンポンと叩いて
「もう思い残す事はありませ~んっ!」
「だめよ、まだ若いのだから人生を謳歌しなくっちゃ」
「はい、ありがとうございますぅ。ぐひぃぃんっ」
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